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竜の瞳と聖女の涙  作者: 小鳥遊 美鈴
第一章  竜の瞳と宝石の花
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第十話  ネモラの花

 翌朝、3人はほぼ同じ時間に起きた。

 まだ眠い目を擦る双子にお湯を出し顔を洗わせるとすっきりしたようでドロワは朝の挨拶をした。それにレナはおはようと返し、そういえばと最近つけていなかった花の髪飾りを空間から取り出した。


「レナさんそれは?」


 髪飾りに興味を持ったらしいドロワ、レナの手に乗っている髪飾りをまじまじと見つめる。


「あー……おまもり、みたいなもの。大切な人からもらったものだから森を出る時はつけないようにしているの」


 5枚の花弁で出来た花は手の平サイズで、花びらは白いが先端の辺りだけが青くシンプルながらも綺麗であった。


「本物の花みたい! 綺麗ですね」


「本物だよ。上手く加工してもらってこうやって髪につけられるようにピンがついているの」



 髪飾りをさし込み実際にパチリとつけていると、レナの艶やかな栗色の髪にその白い花はよく映えた。花は先ほどよりもキラリと光ったように見えたドロワは目を擦りもう1度花を見る。


「その花……不思議、光ってるみたい……」



「そうね、この花は何故か魔力を吸うみたい。こうして髪に着けると段々花が石みたいに固まってもっとキラキラ光るようになるよ。

 石になる所、見てみる?」


 思わず頷くドロワ。


 レナが髪に着けた花に触れゆっくりと魔力を注ぎだすとまだ瑞々しさが残っていた花は少しずつ結晶化し、宝石のようになっていく。また花自体がぼんやり光っている様子にドロワは驚いた。


「ネモラの……花」


「えっ?」


 ぽつりと呟かれた言葉に聞き返すレナ。ドロワは興奮した様子で先程より大きな声で、


「これっネモラの花だ! どこにでもあってどこにでもない花……まさか本当に? ……実在しているなんて」


「ドロワ突然どうしたんだよ、ネモラってなんだ?聞いたことないけどそんなに珍しいやつなのか?」


 興奮するドロワが珍しいのかゴーシュは少し驚いた様子で白い花を見る。が、今まで里からあまり出た事のない他との関わりも少なかった言わば世間知らず。別にそんな花があっても不思議ではないんじゃないのかとゴーシュは思った。


「ドロワはこれの事を知っているの? 私は今まで色々なものを見てきたつもりだけれど聞いた事がない。元々この花は特別な花だったから大事にしてきたけどこれは存在を疑えるほどに珍しい花だったんだ……もっと大事にしたいと思えた。ありがとう」


 レナはドロワに礼を言い、慈しむようにそっと花を撫でた。どこにでもあってどこにもない花——ネモラの花はそれに応えるかのようにキラリと輝いた。


「あっそろそろご飯にする? もしまだお腹空いてないなら軽く運動しておきたいとおもうんだけれど2人はどうする?」


「俺はちょっと腹減ったから何か食べたい」

「私もお腹空いてるけれど……レナ様のやられたい事をして欲しいと思っています」


「レナ様?」


 突然の様つけに戸惑うレナ、そしてゴーシュも驚いている。だがそんな事には気にも留めないドロワはキラキラとした視線をレナに向けるのみであった。

(まぁいっか…)

 レナも特に気にしない方向でいくことにし、双子がお腹を空かせているようなので下処理済みにしてあった大きな魚を取り出し串焼きを作る事にした。あの湖で取れた魚は身は柔らかく味は淡白ながらも味わって食べるとその美味しさがよく分かる。


 人によっては味がしないというのかもしれないが、それは普段濃い味付けの物や海の魚ばかりせいなのだとレナは思っていた。だから今までまともに食べてこなかった双子もこの上品な味はきちんと感じ取ってくれるだろうと想像している。


 炭火で焼くのが好みだったレナは焼くために今回は小屋の外で焼き始めた。串焼きは焼き上がるまで時間が少々かかる為それまでの繋ぎにと簡単に野菜炒めも作ってしまい双子に食べさせる。


