第二話 ギルド
オ〇ホと共に異世界にやってきてしまった女川穂高。
ギルドセンターで冒険者登録をしようとする回です。
川の水でびしょびしょになったオ〇ホを見つめながら、俺はしばらく考え事をしていた。
自分は女川穂高。しがない16歳の高校生である。…いや、高校生と言っても、高校なんてここ一か月の間行っていない。世間一般では俺みたいな奴のことを"引きこもり"と侮蔑の意味を込めてそういうらしいが、こっちだって引きこもりたくて引きこもっているわけではない。思う事は色々あるのだが、今更どうでもいいことだろう。
まあそんなこんなで俺は、16歳にして人生を棒に振り、アニメとゲームと自〇行為漬けの怠惰な毎日を送っていたわけである。
…が、つい先ほど、体感時間で30分ほど前の事である。
自〇行為を一日に10回以上しないと落ち着かない自〇中毒者と化していた俺は、たまのバイトでコツコツためた金で、今日の為にオ〇ホを50個買いこんできた。おそらくこんなことを思い立つのは俺くらいしかいない。いや、思いつく奴はいるかもしれないが、実行する奴なんてそれこそ俺くらいしかいないだろう。まさに空前絶後の試みである。ギネスのスタッフやギャラリーのかわいい女の子に俺の雄姿を見せてあげられないのが甚だ残念でならなかった。
俺がそんな行為をするに至った目的は無論、限界への挑戦である。
人は一日何回イケるのか。その限界を確かめるべく、昨日の夜、前述のとおり、近くのド〇キでオ〇ホを50個箱買いした。東京オリンピック中止が決まった数年前なら違法であったが、今は世間を騒がせた中国初の悪性ウイルスも、密になる施設の入場制限も、オ〇ホの年齢制限も駆逐され、これまで抑圧されてきた反動か、経済は自由な方向へと傾いていたところだった。学生と言う高尚な身分で夜十にド〇キに行って、オ〇ホを箱買いしても何も言われないのだから幸せである。
この日の為にオ〇禁を一週間も続けてきた俺は、チャレンジを成功させる自信は十分にあったのだが、チャレンジを始めて15時間が経過し、順調なペースでチャレンジが進んでいた頃、突然俺は死んでしまった。
どうやら俺は現世で"神々の掟"っていう完全事後法的、いわば後出しじゃんけんのような取り決めに引っかかって、この世界への転生を余儀なくされたらしい。
先ほど見たところこの世界は中世ヨーロッパ風の街並みであり、生活水準は前の世界と比べて劣ってこそいるが、そこそこ町並みは綺麗だ。
魔法が使えて、魔王が存在するという二点がこの世界についての事前情報なのだが、それ以外はこの世界について、まだ何も知らない。
「…どうやら、ここからは自分の力で乗り越えていくしかないってことか」
重い腰を上げ、オ〇ホをズボンのポケットにしまい、立ち上がる。ここからは自分のRPGの知識を駆使し、この世界に順応していくしかないだろう。
となると、まず最初に思いつくのがギルドセンターだ。この世界のギルドセンターがどんなことをしているか、そもそもそのような施設がこの町にあるかなんか知らないが、とにかくは動く必要がある。
「あの、すみません、ギルドセンター的な施設って知ってますか?」
ちょっとした通りに出た俺は、何人か通りを歩いている人の中から、一人で歩いていたお兄さんに声をかけた。
「ああ、ギルドセンターね。この通りを向こうにずーっと行けば、町の中心部の広場にたどり着くから、そこからは地図や標識を見て進むといいよ」
「ありがとうございます…」
お兄さんが親切に教えてくれた道を進んでいくと、徐々に人通りが多くなってきた。それに伴い、露店の数も増え、賑やかなムードが増してきた。
賑わう人々を横目に通りをもう少し進むと、巨大な噴水のある円形の広場に出た。
噴水の下では多くの人々が何やら立ち話に花を咲かせている。
広場の一角に町の地図があった。それを見る限りだと、この町はどうやら駆けだし冒険者の町にもかかわらず結構大きい町なようだ。
