第三話 邂逅
やっと続編が出ました。
多分誰も続編など期待してないでしょうが、これからは定期的に更新できるかもしれません。
「・・・んで、賢者になれってその夢の中で女の子が言うたんか」
女性は頷きながら、俺の話をめちゃくちゃ真剣に聞いていた。
・・・俺は女性に、これまでのいきさつを交えながら、異常に魔力が高い理由について話し始めた。
俺が死んで謎の空間で謎の女の子に会ったこと、そこで賢者として転生する流れとなったこと、転生してからなんとかここへたどり着いたことなどを伝えた。どうせ信じてくれないだろうと思ってたら、前にも同じような流れでここへと来た転生者が何人か居たそうで、結構真剣に聞いてくれた。もっとも、俺が死んだ理由や、俺がオ〇ホを持ってきたことの説明は省いたが。
「なるほど。ウチが今まで会ったことある転生者もみんな同じ女の子を見とるんやが、あんたはそこで賢者になれと言われたんか、賢者の才能を持った転生者が来るんは初めてのケースやで。それに、賢者自体、この世界じゃ10000人に1人なれるかなれんかの超レアケースやしな。ほら、後ろ見てみ」
言われるがままに後ろを振り向くと、多くの冒険者たちの一団がこちらに好奇の目線を送っていた。
腰を低くし、愛想笑いをしながら冒険者グループに低く礼をし、女性のほうを向きなおすと、女性は声を低くして言った。
「賢者ってな、めちゃめちゃ魔力があるうえに、回復魔法バンバン覚えるから、めっちゃ冒険者たちに重宝されるねん。戦いになっても後ろでひたすら回復魔法唱えとるだけでええし、万一の時も守ってもらえるし、かなり得な役職やで。やから入るパーティーは慎重に選ぶとええで。冒険者パーティーもいろいろなパーティーがあるからな」
「パーティーって・・・どんな感じなんすか?その、具体的には加入方法とか、儲けとか」
「加入は加入書類をここのギルドに何枚か出したんでええ。新しいパーティーを自分から作るときはパーティー名とメンバーとリーダーを決めて、同じく書類を何枚かここのギルドに出すだけや。パーティーのリーダーになったらパーティーカードっていう札をもらえるんやけど、詳しいことはいざ作るときに担当の店員に聞けばええ。あと、パーティーの人数に特に決まりはないけど、基本3~5人やな。パーティーの人数に決まりはないから、2人や6人とかのパーティーもあるっちゃあるけど、メンバーが少ないと戦闘に苦労するし、逆に多すぎても収入の取り分が減るし、やっぱ4人が一番ええんちゃうの」
穂高はここで初めて、RPGのパーティーが基本的に3人から5人で編成されてる理由が分かった。なるほど、冒険者パーティーっていうのも割と考えられた人数になってるんだな。
「なるほど・・・じゃあ自分はオーソドックスに、3人パーティーに加入させて貰って、4人パーティーとしてやっていこうかな」
「ま、あんたはかなり役職がレアやから、鍛えればかなり強くなれると思うで。上手くやれば上級パーティーの一員に仲間入りも夢やないで!」
「そ、そういうもんなんすかね・・・」
「せや!一流のパーティーに入ったら、めっちゃ儲けれるで!・・・まあその分、いっぱい働いて、国が有事の時、国のために尽くさなあかんけどな」
・・・そんなに現代社会と変わらないな。まるで電通じゃん。高給貰って休みも多い仕事なんてないのか?
