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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第二話  ランク昇格

「こんにちはレナさん、お待ちしておりました。ではこちらへ」


 2週間後、全ての依頼を終えギルドに再び訪れたレナ。あの時の受付けがにこりと笑みを浮かべ地下へと案内をする。

 エレベーターへ乗り込みしばらくすると開けた場所にでた。


「どんなに暴れまわっても大丈夫なように地下深くに闘技場が出来ているんです。

 思う存分楽しんでくださいね」


 試験を受けている者がいるようで剣を交える音や爆発音などが響いてくる。

 奥が見えないほど広い場所のようだ。


「私は何をすればいいんですか?」


 案内状には詳しい試験内容は書かれていなかった。恐らくそれなりの者と戦うのだろうとは思ったが一応聞いてみた。


「もうすぐ到着するとは思いますが担当試験官がやってきます。その方とお手合わせしていただき一定の技量が認められましたらそれでランクは上がります。

 もちろん高ランクの試験ともなれば筆記などする事は増えますが……あっ来ましたよ」


 視線を向けると遠くの方からスキンヘッドの男がこちらへ向かってきていた。


「よう、今日の相手はお前か?なんだやる気がなさそうだなー! まっ何でもいいがな!」


 いちいち声のでかい人だった。

 笑い方も豪快で体格もよく、見た目だけなら強そうではあった。


 上半身は何も着ておらず筋肉が盛り上がっているのがよく見える。太い血管が浮き出ておりそこを切れば綺麗な飛沫があがりそうだなと思った。


「よろしくお願いします。

 あの、お手合わせをすると聞きましたが何で勝負なのですか?」


「ん? ああ詳しいこと聞いてないのか、キアラがちゃんと説明していないとは珍しい」


(キアラ……受付けの名前か……)


 スキンヘッド男から視線を外し受付けを見ると澄ました顔で、


「説明の途中でグレゴさんがいらっしゃったんです」


 とにっこり微笑んだ。



「まっいっか。んで、レナだっけか今から俺とお前で試合をする。魔法も使っていい。よしと言うまで戦闘は続行だ。

 俺が試験官だからな、好きなだけぶつかってこい!」


 余程腕に自信があるのだろう不敵な表情で見下ろしてくるグレゴは威圧感はあった。

 が、それに動じるレナではない。


 ただ冷静に急所や隙を窺っていた。


「分かりました。

 先輩の胸を借りるつもりで全力で挑ませていただきます。よろしくお願いします」


「ふむ、礼儀はなっているな。

 じゃついてこい、入り口の近くは危ないからな」


 グレゴの後をレナだけがついて行く。

 キアラは受付けの仕事があると残念そうに上に戻っていた。


 レナはグレゴを見上げながらしばらく歩くと結界の張られた場所に辿り着いた。

 どうやらここが試験会場のようだ。


「この中で戦闘だ。この結界はな、周りに被害が出ないようになっている。魔法をぶつけてもびくともしないからな、好きなだけ暴れられるぞ!」


(全力だすと壊しそう……)


 レナはグレゴに全力で挑むと言ったが全力を出すつもりはなかった。最低限の力で負けてもいいぐらいに考えている。


 自身の力を過信している訳ではないが、実力に大きな差があるであろうとは感じていた。


「そうなんですね。安心です」


「おっ自信ありげだな。見たところ魔法が得意そうだしな早速始めよう」



 結界の中に入り平行に離れた場所に白線が引かれている所でお互いに向き合って立った。


「ルールをおさらいだ!

 体術、魔法なんでもありの勝負でよしと言うまで戦闘は続行!

