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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第四話  帰路の途中

 王国でする事は全て無くなったレナは半年前まで過ごしていた森へ戻る事にした。

 最近まで知らなかったのだがその森は眠りの樹海と呼ばれていてその森に行くものは自殺志願者であったり静かに息を引き取りたいとそんな事を望む者たちが迷惑をかけない最期の場所にと向かう場所なのだそうで。


 獣や魔物と並の者では歯が立たないような生き物ばかりが生息しているからと、子どものしつけに悪い子は眠りの樹海に捨てに行くぞと脅しに使っているらしい。


 が、レナにとってこの森は居心地の良い場所で恐ろしくもなんともない居場所。


 久しぶりに帰ってきたと森の入り口で深く深呼吸をすれば胸に入ってくる綺麗な空気。すっと頭が冴え渡るようなほんのり冷たくほんのり甘く感じる空気をしばらく味わいその場で暫く佇んだ。


 そうして帰ってきたんだと実感し森の中へ足を踏み入れた。


 初夏にこの森を出て半年後の今ではすっかり森の草花も濃い緑から落ち着いた茶色が目立つようになっている。木の根本にはちらほらと様々なキノコが顔を覗かせている。


 薬の材料や食材にもなるため目に付いたものは片っ端から拾いしまっていった。


 マジックアイテムの袋にはかなりの容量が収納できる。レナ自身にもこの袋にどれだけ入るのかは知らなかった。

 またマジックアイテムを使わずとも空間魔法でよく分からない空間にアイテムをしまう事もできた。


 しかも時間の流れが特殊なのかどれだけ時間が経とうとも空間にしまう時の状態でそのまま出し入れ可能だ。


 しかしこの魔法は習得が難しいらしく、下手に人前でやってみせるとちょっと注目を浴びる事は過去に経験済みで……。袋を持ち歩くという不便さはあるが視線を浴びにくいという点で重宝していた。


 が、入る容量の大きい袋でもそれはそれで注目を浴びてしまうのはどうしたものかともっぱらの悩みである。


 マジックアイテムというのは性能がいいほど作り出すために高度な技術が必要とされ、価値が高くなる。ここまでの容量が収納できるアイテムというのは滅多に市場に出るものでもなくまた価格もとんでもないものになってくる。


 それを見た目はただの小娘が気軽に扱っていれば視線が集まるのは当然で、人混みなど苦手なのに露天に飛び込んで買い物をしたのは雑多な中だと誤魔化しやすいと気がついた為である。



 普段から人の生活区域から大きく離れて暮らしている為普通というものには疎く、レナはお金を稼ぎに行くたびに普通を少しずつ学んでいるのであった。


「くそっ、このままじゃ……どうすれば……」


 久しぶりの森への帰還にテンションが上がりつつあったレナの耳に誰かの苦しげな声が聞こえてきた。


 子どもなのだろうか、少し声が幼い気がする。


 自分が知っている範囲で誰かがこの森で死肉となって腐っていくと思ったら嫌な気持ちになり嫌々ながらも声のした方向へ向かう。


 面倒事に関わりそうな予感もしているが住み良い環境の為だと我慢していると銀髪の子ども2人が鎖で木に縛りつけられており、1人はぐったりと意識がないのか身動きもせず少し荒い呼吸をしもう片方はそんな子どもに心配気な表情を向けながらもなんとか鎖から逃げ出そうとしている姿がそこにはあった。


 よくよく観察してみると2人ともかなり顔が整っている上に耳が少し尖っているようでどうやらエルフの子どものようだ。


 子どもといえどもエルフは基本的に豊富な魔力が扱えこの程度の鎖ならなんとか出来そうなものなのだが…見るからに何かしら面倒な背景がありそうである。


「ねぇ、そっちの子どうしたの体調不良なの?」


 ひとまずなにかしらの情報を得ようと声をかけてみるとその時初めてレナの存在に気がついたのか足掻いていた子どもが顔を向けキッと睨みつけてきた。


「見てわからないのかこの人間が!

 お前らがこんな事をしたんだろうがっ鎖を解け!

 なんで俺たちがこんなに苦しめなければならないんだっ妹まで苦しめて何が楽しいんだよっ、この屑どもが」


「……元気そうだね。そんな元気があるなら魔法でも使ってなんとか出来るんじゃないの。

 こんな屑な人間に助けられてもきっと気持ち悪いでしょう、頑張ってねそれじゃ」


(嫌々ながら来たはいいけど、見ず知らずのエルフにいきなり屑呼ばわりされる筋合いない……誰かが2人を助ける奇跡でも祈っててあげるだけで充分だろう)


 エルフの子どもは呆気に取られた顔をして呆然としているが知ったことではない。確かに最初に助けようとする素振りをしなかったが一応助ける気はあったのだ。


 踵を返しその場を後にする。


 きのこや鮮やかなベリーの実など摘みながら先程までの事を忘れようとする。……する。


「……はぁ。

 片方の重症そうな子だけ、そっちだけ。そう、そっちだけ」


 生意気そうな子どもの泣きそうな顔なんぞ頭にチラついてなんかいない、そう吐き捨てレナは道を引き返した。


 そしてあの場所に辿り着き再び様子を見ると涙で顔をぐしょぐしょに濡らしながら悔し気に唸り金属音もしないほどギッチギチに縛られた体を必死に動かそうとしていた。


 もう片方はまだ意識もなさそうで、先程よりも弱っている様なそんな印象で。


「そっちの子、その子治療してあげる。助けたかったら大人しくして」


 耳障りな声は聞かない。


 何かを言っている様であったがそれをレナは無視して鎖を水魔法で切断し今も気絶している子を鎖から解放しそっと横に倒した。


 楽にでもなったのか少し表情が和らいだようだった。


 さて次は治療だ、何をしようかと考えーーまず体調不良の原因を知らなかった事を思い出す。


「ねえ、この子どうしてこうなっているのか原因わかる?」


「……毒だ。

 妹が俺を守ろうとしたせいで毒でやられたんだ。俺が……俺が弱かったから……ッ」


「そう、ならすぐ治せる。安心すればいい」


 必要な情報だけを聞き出した後、毒でやられたらしい赤紫色に腫れ上がった患部を見つけその場所に口をつけて少し吸い出すと舌先にピリッとした刺激を受ける。

 そうして毒の種類に当たりをつけ、それに対応してるであろう解毒のポーションを適当に振りかける。

 なんの毒でやられているのか、確実な情報が得られるわけでは無いがこうして口に含めば何を使えば効くのかが分かるレナなりの対処法だ。


 ただ患部だけにポーションでは効果が現れるまでに少々体力的な心配もある為、子どもの体を起こし気管に入らないよう少しずつ口の端から摂取させていく。


 その様子を子どもは黙って見ていた。


 1ビン無くなった所で摂取させる事を止めて今もなお気絶している子の様子を伺うと、もう表情も穏やかになっている。


 そんな表情を眺めながら、あのまま誰かが見つけたとしてもこの子の方はきっと手遅れになっていただろうなとぼんやりと考えた。


「これでこの子は大丈夫だから。後は自力でなんとかしてみればいい、それじゃあ」


 再び子どもを寝かせて、ついでにまだ鎖で動けないでいる方の子も解放してやり今度こそその場を後にした。

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