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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第五話  帰宅

 いつかのようにレナは走っていた。

 鬱蒼と茂る森の中障害物も気にせず前へ前へと走っている。


 もう少しで久しぶりの我が家。


 木の上に作った家が恋しく一刻も早く帰りたい一心であった。


 この時期は日が落ちるのが早い。ただでさえ深い森の中なのだ、進めば進むほどどんどん暗くなっていった。

 しかしそれでもお構いなしにスピードを緩めず突き進む。


 暗いからなんだと言わんばかりに駆け抜けてちらほらと星の光が見える頃、ようやく住処に辿り着いた。


「ただいま」


 木の上にある半年ぶりの我が家の入り口まで飛び上がり玄関に手をかける。

 かすかに軋むような音をたてて扉を開けるといつもと変わらない風景がそこにはあった。入り口の近くに掛けていたランプに火を灯し靴を脱いで中へと入る。


 部屋の中央で天井から吊るされた鎖にランプを引っ掛けベッドへと向かった。そしてヒンヤリとした毛布を掴み身にまとう。


 ふわふわとした毛布はおかえりとでも言うように優しく体を包み込んでくれ、レナはそのままベッドへ体を横たえた。


「やっと帰ってきた……」


 なんとなくほっとしているとお腹が空いている事に気がつく。しかし今起き上がって料理をする気力が湧かなかったため、今日摘んできたベリーを袋から取り出して口に放り込んだ。


 口の中で柔らかで甘い匂いを放っていたそれを舌で押し潰すとぷちっと皮が弾け、甘酸っぱい果汁が舌にまとわりつく。


 皮の弾ける食感と粒々とした種、そして甘くて爽やかな酸味のある果肉を味わいながらこの半年の事を振り返った。


 いつものように長くても1週間でここへ戻って来る予定だった筈なのになとため息をひとつ。


 ギルドランクもCまで上がってしまった。


 ランクを上げた事でデメリットが目立つ。

 だが、今後は依頼の数を減らしてもそれなりの対価が得られるようになった為数をこなさずともまたここへ戻ってこられると無理やり前向きに考え、マジックアイテムの袋をベッドの横に置いた小さなテーブルに投げ目を閉じる。


「お腹すいた……」


 ベリーを少々食べた程度ではお腹は膨れなかった。

 そこでレナは保存食の存在を思い出し、テーブルに投げた袋を取りそこから干し肉を取り出した。


 依頼での護衛中によくお世話になった味であるそれをまずは一口。

 程よく硬いそれを噛みちぎって味わう。


 他にも護衛していたものはこの干し肉よりずっとグレードの低いものを食べて愚痴を零していた。

 時間がある時はスープに戻して食べているのだが、魔物がいる時やそんな時は極力刺激させないようにするのが当然のことで。


 レナはわざわざ美味しくないしょっぱいばかりの干し肉生活が嫌でいいものを購入していた。

 この干し肉はとても美味しく旨味が噛めば噛むほど滲み出る。

 硬過ぎない事もポイントだったりする。

 そうしてなんとなく満足し、


「もう、……ねよ」


 そう呟いてレナはそのまま眠りについた。



 翌日、起床した時探知の魔法も使わず就寝してしまった事に気付き頭を抱える。いつどんな時でも警戒は怠ってはならないと思っていたのに久しぶりの我が家に気が緩んでいたようだ。


 己の気の緩みについてやってしまった事は仕方がないと頭をスッキリさせるため外に出て朝の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


 朝日が木々の隙間を縫って光を差し込んでくる。

 久しぶりの清々しい気持ちに暫し余韻に浸りそのままどれだけの時間が過ぎただろうか、お腹から空腹の音が鳴り響いた。


 お腹をさすりご飯を作らねばと部屋の中へ戻り、袋を持ってから木の上から飛び降りる。


 調理場は少しだけ歩いた先にあった。


 寝る部屋で料理をするのが嫌で離れた場所に小さな小屋を建てていた。小屋の中へ入り中の様子を確認する。


 特に何処も傷んでいないようでまるで生活感のない部屋に安心をした。

 レナは早速空間魔法で調理器具を取り出しテーブルに並べ、横に食べる分の肉と昨日取れたきのこや購入した野菜、香辛料などを取り出した。


 まず初めに鍋に水を入れそれを火にかけてスープを作り始める。


 じゃがいもの皮を剥き、ゴロゴロ大きめにカットして先に茹でその後ザクザクと野菜を切り刻み適当に鍋に放り込みながら塩胡椒などで味を見る。


 段々と野菜の甘味が溶け出してきたスープに満足しスープはそのまま、次に肉を焼き出す。


 クラッシュしたブラックペッパーを振りかけ、オリーブオイルでコーティングした肉をまだ火にかけていないフライパンに乗せてから強火で焼き始めた。


 段々ジュワッと美味しそうな匂いがし始め生唾を飲み込みながら銀色のフライパンにメーラード反応が出始めるのを待って肉をひっくり返す。


 裏面には軽く焼き色だけつけて火を消す。


 そうして出来上がったものを皿に移し、鍋の火も消してカップに注ぐ。

 そしてそれらをテーブルに置き、調理をして暖かくなった室内でようやく朝食を食べ始める。


 作り立てのスープにまず口をつけ体の中から温まりほぅっと息を吐く。

 そうしてじゃがいもなどの具に手をつけ始めた。


 ホクホクのじゃがいもに野菜の甘味、それらが優しく体を温めていく。

 体もぽかぽかしてきた所で初めてステーキにも手が伸びる。


 食べるときに塩をまぶし、塩の粒が溶けきらないうちにぱくり。


 肉汁が口の中いっぱいに溢れ出し、溶けきるまえの塩がくっきりと味に輪郭を持たせ舌を喜ばせる。

 そんな朝食はあっという間に無くなりそこでようやくひと息をついた。


 だが、昨日あまり食べないまま寝ている。


 もう少し何か食べられそうだと以前買ったカップケーキを取り出し口に頬張ると野菜の甘みとは違う砂糖の甘味が脳を刺激する。


 素朴なカップケーキは1つ、2つと次々レナの胃の中へ収められていき6つほど食べたところでようやく手が止まった。


 たまに出稼ぎに出る唯一の楽しみが店で出される料理であったりケーキだったりするのだった。

 甘いケーキもレナは作れない事はない。


 だが作るには少々面倒くさいというのが本音で、普通の料理とは違ってお菓子というのは目分量で作るのは難しいものであったりする。


 そうして食事を終えたレナは食器など後片付けをしながら今日の予定を組み立てることにした。

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