side レスター
わたしには妹がいる。非常に可愛い。
父である陛下と同じ銀髪と緑色の目、女の子というだけでも、きっと可愛いのに自分と同じ色を持って産まれた初めての皇女に陛下はデレデレだ。
妹、アニスの母君、第二女性陛下はアニスが1歳になってすぐに儚くなってしまわれた。あまり体の丈夫な方ではなかったがアニスが、そろそろ立つことができるようになるか、という頃に体調を崩して、そのまま回復することはなかった。
第二女性陛下であったルナ様は、とても可憐な容姿をしていらした。社交界デビューしたときは注目の的だった。アニスは、そんなルナ様よりも可愛らしいように思う。使用人たちにも人気だ。まだ5歳なのに、考え込んでいる横顔などに色気を感じることがある。将来が心配だ。5歳熱を乗り越えた辺りから妙に大人びて心配したが可愛いのは健在だった。
双子の弟たちも甘やかすし、母陛下も女の子は楽しい、と言って可愛がっている。誰もきつくしかるようなことがない。かく言うわたしも、どうしても厳しくできない。聞けることなら聞いてあげたいのだ。だから、アニスも他の女の子たちのように我儘な女の子になると思っていた。
ところが子供の我儘の範疇を超えることなく成長している。5歳熱に罹って、だいぶ重いと聞いたときには醜いわたしが替わってやれればと思ったものだ。あのときは城全体が重苦しい雰囲気になったものだ。だが、無事に5歳熱を乗り越えた。
そんなアニスが自身のガードを決めるために騎士団の見学を始め、月光騎士団まで行った、と聞いたときは驚いた。気絶しなかったか、怖がらなかったか、騎士に失礼なことをしなかったかと思ったのに一切、そんなことはなかったらしい。
後日、月光騎士団のエドワルド団長に会ったときに聞いてみたが終始微笑んでいて、ユーリという、子供なのに既にかなり醜く大人になれば恐ろしい風貌になりそうな子を皇女の名のもとに保護することになったと言う。
知らなかった、妹は天使だったようだ。
さらに天使なアニスは、近衛の入団条件を緩和し練武会なるものを開いて月光騎士団の騎士たちも近衛になる道を作れないか、わたしのところへ相談に来たのだ。
他の誰でもない、わたしのところへだ。
可愛い天使の素晴らしい案に力になる以外の選択肢があっただろうか。いや、ない、あるわけない。
おまけにアニスは真っすぐわたしを見てくる。わたしは皇族で、皇太子だ。だが、女性の使用人は、あまり、わたしの傍へ来ない。
あからさまに無視されることはないし、貴族の令嬢の中には近寄ってくるものもいる。だが、わかってしまう。わたしを見る目に感情がないことが。
女性の視線と言えば、母以外は、そんなものだったのにアニスが、わたしを見る目は何か違う。キラキラしているというか...。可愛いもの、綺麗なものを愛でるときの目、と言うとしっくりくる。いや、わたしの顔で何を言うか、と思うだろう、わたしだって思う。
それに陛下や弟たちにくっつくのと同じように、わたしにもくっついてくる。
可愛い!どうしよう、わたしの妹がすごく可愛いんだが。
わたしのような容姿の者と親しくしていると臣下の者に批判されそうで不安だ。
いや、そんなヤツは潰してやるか...?
そうだ、そうしよう。どうして今まで思いつかなかったんだ。
兄妹なんだから仲良くして何が悪い。兄妹仲良く、と大人はよく言うじゃないか。そこに醜い者は含まれていないことが多いが陛下も母陛下も、そんな人ではない。
あぁ、アニスが一貴族の令嬢なら、とっくに婚約を打診しているのに。それこそ、外堀を埋めて肯定以外の選択肢のないようにするのに。12歳差だが関係ない。陛下と第二女性陛下だって10歳の年の差だった。問題ない。いや違った、問題だ。天使は妹だった。
近親婚は禁止されている。片親が違えばいい、とか決まりを変えてやろうか...。
話が逸れたが、天使が練武会案より難しい病院案というものを持ってきた。
保険制度というものや福利厚生という働く者を労うシステムも説明されたが、5歳の子供とは思えない発想だ。でも天使だからな。そんな発想もできても不思議ではない。さすがアニス。わたしの妹。
なかなかに難しい案件だが、もちろん力になるとも。
大きな問題は予算と薬師か...。
予算は病院建設以外はアニスの言う保険制度を使えば何とかなりそうだ、不足分は、これからの予算案に組み込めるようにすればいい。薬師は皇宮薬師長とも話し合わねばならないな。
わたしは思考の波に身を委ねた。




