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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第十二話  突然の来訪者

 ある日の事だった。久しぶりに双子の顔が見たいとサロモンがやってきた。



「お久しぶりですサロモンさん!」

「うっす」


「2人とも元気そうで何よりだ」


 駆け寄ってきたドロワの頭を撫でながらサロモンの目尻が下がる。


「背が伸びたか?」


「えっほんと!? わーい、やったぁ。同い年の子に比べて小さいからこのまんまかと思ってた。えへへ伸びてるのかぁ」


 嬉しそうなドロワを見て、ゴーシュもひっそりと自分も伸びているのかサロモンの腰の辺りを見て以前より視線が高くなっているかで確認をしているようだ。そんな2人を見て、レナは双子の年齢を知らなかった事を思い出した。


「お前に感謝を。2人が健康的に過ごしているようで安心した」


「私はただ私に出来る事をしただけ、感謝されるような事はしていない。それから入り口で固まってないで中に入ったらどう?」


「そうか……お前は変わらないな。だがそれでも言おう、お前に感謝をしていると」



 深く頭を下げるサロモンにレナはそっぽを向く。成り行きでこうなっただけの事で礼を言われるのが落ち着かなかったからだ。


「あっサロモンさん。そう言えば私たち友だちが出来たんですよ。その子は今どこか出かけてて紹介出来ないけど、名前はシャンディって言ってね——」



 ドロワはサロモンの手を引きテーブル席へ座らせながら話始めた。それを見て長くなりそうだとレナはそっとその場から離れる。抜け出すレナに続こうとゴーシュも抜け出そうとしたがドロワに捕まりエルフの3人は長い雑談を始めた。



「クッキーも置いてあるし紅茶もすぐお代わり出来る様にしてあるからこのままほっておいてもいいか。——けど、」



 レナは少し睨みつけるように遠くを見つめた。まだまだ遠く森の入り口辺りであろうが、以前感じたような不穏な気配が近づいてきている事を感じていた。だが今回はシャンディの気配は別の所で反応があるためまだ知らない何かなのだと分かる。


「兄貴って人がお迎えに来てるなら少し荒れるかもしれないなぁ……」



 時々シャンディは兄貴にとか兄貴もと何やら呟いていた事をレナは聞いていた。この頃ボーッとしている事も増えてきている、心配がただの杞憂であればと願い不穏な気配の動向を見守った。


 暫く観察すればどろりとした重たい気配はこちらへ——正確にはシャンディのいる方へ向かっているようだ。それでレナはほぼ考えを確定させた。


「兄か関係者か……そろそろシャンディもあれに気付くか? 2人が接触する前に話をつけた方が良さそう」



 今日のシャンディは家からかなり離れた場所にいる。その為エルフの3人はこのままでも大丈夫であろうが念のためと防御壁を張り、多少の襲撃では安全が脅かされないようにしてレナは走った。


 そうして普段より急いだ為あっという間に目的地に辿り着いた。突然現れたようにも見えるレナにシャンディは驚く。そして見た光景に同様で視線が揺れ動いた。


「なっ……」


 ポトリとシャンディの手から赤い何かが落ちた。キラキラと光っているそれは何かの石のようだ。そしてレナは気がついた。近づいて来る気配に気を取られていたがその赤い石からも同じようなものを感じ取れると。その石から澱んだ魔力がレナに流れ込もうとしていた。


 石を消さなければ、そう思い行動しようとしたその時殺気を感じレナは横に大きく跳んだ。


「っ——なんのつもり?」


 ドゴンッと大きな音と飛んでくる小石の元へ視線を動かせば、先程までレナが立っていた場所を中心に土埃と大きなクレーターが出来上がっていた。穴の淵にいつの間に出したのだろう巨大なハンマーを持って立っている。表情は俯いていてよくは見えないが楽しげな顔をしていないのは間違いなかった。


