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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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突然の来訪者③

 あの日ブルーメと別れてから幾月が過ぎ辺りは一面白銀の世界へとすっかり景色を変えていた。あれ以降レナはブルーメにもシャンディにも会っていない。

 双子にはお迎えが来て帰った、けどまた近いうちに会いに来るらしいとそうレナがそう伝えた時ドロワはまた会いたいなと言っていた。


(植物がとか言っていたし植物の枯れる冬の間は来ない……か。それにしても元精霊が人間になるなんて、それをしたのは誰なのかな。この関わりのせいで目をつけられないといいけど)


 色々と知っていそうなブルーメの事も内心気になってはいたが考えたところで答えはでないなと今は頭の片隅に追いやっていた。



「なぁ、この時期でも取れるもんとかないのか?」


 窓から外を眺めながらゴーシュが尋ねる。


「お兄ちゃんお出かけしたいの?」


「そうなの? 魚釣り行く?」


「ちっ、がわねぇけど……あんま寒くなくて釣れるなら行く」



 今年の冬は天候が悪い事が多い。料理をするための小屋に行くのも対策しなければ大変だったりするのだ。しかしそんな状況でもレナは寝る部屋で料理をするのが嫌だった。せめて家の下の辺りにでも小屋があればなと双子は思っていた。


「分かった、寒くないようにはする。それじゃあ今から行こうか」


「レ、レナ様!? 防寒着を着なくて大丈夫なんですか」


「うん。あっドロワは釣りについて来る?」


 ドロワは暫く視線を彷徨わせたあと小さく行きますと答えた。ゴーシュは手持ちの上着だけ着てもういつでも出られるようにしている。


「それじゃあ行こうか」


 例の如くレナが複数の魔法を操り、快適な環境で釣り場まで行く事ができた。ゴーシュはそのことに対してはもう何も思わなかった。だが、


「レナ様は相変わらず凄いですね、風も来ないし暖かい空間を維持して移動し続けられるなんて。体洗う時もそうですけどこんなに自由自在に魔法が使えるのって凄いお師匠さんについたりしてたんですか?」


 ドロワは相変わらず慣れることは無かった。魔法に長けたエルフ族以上の豊富な魔力とコントロールはこの世界でも1番なのではないかと思っていた。


「師匠はいないよ、特に練習をした記憶とかないし。ただこうしようって思うだけかな」


 それで出来るならみんな苦労しないと内心でだけ思うドロワ。引きつりそうな口元をぐっと引き締め釣り竿を握った。3人の目の前には凍った湖がある、果たしてどうやって釣りをするのだろうかと見ていればレナはじっと動かず何もしない。ただひたすら湖がをみているだけである。


「なぁレナ——」


「静かに。2人は氷魚を知らないの?」


「コオリウオ?」


 双子の声が被る。どちらも氷魚を知らないようで、レナは声を潜めながら2人に説明を始めた。


「氷魚はこういう水が凍る時にしか表に出ない魚なの。厚い氷の層が出来るとどこからか出てきて、氷を食い破りながら水上へ出て食べ物を探しまわる。多分天敵が少ないからこんな生き方をしてるんだと思うけどね」


 レナが説明しているとどこからかガリガリと音がする。あれが氷魚が穴を空けている音だと伝え3人は姿が分からないよう身を隠し湖を観察していると出来立ての穴からひょっこり魚が顔を覗かせた。じっと辺りを警戒していたが暫くして何もいないと判断したのかその全長を曝け出す。前ヒレが大きく発達しておりそれを使い氷魚はペタンペタンと跳ねるように移動を始めた。


 そこで徐にレナは釣り竿を取り出し針を飛ばした。ヒュイッと竿を引けば氷魚に針が引っかかり釣り上げた。思わず双子は声をあげそうになるがレナが口元に指を当て静かにするようと意図を込めればすぐに口を閉じ大きな声を発することはなかった。



「これがこの時期にしか出来ない釣り。スープにしても美味しいし素揚げもお勧め。音を立てない事がコツかな……慣れるまでは大変かもしれないけど楽しいと思う」


 さあやってみてと言えば真っ先にゴーシュが竿を振った。だが実際上手く針を引っかける事は難しい。氷魚は音に敏感だ。派手な動きも取れず時間だけが過ぎていく。苦戦する双子の横ではレナは次々と氷魚を釣り上げた。大量である。


「全然釣れねぇ、もう疲れた」


 先に竿を投げたのはゴーシュだった。何時間も振り続け腕がもうパンパンだった。一方ドロワは粘っている。もう少しで何かが掴める、そんな気がしていた。



「もう少ししたら帰るよ、暗くなるし」


 その言葉に焦るドロワ。1匹は釣り上げたいその一心だった。


「あっ!」


 思わずあげた視線の先では狙っていなかった氷魚が飛んで来てたまたま引いた針が引っかかり釣り上がっていた。大きな声をあげてしまった為、見える範囲からは氷魚がいなくなってしまったがとうとうドロワは釣り上げたのだった。


