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病院を作ろう



暇なのか?皇宮薬師長の細い顎髭のおじいちゃん(ダッツさん、平民出身のためファミリーネームはない)は、にこにこと対面に座ってお茶を飲んでいる。

そして、周りにも5人の皇宮薬師がいて、同様にお菓子を食べ、お茶を飲んでいる。


「で、おじいちゃん、話は、わかってもらえた?」

「もちろん理解しましたとも。アニス様の素晴らしい着眼点、皇宮薬師長なぞ務めているじじいが、その足元にもおよびませんぞ」

んなわきゃない。

ところで、このおじいちゃん、平民出身なのに、ここまで出世したのは、ずばり顔だ。いや、実力もあったとは思うが、当時、城中の女性という女性を魅了したのだとか。

それは先代皇帝である祖母も同じだったらしく、祖母の推しがあったため、ここまで出世したとか...。貴族に叙爵(じょしゃく)される話もあったらしいが本人が強く辞退したため、身分は平民のままだ。

気さくな人で、優しいおじいちゃん、て感じの人だから良かったが、これが悪いヤツだったらどうなっていたか...。本当に、この世界の顔面至上主義っていうか世界的な唯美主義(ゆいびしゅぎ)、なんとかならんか。

平民なのだから、ということで、基本的に腰の低いおじいちゃんなのだが、わたしに「おじいちゃん」と呼ばせるのは如何なものか。


「検証の後、脱水症というものを広めるのは難しいことではありません。薬師の組合から広めていけば、数か月のうちに全国民が知る一般的な知識となるでしょう。ただ...」

「ただ?」

「脱水症に水属性を持つ者が水分を補給する、というのが少々難しいかと...。というのは、まず水属性を持つものが国内に、どれほどいるでしょう。宮城(きゅうじょう)には、魔力を持つ者が集まりますから、それなりの数がいると思いますが、水属性を持ち、他者に水分を補給するだけの魔力と技術力を持つ者、というと、我が国には現在、アニス様御一人」

「え!? なんで?おじいちゃんも、さっきできたでしょう?」


見た方が早い、ということで、説明のときに、やって見せて、水属性を持っていたおじいちゃんにも乾いた土に水が染み込むことをイメージしてやってみてもらった。

点滴なんて、この世界にないからね。

さすが皇宮薬師長、というべきか、おじいちゃんも、すぐできたのだ。

なのに、わたし1人とな?


「アニス様は魔力が減った感じがほとんどないようですが、わたしの魔力量では2、3人に補給すれば尽きてしまいます。今も、まだ魔力が戻った感じはしません。現在、そのような治療ができるのは現実的にアニス様だけでしょう」


マジか。なんてこったい...。


「他にも問題がございます。女の子は平民でも、薬師に診てもらうことができます。ですが、男の子は難しい。男の子の死亡率は女の子より低いとは言え、必ず助かる、というわけでもありません。今でさえ、そのような状態なのに水属性を持つ者から補給してもらう治療など、平民では、まず受けられないでしょうな」


そうか、男の子は、そんななのね。


「それに、アニス様は御存知ないかもしれませんが、平民の女の子は治療を受けさせてもらう代わりに婚約者を決められることがあります」

「婚約者?」

「そうです。援助してくれる貴族、裕福な商人など、ときには薬師から婚約者となることを要求される。そんなことを助長することにもなりそうでしてな」


考え込むわたしをどう思ったのか、おじいちゃんは気の毒そうな顔をして言った。


「薬師の横暴には治療の上での規則を設けているのですが、合意の上のこと、と言われては、なかなか処罰も難しいところでしてな...。力不足で申し訳ありません。水属性を持つ者による水分補給は極秘事項として、水分の摂取を勧めるに留めた方がいいでしょうな」

「それはダメ」

「ダメ、ですか...」

「助かる確率が上がるとわかっているのに、それをしないなんてダメよ。.........病院」

「病院?」

「そう!病院の設立よ。そんな交換条件みたいなことが必要ない病院を作ればいいんだわ!そこに大勢の薬師と水属性を持つ者を集めて一斉に治療するの。魔力の回復は...おじいちゃん、薬師でしょ。魔力回復薬みたいなのないの?皇宮薬師は新薬の開発も管理しているのでしょう?」

「魔力回復薬...、昔の書物の中で見たことがあったような...。まぁ、魔力と水属性を持つ者のことは置いておくとしても...。薬師を集めるというのは、薬師の反発がありそうですな」

「反発?どゆこと?」

「薬師は大抵が一人で独立した薬房(やくぼう)を経営しておりましてな、病院というものができたら廃業を心配しなくてはいけないでしょうな。病院の診療価格が高いならいいのですが低く設定されると、高い薬師のところには患者が行かなくなってしまう。それに病院で働くということは現在やっている薬房は廃業することになりますな。そうすると、これまでより収入が下がる場合、はたして素直に言うことを聞きますかな」


うーん、難題が山積みに聞こえるぞ。

前世の保険制度とか取り入れて、病院に勤めるメリット、例えば福利厚生とか?そうゆうので何とかできないかなー。保険の知識なんてザックリとしかないよ?前世のわたし、何してたの。難しいことはわからないんだけど。

とは言え、わたしが諦めたら病院システムは構築されず、援助の交換条件的な婚約者のことも、5歳熱に苦しむ子供全員を助けることも何も解決しない。


よし、こんなときはレスター兄様に相談だ。





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