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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第七話  お迎えに

 走って走って、双子を見つけた辺りまで戻って来たが当然居ない。切った鎖は持ち去りでもしたのか無く双子がいた痕跡は擦れた木にしかなかった。

 仕方なく周辺をぐるぐると暫く走り回っていると探知の魔法にそれらしい反応が引っかかった。


 今は移動していない様でその場から反応は動いていない。


 そのまま近づき草陰から双子なのか確かめて見るとやはりあの双子で、うるさかった方は眠っており今はあの治療した方が辺りを警戒しながら休んでいた。


 レナはあまり刺激しないようゆっくりとわざと音を立てながら双子の前に姿を現した。


 もちろん起きていた方は即座に仇を見るかの様な目付きでこちらの様子を伺う。


「あまり信じてもらえないだろうけど、私はあなたたちを保護しに来た。あなたは気絶してたから分からないでしょうけど治療したのは私よ、そっちの寝てる子に確かめれば分かる。

 詳しい話が聞きたければついて来て、暫く時間あげるから2人で相談して。

 私はここにいるから」


 レナはそれだけ伝えて近くの木に寄りかかり目を瞑った。

 あまり見ていると監視されているように刺激を感じるだろうと考慮しての事だった。


 すぐに片割れを起こしたようでごにょごにょと話し声が聞こえる。時折大きな声を出している事から何かしら意見が割れているのだろうとため息をつく。


 そうして暫く待っていると相談が済んだのか近づいてくる音がして目を開ける。


「保護されるか、まだ決まっていませんがとりあえずあなたのお話を聞きたいと思います」


 警戒の視線が和らぐ事はなかったがまずは連れてくる事は出来そうでレナはまずは最初の難問をクリアしたと安心した。


「そう分かった。

 ……所で、はぐれないよう手を繋いで走ってついてくるのと抱えられるのどっちがいいんでしょうね?」


「「えっ……」」



 2人は嫌な予感を感じたーーーー




「うわああぁーーっ!!!」

「!!!!!」


 最初2人はレナに全くついて行けず、仕方ないと手を引っ張って連れて行ってもらうことにしたのだがレナの走る速さを見るのと、実際に手を引っ張られてそれを経験するのでは全く違う。


 力が強いという妹はまだしも上の方の子は速さに耐えられず脱臼をしそうにーーした。


 結局2人を両脇に抱え、舌を噛まないよう食いしばるように注意をして走り出したのだが騒がしい。


 途中落としてやろうかなどと不穏な事を道中考えることもあったが、レナは我慢しつつ途中小休憩を挟みながらも夕暮れには家に辿り着いた。


 玄関の前でエルフの男は立って待っていた。


「もしかしてずっと?

 ……この子たち連れて来た、説明あなたに頼めますか?」


 私が言うより同じエルフが良いだろうと3人のエルフを残しレナだけ木の下へ降りた。


 おそらく時間がかかるだろうと暇つぶし兼夕食を作りに調理小屋へ向かう。

 もしかしたらあの3人に振る舞う事になるかもしれないなと簡単に多く作れるものを考える。


 まずはお手軽に作れるスープから。


 と、その前にムニエルを作るために魚を取り出したら鱗を取り、頭を落として腹に切り込みを入れ内臓を丁寧にかき出したら水で手早く洗い、水気を飛ばして3枚におろし身をそれぞれ3等分ほどの大きさの切り身にし塩を振りかけ一旦そこで置いておく。


