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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第一話  ギルドへ

「いらっしゃいませ」


 お出迎えの声と共にふわりと木の香りが鼻を擽る。

 ここは冒険者ギルド案内所。木の温もり溢れる建物は清潔感があった。


 多少のガヤガヤはあるものの荒くれ者などはおらずレナは首を傾げた。

 それもそのはず、以前訪れた時はアルコールの匂いを漂わせるような者もおり荒れた声も時折聞こえていたからだ。


「すみません、採取系で何かいい依頼などありませんか」


 不思議には思うもののお金は稼がなければならない。迷わずギルドの受付けの前まで行き身分証を提示しながらおすすめの依頼を聞いた。


「こんにちは、レナさん。採取系ですね分かりました、少々お待ちください」


 受付けの女性はそう言うと席を外してカウンターの奥へ消えた。しばらく周りを眺めながら待っていると紙の束を持ちながら受付けは帰ってきた。


「以前も色々と受けていただいているようで大変助かります。今回も採取系と言う事でこちらをお勧めしたいのと、それからこれは今までのレナさんの活躍から是非受けていただきたい依頼がありまして……」


 以前にも受けたような依頼が書かれた紙の束をまず渡され受け取ると、その後に初めてみるような紙を目の前に掲示され目を向けるとそれはギルドランク昇格の推薦状と蝋で閉じられた封筒だった。


「これは……」


「まず採取系ばかりとは言えそれなりに難しいものを短期間で多くをこなした事を評価されたという事で昇格の案内とそれを受ける場合の試験内容がそちらの封筒に入っております」


 思わずと零れた形の言葉にすらすらと淀みなく受付けは答えた。


「受けなかったら何かあるのですか?」


 そう言うと少し考えるような顔をした後、おずおずと受付けは答える。


「えぇっと、あまり断ると言うことは聞いた事がありませんが何かしらの罰があると言った事はありません。

 ただ、ランクが上がれば受けられる依頼も増えますし信用度も上がり活動もしやすくはなるので受けた方がよいとは思います」



 レナは今の現状には特に不満は無かった。受けられる依頼が増えてもそれらをこなすとは限らないし香辛料やたまに服を買えるだけで充分だと思った。


「現状に特に思う事ないですし、活動を増やしたいとは考えた事ないので私にはあまり魅力的ではありませんね。

 ちなみに、高ランクになることによるデメリットなどはあったりするのですか?」


「国からの緊急の依頼など特別な時には召集がかかる事があります。これは断る事も出来ますが、代わりに寄付と言う形でお金を献上する事になります。

 国の為の資金提供か労働力どちらかを出していただくと言った形でしょうか。あまりない事なのでさほど気にするほどの事ではないとは思いますけれどもね」


 行動に制限が付くことがあるならなおのことランクを上げたいとは思えないレナはそっと封筒と推薦状を返却しようとした。


 しかし受付けはなかなか受け取ろうとはしない。訝しんでいると、


「レナさんは現在Eランクです。これは下から2番目です。Aランクの上位陣あたりまでが高ランクと言われているのでそこまで上げるのは悪くないとは思うのですよ?

 それともうぶっちゃけてしまいますが、レナさんなら塩漬け依頼をこなしてくれそうと私が判断した為少しでもランクを上げていただきたいんです。……もう少しだけ考えてはいただけませんでしょうか」


 素直に考えている事を述べられてお願いされて素気無く断れるほどレナは冷たくはなかった。

 行動に制限がかかることが無いなら受けるだけ受けてもいいかと返却しようとしたものを手元に戻し試験を受けると伝えその場を後にした。



「さて、何から手をつけようか」


 試験は今から2週間後、先程出てきたばかりのギルドの地下2階闘技場であるらしい。

 手持ちの依頼を全てこなしても日にちに余裕がかなり出そうだなとパラパラと束を眺め当てもなく足を進める。


 受付けにも言われた通り、現在のギルドランクはEでそのランクで受けられる依頼にあまり難しい事はないのだがたまに労働と対価が見合ってないようなものが混ざっているのも事実。


 もちろん直ちに命に危険があるような依頼ではないが、ただひたすらに時間がかかるものや手間がかかるもの、準備だけで赤字になってしまうような不人気の依頼がちらほらとあった。

 しかし、レナにとってそれらは苦もなくこなせる。

 だがそんなレナが狙っていたのは、不人気過ぎて受けてくれるなら誰でもいいと依頼主がお金を積みランクを落としている依頼だ。

 しかしランクに見合わず危険という事でギルド掲示板にあまり出る事がないがある程度力量を認められるとこうして受付けから回してくれる事がある。


 言わば、やる気も力量もあるのにただ規定数の依頼をこなしていなかったりなどでランクがまだ上がっていない者たちへの措置とギルドとしても依頼を溜めこみたくないとの思いが込められたWin-Winな関係である。


「今回は結構いいのあるなぁ……レッサードラゴンの皮膜は確か在庫があるし他にもすぐ用意出来るものが多いな…でも」


 レナは沢山の在庫を抱えていた。

 減ることなく日々溜まっており、何でも屋として商売をすることができるほど。

 きっと店を開いたなら買いに出ればなんでも揃う店として人気になっていただろう、しかしレナはなる気もなく……。


 依頼リストに目を全て通すと8割は今すぐに納品可能だったが、残りの2割はどうみても採取系ではなく討伐系であった。


 ちらりと見たとある依頼にはご丁寧に二重線で討伐の文字を消し横に命の搾取と書き直している辺り、あの職員は相当食えない者だと分かった。


 ギルドがあそこまできれいに変わったのはおそらくあの職員の手によってだろう、そして今回はこれ幸いと塩漬けをこなしてもらおうと紛れ込ませもしそれを無視すれば決して少なくはない違約金を払わなければならない。


 どう転んでもギルドにはメリットしかなかった。


 その場で全てきちんと確認せずに受け取ったのは悪かったがやり方が悪どいなと心証が悪くなる。


 常時張り出されているような、あればあるだけ買い取る系の依頼であればこなせずとも違約金はないのだが、相手を邪魔し競い合うような事が起こり得る討伐系の依頼などは受けたが最後、依頼の達成不達成が出るまで他の冒険者はその依頼を受注する事が出来ないシステムになっている。

 それは依頼を出したものからすれば早くこなしてくれればいいがその者がこなせず中々依頼が終わらないままいたずらに月日が過ぎるのは困る。

 依頼を出すのもタダではないのだ。ギルドに張り出してもらうにも手数料がかかる。

 手数料というお金をとられた挙句依頼はこなせませんでした、では不満も溜まるというもの。またこなせない者に何故受けさせたんだとギルドに不審の目も向けられる事だろう。


 だが過去、大勢が受けたが故に足を引っ張り合い依頼完了までに時間がかかる……あるいは殺し合い……などそんな後味の悪い事故も起きている。


 そこで導入されたのが違約金制度。


 こなせなかった場合、その冒険者は違約金を払いそのお金は手数料として幾らかはギルドが取り残りは依頼主に送金される。


 もちろんお金では解決出来ない事もあるが大抵はこれでなんとかなる。

 むしろどんどん失敗して欲しいと難しい依頼を出すものも増えたほどだ。


 お陰でギルドは大変潤ったのは言うまでもない。



 ため息ひとつつきレナは走り出した。


 例えどんな依頼であろうとこなしてしまえば問題は無いのだから。

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