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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第三話  買い物

 多大なるモヤモヤ感を持ったまま王国を出たレナは目にも止まらない速さで駆け抜けた、依頼をこなす為に。

 森へ山へ砂漠へ、過酷な環境でも愚痴の言葉一つ溢さずただ淡々と依頼内容を実行していく。そこには感情もなくただ魔物の首をはね、盗賊団を追い込み、貴族や商人の護衛に走った。


 そうして全ての依頼を成し遂げるのに約半年が過ぎレナの知名度は本人の望まぬままに上がっていった。


 Cランクであるのにどんな依頼も迅速にこなし、イレギュラーな事さえ顔色一つ変えることなく片付けていく様にいつしか二つ名で呼ばれる様になり、その事を知ったレナはその時初めて顔を歪ませたという。


 護衛として行く先々である大なり小なりの町や村のギルドでは塩漬け依頼を押しつけられるようになっていたからだ。

 ……しかし、決してレナがお人好しで断れなかった訳ではない。


 揉め事など人との関係を煩わしく思って駆け引きを避けただけであり、ただ結果その労力と依頼をこなす労力は果たしてどちらが上だったのかそれは誰にもわからない。

 ただ一つ言える事は並のCランクがこの半年で同じ依頼をこなせるかと言えばほぼ無理であると誰もが口を揃えて言ったであろう事は想像に容易いものである。


 しかしなんとか避けられる依頼から避け、手持ちの依頼の束を減らしとうとう無くなった日にレナはもうギルドには寄らないと決意しエストリア王国へ久しぶりに足を踏み入れた。


 依頼達成の報告は護衛などについては依頼人から連絡がいくようになっている為レナはギルドへ報告しに行く必要はなく、また納品などは最初の頃に終わらせていた。


 大金をマジックアイテムである袋に入れ、見た目にはほぼ手ぶらで歩いているレナ。

 人混みに上手く紛れ誰からも声をかけられる事なく露天市場に辿り着き、ここに来た目的である香辛料を次々に買い込んでいく。


 以前より値上がりしているようであったが予定よりも遥かに稼いでいた為気にせず次々と目につくものに手を伸ばしあらかた購入するものが無くなったところで露天エリアから抜け出した。


 とそこで抜けた先から少し離れた奥まったところにこじんまりとした店が目に入り、雰囲気的に雑貨屋だろうと当たりをつけてなんとなくその店に向かい、扉に手をかけた。


 からん


 ベルが扉についていたのだろう小気味の良い音が店内に響き渡った。


「い、いらっしゃいませ」


 可愛らしい声が聞こえそちらへ目を向けるとふわふわといかにも触り心地の良さそうな黄金色の耳を持つ獣人族の少女が店の奥から顔を覗かせていた。


 緊張でもしているのだろうか少し表情は硬く目も潤んでいるようだ。


 何か怖がらせるような事でもしてしまったのだろうかと先程までの行動を振り返るが、普通に扉を開けただけだったと思い返し自分に非がないならとレナは店員に会釈だけ返して店内を眺めた。


 焦げ茶色の棚に様々な商品が並んでいる。


 ポーションなどの冒険者に欠かせない回復アイテムはもちろんのこと、何かを乾燥させたよくわからないものや御守り、マジックアイテムが綺麗に配置してあり見てわかりやすかった。


 また家具も販売されているようだがここはあまり広くない店内、ミニチュアのおもちゃのような見本がテーブルに並べられており購入すれば後日原寸大の家具が届けられる仕組みらしい。

 実際の大きさを目で見て確認したい人は店員に声をかければまた時間のある時に別の倉庫へ案内し見せる事も可能なようである。


 普段あまり見ないような品物の数々にレナはじっくりと店内を回っていると、


「あっ、あの……何かお探しですか?」


 微かに声を震わせながら店員が話しかけてきた。

 目が潤んでいるのは見間違えではなかったようでやはり少しビクビクと怯えが混ざっているようだった。


「無理して話かけなくて良いですよ、私もただ視線の先にこのお店があってなんとなく気になって入っただけですのでどうぞお気になさらず」


 可哀想に思うものの普段見ないような品物も多く見るだけで楽しい場所だった。

 もう少しだけ色々見たいと思い気にかけつつも隣の商品棚の方へ足を向ける。


 しかしあのっ、えっとと店員は中々レナの側から離れず何か言いたげな様子。


 小さく息を吐き店員の方へ向き直り目線を合わせ言葉を待つと途端黙り込んで店員は床に視線を落とした。


「もしかして人間が嫌い?」


 そっと問いかけるとハッと顔を上げてくりくりとした目をいっぱいに広げてびっくりしているようだ。


 確かに昔は差別や迫害が酷く可愛らしい獣人族は愛玩動物として、屈強な獣人族は労働奴隷として捕らえられ酷い扱いを受けてきた歴史があるがそれは数百年も前の話である。


 しかし、当時を知らない者たちでも話を伝え聞きいまだに人間を恐れる者、憎んでる者も様々いる。


 けれど再び同じ事を繰り返す可能性だってあるのだからこうして警戒心があるのも当然であるとレナは理解があった。


「ごめんね、怖がらせるつもりとかは無かったんだ。本当になんとなく気になって入っただけだから……もうここに来ないし出るから安心してくれると嬉しい」


 精一杯優しく伝えレナは姿勢を正すと出入り口の方へ向かう。


 人間が多く住うこの王国でどうして店を構えているのだろうと疑問は残っているがもう関わることはないと考える事をやめていると、くんと服の袖を掴まれ足が止まる。


 少ししか布を触れていないのに思いの外強い力で掴まれているようだ。

 まだ何か言いたい事があるようで少々面倒くさくなってきたが振り返って店員を見ると口を硬く結び何かを必死で我慢しているようなそうでないような表情をしてレナを見上げていた。


 もし恨み辛み事を言うようなら手を振り払ってでもさっさと店を出ようと考えているとようやく店員は口を開く。


「あっあなたはっ……!

 その、どうしてここが見つけられたのですか……ここは人間避けの呪いかけていたのに。

 今までだって人が入ってくることなかった!

 あなたは一体なんなんですか!!」


 最後はほぼ叫ぶような声に頭がキーンとし頭を抑える。

 興奮気味な彼女にどうしたものかと考えてみるが、ここが見つけられたのは本当に偶然であるしレナ自身人間なのだ。

 なんと説得すればすんなり理解をするのだろうか頭を抱えたくなった。


 感情的になっている相手に冷静に諭そうにも中々難しそうである。


「もしかして呪いに揺らぎでもあったんじゃないのかな。私はただの人間で露天で買い物してもう良いかなって抜けたら視界にここが飛び込んできただけ。

 別に呪いを崩したとかそういう事もした事ないから本当に偶々偶然の運の悪い出来事なんだと思う。

 だから多分大丈夫。悪夢だったとお互い忘れよう、ね」


 それじゃあと今度こそなおも何かを言いかけた少女を残して店を飛び出した。

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