「なんのつもりって?」



 怒気と嫌な気配が大きく膨れ、俯いたままシャンディがレナに体を向ける。自身の体よりも大きなハンマーを片手で持ち直しキッとレナを睨みつけた。


「よくも今まで騙してくれたな! あんただったんだよな、あたしが何も知らないでお前に近づくさまを見て馬鹿にしてたんだろっ!! あたしらをこんな体にしたくせにいぃっ」


 完全に瞳孔が開き切った目でレナを捉えハンマーを両手に突っ込んできた。シャンディの魔力に反応してか遠くの気配も猛スピードでこちらへ向かってきている。予測よりも遥かにはやく到着してしまいそうだ。


 しかしその間もドカン、ドゴンとあちらこちらにクレーターを作るがシャンディの攻撃は擦りもしない。ひらりひらりと風に舞う枯れ葉のように掴み所のない動きにシャンディはますます血を昇らせていく。


「当たれっ逃げんなっ!! あんたさえっあんたさえ居なければあぁっ!!!」


「誰と勘違い。してるか、知らない、けど。まず話を、聞いて」



 攻撃を避けながらなんとか対話を試みるも全く通じない、その間ももう一つの気配が近付いてきている。


(相手がもう1人ぐらい増えても別に構わないけど、このままだと説得が…)


「少し痛いかもしれないけど……」



 許してね。

 その言葉と共に鳩尾に強烈な一発をくらいシャンディのその小さな体が吹っ飛ぶ。意識が一瞬途切れるも辛うじて持ち直しハンマーを手放さなかった。その事に舌打ちをしたい気持ちを抑え吹っ飛ばしたシャンディに追いつきその体が岩にぶつかる前にしっかりと両腕で受け止める。


「なん、なんだよ、お前……」


「お前じゃない、私はレナ。どう? 少しは話を聞く気になったかしら?」


「それはっ、こっちのセリフだっ……ゲボッ」



 口から朝食べた物のかけらが胃液と共に吐き出された。ゼーゼーと息が荒く、ハンマーを握る手は微かに震えている。思っていたよりは上手く手加減が出来たようだとレナは話を続ける。



「私はあなたに一体何をしたの? 数週間前に出会ったばかりだと認識しているしそれはあなたもだったはず。何があったのか分からないままなのは気持ちが悪い」


「まだいうのかよっ、ケホッ。……あんたがっ命じたんだろ、実験でっ。あたしらを、くそっ」


「本当に分からない、回復させるから話をもう少し聞かせて。実験とか分からない、私はずっとこの地で暮らしてきていたから」



 息が整うまでに治癒魔法を施し回復させた後、シャンディを地面に下ろした。回復させた後にまた暴れる可能性もあったが今は大人しくしている。膨れっ面はどうやら拗ねているようだ。強すぎ、ずるいなどとぶつぶつと呟いている。



「ってここにずっと? そんな筈はない、だって5年前にあの場所にお前はいたんだ! 確かに顔はよく覚えてねぇけど、でもさっきのあんたの雰囲気はおんなじだった」


「雰囲気だけで? 本当に? 流石に呆れるよ?

 私は誰かを実験台にするとかそういうのした事もないし興味もない。あるとすれば出来るだけ人と関わりを減らす事、楽に生きる事だけ。その実験で一体なんのメリットがあるのかしら。こうして覚えのない事で恨まれて、静かな暮らしを潰されて流石に苛つきを覚えそう」


 辺りを見渡せばボコボコにクレーターの出来上がった大地がある。平に戻すのは直ぐだが草木などの自然はどうにもならない。その事にレナはモヤモヤとした気持ちを抱えていた。


「だってだってあたしは、あたしは……そうだ、これだよ! この石があんたに反応していた!! あいつらが言っていた、この石が反応した奴があたしらをこんな体にした原因だって。そいつが逃げ出したからあたしらはこうなったって! あんたを連れ戻せば元に戻してあげられるとかなんか言ってたけど、もう遅いんだ……あたしと兄貴しかいない、他のみんなは、家族は死んじゃったらもう戻んないんだよおぉ!!」