「つ、釣れました! 私やりましたっ!」


「おめでとう」


 嬉しそうなドロワを横目にゴーシュは次こそは釣り上げると静かに闘志を燃やしていた。

 帰り道、ドロワはにこにこと幸せそうであった。



「コツを掴んだら後は簡単だから」


「うっせ。今回はドロワに譲っただけだし……」



「ふーんそっか。また今度、たくさん釣ってね」



 返事はない。恐らく1匹でも釣り上げる自信がないんだろうな、と思いながら次はもう少し上手く釣り方を教えてあげられれば良いなと思いながら帰宅した。



「……2人とも、この魚の下処理お願いね」


 レナは釣ってきた沢山の魚を渡し双子を調理小屋へと送った。見送ったあとレナは家へと向かう。少しその足取りは重い。扉に手をかけ開けばそこには、


「やぁ、待ってたよ」



 あのブルーメが部屋の中にいた。今回は裸ではなく1枚の大きな布を体に巻いているようだ。


「部屋に招いた覚えはないんだけれど」


「でも君はすぐ僕に気がついてたでしょう? 釣りは楽しかった?」


「そうね、途中まで楽しかった」


「そっかそっかぁ、楽しめていたようで何よりだよ」



 レナはさっと部屋の中を見渡すが何かを漁られたような形跡もない。ついでにシャンディや兄貴の姿もない。


「ふふっ、今日は続きを話に来ただけだよー」


 その様子を見たブルーメはニコニコと微笑む。相変わらずのんびりとした男だった。


「戦う気は少しもないよー。そうだ途中経過を伝えるね。サンドラはねすこーしだけ良くなってるかもなんだけど、グレンはー……あの黒くなった男の子の方ね、状態があまり良くないんだぁ。血を飲み過ぎたんだから予想の範囲内なんだけどさ」


「色々と聞きたいことはあるけど、サンドラってシャンディの事でいいのかしら?」


「そうだよー、あの子はサンドラ。以前はシャンディって呼ばれる事を嫌がってたけどねぇ。これ内緒なんだけどね、あの子たちは元孤児なんだー。街の中で残飯を漁ったりとかするようなね。


 サンドラは赤子の時捨てられてた子でね、ビール瓶の箱の上にいたのをグレンが見つけたんだって。サンドラを包んでいた布にサンドラって刺繍があったからサンドラってグレンが。暫くしてサンディーってあだ名がつけられて、大きくなった頃にかな? 孤児仲間じゃないけどそれなりに可愛がってくれる人がいたんだって。その人はお酒が大好きな人でね、ビール瓶の上で捨てられてたって事を話してたからシャンディ・ガフとあだ名のサンディって響きが似てるでしょう? だからシャンディって呼ぶようになって。


 お酒の名前なんて嫌だって言ったみたいだけどみんなに定着しちゃってね……。そんなある時、捕まってしまって今はサンドラとグレンだけが生き延びてしまった。サンドラは死んでしまった子たちがいた事を忘れない為に自らをシャンディって呼ぶようになった、そんな感じだよ。かわいいよね」


 所でお水は無いのかいとブルーメは催促をする。そこでレナは水ではなくハーブティーを差し出した。ブルーメは一瞬キョトンとするも小さく笑い口をつける。


「僕は植物の精霊ってわけじゃないから共喰いにはならないよー」


「そう、だったわね。自然の中にいる精霊だった」


「そうそう。ふふっ、こうしていると君も実に子どもっぽいねぇ。あんまり機嫌損ねちゃ良くないからお話し戻ろうかー」



 熱いハーブティーで口を潤しながらブルーメの話が始まる。他にもシャンディと同じような境遇の子がいる事。エストリア王国の中心で実験は繰り返されている事。科学の発展に伴い、国の王がやりたい放題だという事など様々な事を聞いたレナ。特に同じような境遇の子がいるという部分に引っかかりを覚えた。


「他にもいるってまさか同じように私を探しているの?」


「んーどうだろう? 水の子はなんかやってるし強いて言えば雷の子が君を探してそうだよねぇ」


 水の子雷の子で首を傾げたレナにブルーメは解説を始める。


「なんか変なこだわりがあるみたいでねぇ、火属性の子とか土属性の子とか属性毎に特化させた体を作ってるんだよね。ちなみに僕は草属性というか土というか。言うこと聞かないからもう興味もなくほっとかれてる感じだよー、そのせいでサンドラが土に特化した子にされたんだけどねぇ。

 君も何となくわかるでしょう。火属性の精霊とか水属性のとか色々いて、その子たちが生き物の体に入って魔力の核として力を発揮するって。生命が誕生して脈を打つその瞬間に小さな精霊たちは我先にとその場に入ろうとする。だって僕たちみたいな大精霊とは違って小さな子たちは寄生する形でしか自分を保てないのだから。だから生き物たちはそれぞれ扱いやすい属性が異なってくる……君はちょっと特殊だけどねぇ」



(恐らくグレンが火属性。他にも雷や風や他にも私を狙うかもしれない子がいる……。一体どれだけそんな生き物が作られているのかしら)


「嬉しくなさそうだねぇ。まぁぼくもなんだけどさ。器が大きければ大きいほど入り込める精霊も増えて扱える魔力の量が増える。人為的に魔力の大きな子を生み出して果たしてあの子はどうするつもりなんだろうねぇ。可哀想な子なのはわかるけど僕も巻き込まないで欲しかったよほんと。……んー、そろそろ双子ちゃんが戻ってくるけどどうする? みんなで続き聞くー?」



 すでにそれなりの時間が経っていた。そこまで慣れていないにしろ2人で魚の下処理をしているのだ、もう終わってもおかしくなかった。レナはこのまま続きを聞きたかったが双子を巻き込む必要性はないと判断をし、ここで一旦話を終わらせることにした。

 言わずともそれを悟ったブルーメは相変わらずにこにこと微笑み去っていった。またどこかのタイミングで勝手に来るのだろうと考えレナは少し疲れたような気がしながらも2人が声をかけにくるのを待った。

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