 当たり前だが死ぬまでやるのは無しだから安心しろ! じゃ始めるぞ、お前からかかってこい!いつでもいいっ!!」


 言われるや否やレナは無言で火球を飛ばした。

 手の平大の火球は全部で5つ。グレゴはその場から動かない。


 真剣な表情で火球を弾こうと手を伸ばした……が、


「っ——ぶねえぇっ!」


 触れることなくその場を大きく右に飛び避けた。

 火球は爆発を起こしておりグレゴは冷や汗をかく。もし気が付かずに避けていなければ爆発で無傷ではいられなかっただろう。


 これほどの威力を無詠唱で即座に飛ばせる力量に一瞬恐れを抱いた。


「確かにこれだけ強いなら自信ありげだったのもうなずける……うわっ!?」


 爆発した場所からレナが立っていた場所に視線を戻せばそこには誰もいない。

 かと思えば足を何かで掴まれ考えるまでもなく投げ飛ばされた。


 かろうじてレナの長く美しい栗色の髪だけが視界の隅に入っただけであった。

 予想以上の強さに投げ飛ばされながらグレゴは心が昂ぶって行くのを感じた。これほどの力を持っていながらEランクに甘んじて留まっている猛者に心が震える。


 試験関係無しに倒れるまで戦いたいと願った。


「よしだっーー!!!!」


 物凄い勢いで結界にぶつかりながらグレゴは叫んだ。心情より仕事が優先できる男であった。


「ふう……、ありがとうございました」


 そう言いながらもレナは冷や汗をかいていた。思っていたよりグレゴが隙だらけで油断しまくりで弱かったくせになぜかひどく楽しそうだったからだ。

 嫌な予感しかしない。

 そう思いながらもレナは表情ひとつ変える事なくグレゴの元へ歩いていった。


 一方、結界にぶつかったグレゴはと言うとまだ興奮が抑え切れていなかった。


 久しぶりに出会う逸材にかつて戦闘狂と呼ばれた血が疼くのを感じている。強い者と戦うのはいつだって楽しいものだった。

 力と力の衝突は心が躍る。


 もっと、もっとと力への渇望は留まることを知らず己を更に高みへと連れて行ってくれるその瞬間が大好きだった。


 結界に打ち付けられた背中は痛かった。少し痣が出来ているかもしれない。しかしグレゴの表情は微塵も痛みを堪えるものはなかった。

 今が試験でなかったならと何度思ったことであろうか。


「なぁ、この後……」


「あっ私家に帰ろうと思っているので時間はないです」


 レナは言葉を被せるように先手を打った。

 ひどく残念そうな顔がレナを見上げているが心が揺らぐ事はない。面倒ごとはとても嫌なのである。


 彼女の中で警戒のベルがけたたましく鳴っていた。


 警戒をしながら試験官を見下ろすレナは結界から出ようと促した。グレゴが立ち上がるのを静かに待つ。その時間がとてもゆっくりに感じた。


 グレゴの後に続いて結界からでるレナはもう少し手加減すればよかったと後悔していた。あんなにあっさりと合格が決まるとは思っていなかったからだ。


「なぁ、なんでそんな強いのにもっと早く上を目指さなかったんだ?」


 不思議そうに尋ねられ言葉に詰まる。


 なんで強いのか。考えた事も無かったしレナは特訓などといった己を鍛えようとする事はした事がなかった、今まで一度も。


 幼い頃からそれが普通であったし、当たり前の事だった……とそこまで思ったところで少し頭が痛んだ。

 ……考えるのは嫌いだ。

 上を目指すというのもよく意味が分からなかった。


「必要を感じないから、ただそれだけ」


 その一言につき、それ聞いたグレゴはそっかと神妙な面持ちで頷いた。

 そんな表情になるような事は何も考えていないんだけれどと思ったがレナはそれ以降言葉を重ねなかった。


 2人は黙ったままエレベーターの前まで辿り着き乗り込む。

 が、微妙な空気に参り再び口を開くグレゴ。



「今回お前のランクをCにしたいと思う。ほんとはAでもいいかと思うけどな、いきなりそんだけ上げたら嫌でも目立つ……それは避けたいよな?

 でもお前なら上げようと思えば簡単に上げられるから気が向いたらまた試験受けに来てくれよ、待ってる」



 まさかBランクの俺でも目で追えない動きするとは思わなかったわとグレゴが笑った瞬間にピシリと固まったレナ。


 レナは確かここに来る前に……受付けとエレベーターに乗っている時に相手はDランクの試験官だと聞いていた。

 Dランクですかと聞き返して肯定もしてもらっていた。聞いてた話と違うとレナは恐る恐るグレゴに、Bランクだったのかと尋ね笑顔で肯定されて受付けを呪った。


 一階に辿り着くとそれに気がついた受付けがやってきた。


「どうでしたか?」


「あーこいつ強かったよ! 俺をあっさりふっとば……ごほんっ。Cランクに上げといてやってくれ」


 案内所に来ていた冒険者からの視線を集めた瞬間にグレゴは言葉を濁しさっさと伝える事だけ伝えてその場から逃げた。


 レナにいくつもの視線が集まり観察されていた。

 恐らくあの馬鹿でかいグレゴの言葉を聞きつけなんだなんだと興味を持たれたのだろう、集まる視線に居心地が悪くなる。


「キアラさん……でしたっけ。確かDランクだと聞いていたのですが」


「あら私は確かにBランクだとお伝えしたと思っていましたけれど……似ていますものね言葉が。ふふっ」


 確信犯だと受付けの表情が物語っていた。


 使えるものはなんでも使ってやるという意思に感心すら覚える。

 今後は関わりを出来るだけ避けようと決意するレナ、その後のランクアップの手続きなど無駄なく終わらせてさっさとギルドを出た。


 ……紙束を持たされて。


「おかしい……こんなに受けるはずはなかったのに……しばらく暮らせるだけの資金があればいいだけなのに」


 今までよりランクの上がった塩漬け依頼の多さに思わず溜め息を溢す。もちろん今回も美味しい依頼はあるのだ。あるのだが……


「良い様に使われるのはあまり良い気持ちじゃない……」


 そう愚痴を零しながら王国の外へと足を向けるのだった。

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