 どろりとした魔力を含んだ赤黒い石を握りしめシャンディは泣き出した。力の限り叫びながら。


(この石……さっきから私に魔力が流れ込もうとしてる。私を殺そうとした理由も結局よく分からないし、誰かの逆恨み? この子はそれなりに強いけどまだ小さいし簡単に言いくるめ出来たんだろうな。さてこれからどうしようか)


 しゃくり上げ泣き叫ぶシャンディの側でしゃがみ込むが尚も泣き止む事も、レナを攻撃する事も無かった。徐にレナは手に握られている石を奪い取った。それに驚いたようだが零れ落ちる涙は止まらない。しかしその後見る光景に一瞬泣いていたことを忘れる事になる。


「ふぅ、スッキリした」



 注ぎ込まれた大量の魔力に耐えきれなかったのか石は澄んだ赤色に変わりそして粉々に跡形もなくキラキラと光り輝き消え去った。石の粒子すら残っていない。


「さて、まだ理解が追いついていないけれどそろそろ確認しておく。今近づいてる気配はあなたの兄貴かな」


 コクリと言葉もなく頷いた。


 もう一刻もしないうちに辿り着くのだろう。シャンディが怒り膨れ上がらせたあの気配よりも強く濃く、穏便に帰ってもらうことは難しそうである。


「今更だけどあの石砕いたら不味かったかな?」


「……別に」


「そう。あれ、気持ち悪い魔力が濃密だったからあまり持たない方がいいと思う。いつか飲み込まれるよ」



「好きで持ち歩いてなんかない。でもあれがないとあたしたちは駄目な体にされてる。……本当になんも知らないんだな」


 少しだけ本来のシャンディの調子が戻ってきているようだ。兄貴が来る前にこちらとなんとか話がつけられそうだとレナは一安心する。



「やっと信じてくれた、ってわけじゃないか。まだ疑ってるけどとりあえず今はそれでいい。

 それで石がないと駄目なら壊すのは良く無かったんじゃないの?」


「あたしたちはよく分からないまま実験台として使われて、気がついたらあの石を食べないと生きていけない体にされてた。食べないよう我慢した事あるけど頭がおかしくなりそうになる。不味いし、食べるたびにあたしがもっとあたしじゃない何かになりそうな感覚で頭が狂っちゃいそうだったよ。


 でももうなんかどうでもいいや」



 諦めにも似た声色に首を傾げた。事情は上手く飲み込めてはいないが、そこまで人生を投げ出してしまおうかと思えるほどの事なのかと分からなかった。



「その気持ち分からない。死にたいの?」


「かもな。あんたには何したって敵わないだろうしさ、敵討ちも出来やしない。それに我慢するの疲れた。……先に逝ったあいつらのとこに行くのも悪くない」



「勝手に自己解決はやめて欲しいのだけれど。つまり、石を食べなきゃ生きていけないけど食べたら変な感じになって辛い。敵討ちも出来ないし、元凶に一矢報いる事も出来なくて苦しいだけだから楽になりたいってそんなとこかしら。自分で自分の命を絶てないならまだあなたは生きたがってるだろうに」


「——そんなのあたしが1番分かってる!」


 突然張り上げられた声ににレナは首を傾げた。

 また大声をあげた本人は強い憤りを感じているようで体が震えていた。シャンディはクシャクシャに顔を歪ませ、


「あの頃に戻りたいっ! あんな奴の言いなりになんてなりたくないよ……でもあたしが何をしても兄貴がもっと苦しむ。何にも考えたくない、あんな石っころ食べてあたしがもっと狂ったらどうなるんだよ。嫌な気持ちがおっきくなってみんなを憎んで憎んで壊したくなってるのに、どうしたらいいんだよ教えてよっ、なあっ!!」


 腕を強く掴みレナを揺さぶるが揺さぶられる当の本人は表情一つ変えない。ただじっと考えていた——

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