 そうやって時間を潰していくうちに魚が綺麗に焼き上がり提供すると、はふはふと熱々のそれを口に運び双子は美味しそうに食べ始めどうやら気に入ったようだった。その様子に満足したレナはその場を後にし駆け出す。運動兼食材調達である。


 本格的な冬を迎える前にまだ肥えている獲物を狩り、木の実や野草を収穫し3人で毎日それらを食べてもかなりの期間持つほどに食料が集まった。まだまだ集める事が出来たがあまり双子を放置するは良くないと小屋まで戻る事に。


「あっレナ様おかえりなさいませ。……あの、お節介だったのかも知れませんがサラダを作りましたので朝食として良ければ食べてください」


「えっ、ありがとう。美味しそう」


 差し出されたサラダは近くで採れる野草とナッツを砕いたものを振りかけられたシンプルなもので、採ってきたばかりなのだろう見た目にも瑞々しい。

 レナは早速そのサラダを食べ始めた。野草のシャキシャキ感とナッツのザクザクとした食感がリズミカルにハーモニーを奏でる。それは昔、幼い頃に初めて作ったサラダのようだと懐かしく思いながらしっかり最後まで食べ切った。その様子を食べ終わるまでドロワは嬉しそうに見守り、食べ切ればにっこりと笑顔を浮かべた。


「そういえば兄の方はどうしたの?出ちゃった?」


 食器を片付けながらレナは尋ねた。


「えっとお兄ちゃんは今……」


「ちっもう帰ってきてたのかよ」


 噂をすれば何とやら、ゴーシュは何かを持ちながら帰ってきた。真っ赤なそれに一瞬怪我してきたのかと思ったがよく見れば林檎のようだととりあえずレナは安心をする。


「もうお兄ちゃん遅い、レナ様はもうサラダ食べ終わっちゃったじゃない」


「し、仕方ねぇだろ近くにないし登れない木が多かったんだから。……ほらドロワ、後は任せたから」


 そう言ってゴーシュは林檎を渡しどこかへ去っていく。ドロワは仕方ないなとでもいうように肩を竦めた。


「あの、レナ様。何か切るものを借りたいのですがいいですか?」


 林檎を切りたいのだろうと想像がつき果物ナイフを手渡した。それにドロワは感謝をしその場で林檎を剥き始め食べやすい大きさに切り分けていく。林檎の甘く爽やかな香りが広がった。


「レナ様どうぞ!その、お兄ちゃんと相談して何とか恩返しをしたいって……えっと…………」


「もらうよ、わざわざありがとう。でも気にしなくても……、気が済まないか。いいよ、今度から料理をドロワにお願いする。私も楽になるしありがたいって思う」


 シュンと落ち込んでしまったドロワにため息をつきかけながらも今後も作って欲しいとお願いすれば嬉しそうにするも、一瞬でまた悲しそうな表情に戻ってしまいレナは一体何が駄目なのかと考えてみるが全く思いつかない。


「その任せてもらえるなら喜んでやりたいです……でもそのあまり料理をした事がなくてレナ様が作るようなもの作れなくって……」


「それなら料理教えてあげる。だからいつかあなたが1人で作ったものを食べる日を、楽しみにしてる」


「レナさま…」


 ドロワの頭に手を乗せぽんぽんと撫でるようにすれば瞳が潤んでいく。その様子を見て少し屈んでそっと抱き寄せればレナのシャツはじんわりと濡れていきそれでも泣き止むまで2人はそのまま動かなかった。


「はい、これで目元冷やして」


 暫くして泣き止み顔を見れば目元が腫れ、少し目も充血したのかほんのりピンク色に。冷やしたタオルを差し出せばおずおずと受け取り目元を冷やし始めた。



「レナ様色々とありがとうございます。私、これから沢山頑張って覚えます!それまでよろしくお願いします」


「分かった、これからよろしく。でも時間はいくらでもあるのだから慌てずゆっくり頑張ればいいよ」



 そうこれからお互い時間があるのだから。



 しかしこの時はまだ誰も知らなかった、近づいてくる存在に。


 「この森だって聞いてたけどどこだろうなぁ?」


 穏やかな時間が突然引き裂かれる事になるとは想像もしていなかった。

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