いびつな円形の砦に囲まれたこの町は、中心部の噴水広場から東西南北に4つの大きな通りが出ており、その4つの大通りからいくつもの小路が分かれており、中心部には店舗や住宅が密集していることや、北部に住宅街が、西部に貧民街が広がっていることなどが見て取れた。自分はどうやらかなり町の南の方から来ていたようだ。
「えっと…ギルドセンターはと…」
地図を一通り見まわして、ギルドセンターを見つける。大通りを東に少し行けばいいようで、ここからそう遠くない。
地図の情報を頼りに大通りを東に進むと、ほどなくしてギルドセンターに辿り着いた。周囲の赤い三角屋根の家とは異なり、このギルドセンターは平らな屋根を持った2階建て建築である。
「失礼しまーす…」
恐る恐る扉を開けると、まだ外は明るいのに、中は結構暗く、ぱっと見、酒場のような印象を受ける。
まあ、これはこれでイメージ通りと言っちゃイメージ通りなのだが。
椅子に腰かけ、円形テーブルを囲って語らうたくさんの冒険者パーティー左右に見ながら、前に見えるカウンターへと進む。
「兄ちゃん、見ない顔やね。ここ初めてやろ?」
「あ、はい…その通りですけど…」
いきなりカウンターにいた緑髪の女性が話しかけてきたので、とりあえず返事をした。
「あー、新規冒険者の登録ならウチがするで。この町はいろんな境遇の人が訪れるしな」
そういってカウンターの方へ手招きしてきたので、そのまま俺はカウンターの前に来た。
「お客さん、アンタ転生者やろ?この世界の人間で黒い髪をしとる奴なんてほんの一部しかおらへんし、何よりもその服装が転生者独特のものやからな?」
いきなり女性に素性を言い当てられて驚いた。確かにここまでの道のり、黒い髪の人間を全くと言っていいほど見なかったが。
「確かにそうですが、俺が転生者だからってどうするんすか?」
「いや、特にないよ。ただ、あんた、転生してきてそんな時間経ってないやろ?この町やこの世界について全く知らんやろうと思ってな、折角やから登録ついでに教えたるわ、何でも聞いてな」
マジか。結構いい人そうだ。やっぱ文明レベルが違うと人とのつながりもこう積極的になるものなんだろうか。とにかく話しやすい人でよかった。
「じゃあ、まだ冒険者手帳も持ってへんやろうし、冒険者手帳の発行から始めるで。この機械の上に手ェ置いてや。」
そういって、女性は自分が取り出した箱型の茶色の機械の紋様の上に手を置くふりをした。
自分も恐る恐る手を差し出し、機械に手を置いてみた。
手を置いてしばらく経つと、機械の紋様部分が一瞬青く発光した。
「うおっ」
「あ、そんな怖がらんでも大丈夫やで。これで終了や。3分くらい待ったらデータが出るから、後はそれをもとに冒険者手帳を作るで」
女性に言われ、機械から手を離すと、女性は機械をカウンターの下に降ろし、腕を組んで話し始めた。
「ほな、この町やこの世界のことについて、ちょっと教えたるわ。この世界は、もう百年ほど前から、魔王軍とうちら人間に分かれて戦い続けてきたんや。最近は互いに大きな衝突は起こってないけど、いつまた再発するか分からんから、ちょっと怖いわな。この町は湖を挟んで王都の反対側にあるんやけど、王都から魔王軍との戦線までは、馬に乗って1日あれば着けるような距離しか離れてへんし、本当ここも気をつけた方がええで。」
「なるほど・・・じゃあここは必ずしも安全じゃないってことっすか」
「せやな。最後の大きな衝突は今から10年ほど前やけど、ここ数年は向こうが迫撃砲を撃ったり、こっちが矢を射かけたりと、互いに威嚇しあっとる状態やな。
まあこのまま何事もなければええんやけど、実際問題そうはならへんやろなぁ。多分この町のみんなも、おんなじ不安抱えて生きとると思うで。」
女性は一通り言い終わると、少し息をついて続けた。