心の中でちょっと悪態をつきつつも、まだ気分は上々だ。
「まあ、結構大変そうですけど、うまくやっていこうと思いますw」
「お、もう行くんか!まあ頑張りや!さっきも言ったように、ギルドに加入するときになったら、またここ来て加入の手続きしてや!ほなな!」
「まだ色々聞いてないこともありますし、近いうちに来ますよ!」
習うより慣れろ、俺は女性に感謝を告げ、ひとまずカウンターを後にした。説明はさっきので十分頭に入ってきたし、日没までに泊まる場所くらい確保しときたいしな。
自分のステータスが書かれている紙と冒険者手帳を持ち、さっきまでいたカウンターを後にした。
それから3歩歩む間もなく、俺は冒険者と思わしき男に声を掛けられた。男が着ている露出の強いジャケットからは、鍛え上げられた鋼の肉体が伺える。
「おいあんた、賢者だって?凄いじゃないか!わが「紅龍連合」に入らないか!?」
・・・声がでかい、体がでかい、態度がでかいの三拍子に思わず圧倒されるが、悪い奴ではなさそうだ。ただ、恐らくゴリゴリの体育会系だろうな。松岡修造みたいな感じの。
「ああ、君の誘いはありがたいんだけど、まずは色々見てから考えようかなって思ってるんだ」
「ハッハッハ!まあそれが良いだろう!見たところあんた、ステータスは上々だ!ウチで鍛えたらそれこそーーうおっ!?」
「あんた、グレッグのパーティーはキツいしクサいし儲からないから、絶対入らない方が良いよ!ウチのパーティー「海の民」はその点全てカバー済み!」
鮮やかな色合いの服に身を包んだ女性が現れ、巨漢を突き飛ばし、早口で言った。
「うるせー!レナの奴、ちょっと俺のパーティーよりランクが良いからって調子に乗りやがって!」
「ヒューヒュー!良いぞ!ラブラブ~!」
猛りながら叫ぶ巨漢をやじ馬たちが茶化し、酒場の中は異様な熱気を発しだした。
「あんたら、うっさい!!!誰がこんなゴリラみたいな奴と!」
「あ~!?ゴリラと言ったなこの野郎!自分ひとりじゃ補助魔法しか使えねえくせによぉ!!」
「おっ!グレッグが久々に的を得た反論をしてるぜ!返す言葉が見つからねぇな!!」
「・・・なんか俺もごく自然に侮辱された気がするが!?」
口論は次第に勢いを増し、いよいよ俺は何もしていないのに蚊帳の外へ放り出されてしまった。全くなんだこれは・・・小学生の喧嘩よりもタチが悪い事になってきたな。これじゃまるで国会じゃないか。多数決で自分の意見が通らなかったから「民主主義の敗北」とか騒ぎやがって、あいつらマジで何なんだよ。賛成多数の意見が通るのが民主主義なんだから、それに文句言うなよって感じなんだが。
現代社会にアイロニーを投じつつ、口論が過熱する酒場を抜け出そうと入口へ向かう。
騒いでいる一団を抜け、出口へ向かおうとすると、和服にも似た服を着た、落ち着いた感じの男が話しかけてきた。
「きみ、あいつらはあんな感じでバカばっかやってる連中だが、みんな悪い奴じゃないからあんまり嫌いにならないでやって欲しい。それに、きみはこんな能力があるんだし、自分でパーティーを作ってみるというのはどうだい?冒険者も多く集まる街だし、多分こんな調子じゃメンバーもすぐ集まるよ。他にも色々言いたいことはあるが、まあこれだけにしとくよ。とにかく、慣れない世界だと思うけど、頑張れよ。」
「あ、ありがとうございます!パーティーの立ち上げも考えてみます!」
落ち着いた感じの男に励まされ、背中をポンと軽く叩かれた。確かに、このギルドの人々は、元居た世界より、どこか明るくて、団結している気がする。まあ、俺が元居た、人との直接なかかわりを重視しなくなった社会がおかしいのかもしれないが。
初対面の男に思わぬ形で励まされ、晴れ晴れとした気分で玄関を開け、ギルドセンターを出る。
新鮮な空気を深呼吸しながら空を見上げると、まだ太陽は当分沈む気配はない。吹いてくる風はどこか気持ちよく、この異世界の街を一人で散歩したい気分にさせてくれる。
「2~3時間くらい街をぐるっと歩いたら、戻ってくるかな」
独り言をつぶやき、歩き出す。さっき見た地図だと、この町は結構大きな町だが、主要な施設は殆ど町の中心部にある印象を受けた。町を少し見て回って、騒ぎが収まったころに戻ってきて、また色々中を見て回ろうと思った。
大勢の人が行き交う大通りを引き返し、噴水広場に出る。
先ほどざっと見た地図をみつけ、もう一度見返してみる。
町長の家、ギルドセンター、教会、商工会、宿屋、銀行、武器屋、防具屋、よろず屋、骨董屋、薬屋など、RPGで見る類の店は全て町の中心部に密集しているようだ。花畑や馬小屋など、他にも気になる施設は大量にあるが、とりあえず今日は中心部を散策してみることにした。