 それから適当な野菜を取り出して新しいまな板などを引っ張り出しザクザクと大まかな大きさにカットしていく。

 そしてにんにくをみじん切りにし、オリーブオイルを熱した鍋の中へ投入して香りが出るまで炒めたら先程切った野菜を入れ白ワインを少量注ぎ炒め合わせる。


 ある程度炒めてから水とソーセージそれからバジルやオレガノを加えてコトコトと煮込んでいく。


 そしてそのまま火にかけたまま吹きこぼれには注意しつつも鍋は放置しムニエルに取りかかる。


 水分が出てきているためそれを拭き取り、身に小麦粉をまぶしたらはたいて余分な分を落とす。

 今朝作ったステーキと同じように冷たいままオリーブオイルを垂らしたフライパンに皮目を下にして切り身を乗せて弱火にかける。


 皮目に焼き色がつくまでそのまま焼き、焼き色がついたらバターを加えて時々フライパンを揺すりながらじっくりと火を通していく。

 そうして片面が焼けたら裏返して溶けたバターをすくいかけながら暫く焼きまた裏返して同じ動作をして完成させた。


 バターの香りが立ち上り、食欲をそそる夕食が出来上がる。


 それから一旦外に出て家に向かうと3人の話し合いはまだ続いていた。声をかけるか躊躇われたがせっかくの作り立ての夕食だ、一言声をかければ3人とも降りてきた。


 3人を小屋へ招待し招き入れれば、少しの窮屈さは感じるものの4人はテーブルを囲む事が出来た。


 レナは火にかけたままだった鍋の火を止め適当な器に注ぎ3人の前へ置き切り身も同じように4人分に分けて置いた後物足りなさを感じ以前購入していた白パンを取り出し温めてから夕食は始まった。


 暖かい食事は心と体を暖める。


 最初は警戒して中々口をつけなかった子どもたちも久しぶりのまともな食事なのだろう、レナとエルフの男が食事する様子を見て恐る恐る口にした後一気にガツガツと飲み食べ始めた。


 そうしてスープやパンもお代わりしてお腹いっぱいになった所で双子はハッと我に返り視線を落とし始めた。


 レナはそんな様子を気にせずそれぞれのお腹が満足した事を確認して暖かいミルクを作りそれを置いて食器を片付け始める。


「私、此処で住んでもいい」


 そんな時双子の妹が言った。


「な、何言って……こいつは人間なんだぞ」


 片割れの威勢の良さは何処へやら少し弱々しく反論する。恐らく片割れは迷っているのだろう、だからきっと強く反論出来なかった。


「でもね、お兄ちゃん。私多分こんなにあったかくて美味しいご飯は初めてだったよ。

 この人が駄目ならきっと他の所でも駄目な気がするの……それに」


 ちらりと男を仰ぎ見る。


「サロモンさんもこの人の事は信用しているみたいだし」


 その言葉が決め手だったようだ。


 お兄ちゃんと呼ばれた方はうーうー唸り難しい表情を浮かべ、歯の間から絞り出すように分かったと一言。

 それっきり後ろを向き顔を合わせる事はなかった。


(男の子だったのか、エルフの子どもはパッと見じゃ分からない)


「レナさん……でしたか。

 私はドロワ、それでこっちの不貞腐れてしまったお兄ちゃんはゴーシュ。これからお世話になります。

 ……それから私を治療して下さってありがとうございます」


 そう言って双子の妹のドロワはぺこりと頭を下げた。


 あの後エルフの男、サロモンと分かれその場には3人が残った。


「それでは2人ともこれからよろしく。

 早速だけれどあなたたちはどこで寝る?今日急遽決まった事だから個室もベッドもない……寝袋くらいならあるけど。

 私はあの木の上の部屋で寝るけどどうする?」


 もちろん1番安全なのは私の寝る部屋だけどとそう問えば、2人は今日はこの部屋で寝る事を選択。


 その選択は予想済みで、会ってすぐの人間とすぐに打ち解けると言うのはなかなか難しいだろう事はレナも分かっている。

 明日のやる事は決まったなとレナは考え2人に寝袋を出し調理小屋を出た。


 木々の隙間から月の光が差し込みレナの姿を照らす。


「これから騒がしくなるなぁ」


 そう呟いて体を洗う用意をしに行き、就寝するまでの準備を始めた。

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