「ま、今言ったのが自分たちがおるゼーランダ大陸の現状や。続いてベールズ大陸はこのゼーランダ大陸と一番近い大陸で、この大陸をずっと南に行けば岬から船が出とるで。
船に乗って少し海を渡れば行けるで。観光都市グランデには、魔王軍の恐怖から逃れたい世界中のセレブや、脱税で金をちまちま節制してきた一般人がウヨウヨいるで。
白いビーチに青い海、さわやかな街並み、巨大カジノ、酒が飲み放題のビアガーデン・・・誰もが一生に一度は夢見る楽園や」
女性は、目を瞑って楽しそうに話している。その瞼の裏には先ほど言った景色が浮かんでいるのだろう。生活水準が現世より低いこの世界の住人にとっては、そこがどれだけ夢の詰まった場所かという事を想像するのは容易かった。
そして、それは自分にとっても同じだ。これからずっとこの世界で生活していくのだから、一度は行ってみようと思った。
「なるほど・・・俺も行ってみたいなぁ・・・!」
独り言とも語り掛けともつかない風に言うと、女性はカッと目を見開いて続けてきた。
「せやろ!でもあそこ、めっちゃ一泊高いねん。それでも皆行きたがるんやし、ええ場所よなぁ~、あと何年ここで働いたら行けるんやろ」
「えっ、そんなに働かないと行けないような場所なんですか?」
「ちゃうねんちゃうねん!あんな町、一泊じゃ楽しめんで!ウチは最低でも2週間は居たいんや!!それに・・・!」
女性はどんどんボリュームを上げて話す。周囲の人々の何人かが女性に目を向けるが、それでも女性はお構いなしだった。
「ま、まあちょっと落ち着きましょうよ!ほら、その大陸には、他には何があるんすか?」
流石に恥ずかしくなった穂高がなだめると、女性は落ち着いたようで、大きく咳払いをしてから続けた。
「はぁ、はぁ・・・。すまんな、ちょっと一人で盛り上がってもうたわ。ごめんな」
いやいや、大丈夫っすよ・・・と穂高が言いかけると同時に、茶色の機械からチーンと音が鳴った。
「おっ、あんたの冒険者データができたみたいやな。どれどれ、どんな感じなんやろか」
女性は機械側面の蓋を開けると、中に入っていた紙を取り出し、カウンターの上に広げた。
「よし、これがあんたの現時点での冒険者データや。まず順にみていくで。左上のここが主要ステータスや。攻撃力68、防御力72、スピード60、賢さ74で、レベルは18や。転生者としてはまあまあ、良くもなく悪くもない数値やな」
女性に言われて正直ほっとした。現世ではだらしない暮らしをしてたから、正直この辺の項目には自信がなかったが、普通程度あればそれでいい。
「次はサブステータスや。体力108、魔力は・・・はっ!?!?」
指でなぞりながら情報を読み上げていた女性は、いきなり素っ頓狂な声を上げ、紙を持ち上げた。
「うわっ、いきなり何すか!!びっくりした!」
周囲の人々が再び何事かとこちらに視線を送るが、そんなことはつゆ知らず、驚きを顔中に表しながら紙を見る女性。もしかしてこれは・・・と思いながら恐る恐る聞いてみた。
「あのー、どうかしましたか?もしかしてですけど、魔力がめっちゃ高いとか・・・」
穂高がそう言うと、女性は勢いよく紙をカウンターの上に戻し、そのままのボリュームで続けた。
「あんた、めっちゃ魔力高いやん!!!一体何したん!?」
女性が言い終わったとたん、後ろのほうから「え?マジ?」「しかも転生者が・・・?」といったやじ馬たちの声が聞こえてきた。
「あー、ちょっと、落ち着いてください!!それにはいろいろ訳があって・・・」
「ほ、ほ、ホンマか・・・?ま、まあ慌てんで、落ち着いて話してみ」
「自分は全然慌ててませんよ、むしろ慌ててるのあんたのほうでしょ・・・」
いまだに混乱している女性を落ち着かせ、俺はひとまず、これまでのいきさつを説明することにした。
全然続く気がしませんが、ようやく二部目です。
やる気と時間があまりにも足りませんが、とりあえずはまだ続く予定です。