大通りをすこし南に行くと、通りの両側に、商店が大量に出ているのが見受けられた。インドの屋台をテレビで見たことがあるが、まさにあんな感じでごった返している。店舗や屋台、行商など、売り物も武器や防具、薬品、装飾品から、某フリマアプリでよく見る転売屋のような店まで、よりどりみどりだ。
だが自分には、まだモノを買う金も無いので、さっさと人だかりを抜け、市を離れた。また金が手に入ったら、ここにも多分お世話になることだろう。
大通りを引き返し、噴水広場に再度戻り、こんどはさらに北側を目指した。露店でにぎわう南側とは打って変わって、教会や騎士団の詰め所、銀行、宿屋などが多く、落ち着いた雰囲気だ。たまに飲食店もあって、店の前に出ている料理の手書きイラストが、食欲をそそる。
教会は入り口が解放されており、どなたでもご自由にお入りくださいいったと張り紙がなされている。
折角なんで入ってみると、中では神父が分厚い書物を読みふけっており、シスターがピアノの手入れをしている。通路わきの長椅子には、ところどころ腰かけている人がいる。教会内はとても静まり返っており、どことなく空気も綺麗に思えた。
他にも色々と街を見て回ろうと思ったが、主要なスポットはほとんど回ってしまったようだ。
体感ではまだギルドセンターを出てから小一時間ほどしか経っていないように思えるが、まあいいだろう。多分もう口論も収まってるだろうと思い、ギルドセンターに戻ることにした。
「・・・また来た道を戻るのかよ・・・」
思えば今回の探索で、穂高はいちいち噴水広場に戻ってから色々なところに出かけていた。
噴水広場にあった地図を思い返して見ると、大通りからも色々な通りが伸びていて複雑に区画を形成している。道を覚えてしまえば町内の移動は楽になるだろう。
「今は噴水広場より少し北にいるから、こっちの通りを行けば多分ギルドセンターに戻れるな」
そう独り言をつぶやき、大通りに交差していた通りを行くことにした。
大通りよりは幅は狭いが、人はまだたくさん見受けられるし、最悪迷っても聞けばいい。
そんなこんなで少し通りを行く。自分は今北東にいるのだから、すこしここから南に行けばギルドセンターのある通りに出られるだろう。
少し行ったところにある十字路で、南に曲がる。十字路の東南に建つ、ひときわ大きな建物が印象的だ。入口の門はしっかりと閉ざされ、ピエロみたいな服を着たオッサンが門番をしている。明らかに他の建物とは格が違う施設だろうと思った。
この建物、一体何なんだろう。こんなところにこんなデカい建物があるなんて、広場の地図には載ってなかった。重要な施設なら地図に載せても良いと思うのだが。それとも地図に載せられないほど重要な施設だったりするのだろうか。
「おい、お前!」
「うわっ!」
施設の前を通り過ぎようとしたら、ピエロみたいなオッサンにいきなり声を掛けられ、一瞬固まってしまった。他の人たちは普通に通り過ぎてたから、自分も大丈夫だと思ってしまった。
オッサンに距離を詰められ、たじろぐ。建物をジロジロ見てたから怪しまれたのかもしれない。
「お前、この建物をさっきからずっと見てたろ、俺にはお見通しだぜ」
オッサンが続けた。マズいことをした気分でさっさと逃げ出したい気分だが、逃げ出したらいよいよヤバいことになる気がする。それに、自分は悪いことはしてないんだから、変なふるまいはしない方が良いだろう。ここで逃げてスパイ容疑なんて着せられたらたまったもんじゃないしな。
「お前、この建物の中に入りたいんだろ?俺には分かるぜ。でもお前、一人じゃ心細いってタチだろ、俺が一緒に中まで行ってやるよ」
そう言うと、オッサンは腕を回し、肩に絡みついてきた。
「うわっ、やめ・・・ぐっ」
オッサンを振りほどこうとしても、オッサンに手を押さえられて無駄だった。おまけに口まで塞がれてしまい、完全にオッサンのなすがままだ。
「なーに、初めてじゃ緊張するが、直ぐに慣れるさ」
一体自分はこれからどこに連れていかれるんだろう。この調子だとヤクザの手下か?それとも地下帝国行きか?冷や汗が溢れ出るのを感じた。
オッサンは入り口の門を開け、建物の扉に向かって一歩一歩、歩みを進めていく。
そしてオッサンは、俺を押さえたまま建物の扉を片手で開け、俺を建物の中に思いっきり押し込んで、扉を閉めた。
ありがとうございました。
次回、作品の核心となる部分に入っていきます。