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犯罪予測

作者: HasumiChouji

「私が聞きたい事は判っていると思うが……」

 警察庁長官は、犯罪予測システムの開発責任者に、まず、そう言った。

「ええ……予想は付いています」

「では、ここ半年で、個別(ローン・ウルフ)型のテロ二十件以上を予防出来た事は評価しよう。問題は、これだ」

 長官がリモコンを操作すると、執務室の大型TVのスイッチが入った。

『テレホン・ショッピングの時間です。本日、オススメの商品は……』

「あ、間違えた、こっちだ」

 長官は衛星放送のニュース専門チャンネルに切り替える。

 画面には、爆破テロを受けた都心の高層ビルが映っていた。

「何故、これを予想出来なかったのかね」

「ええ、ですから、犯罪予測システムの研究・開発を始めた際に説明した筈ですが……」

「聞いてない」

「前長官から引き継ぎを受けたのでは?」

「よく判らん説明だった。多分、前任者も、君の説明をよく理解していなかったのだろう」

「では、説明させていただきます。一口に犯罪者やテロリストと言っても、性格や置かれている状況や心理状態によって、やる可能性の高い犯罪や、向いている犯罪は違います。同じテロでも個別(ローン・ウルフ)型と、この事件のような大規模な組織型のテロでは、実行犯の性格・心理状態・行動パターンは異なります。むしろ正反対と言って良いでしょう」

「それで」

「現在の犯罪予測システムでは、個人または少人数による個別(ローン・ウルフ)型のテロや衝動型の犯罪は事前に予測可能ですが、多数の人間が関わり綿密な計画の元に行なわれるテロ・犯罪は対応が不十分です」

「対応したまえ、すぐにだ」

「努力いたします」


 そして数ヶ月が過ぎた。

「私が聞きたい事は判っていると思うが……」

 警察庁長官は、犯罪予測システムの開発責任者に、まず、そう言った。

「ええ……予想は付いています」

「では、○○国大統領が我が国に来られた際に襲撃を目論んでいたテロ組織を摘発した成果は評価しよう。問題は、これだ」

 長官がリモコンを操作すると、執務室の大型TVのスイッチが入った。

『麻薬を取り戻さないと、お前と弟を「人体の神秘」展に送るぞ‼』

「あ、間違えた、こっちだ」

 長官は衛星放送のニュース専門チャンネルに切り替える。

 アナウンサーが軍の若手将校によるクーデター未遂事件の続報を告げていた。

「何故、これを予測出来なかったのかね?」

「はい。似た性質・文化の組織に属する者は、その組織の合法性とは関係なしに、性格・心理状態・行動パターンが似てくる傾向が有ります。中央集権的な犯罪・テロ組織の構成員は、軍や警察などの組織の一員と性格・心理状態・行動パターンが極めて似ており、逆に、分散型の犯罪・テロ組織の構成員の性格や心理状態や行動パターンは、上下関係が緩いタイプの企業や合法団体の社員・構成員のものに似てきます。そして、犯罪・テロ組織も大規模になればなるほど、『法を犯す意図が有るか?』の一点を除いて、官公庁や大企業によく似た振る舞いをする傾向が強まります。その為、『その者が所属しているのが公的機関か民間企業や合法的な民間団体か犯罪・テロ組織か?』を、ある人物がやろうとしている事が犯罪か否かを判別する規準の1つとして使った結果、今回のケースでは、通常の軍務かクーデター計画かを切り分けられなかったと……」

「ふ〜む、なるほど……と言う事は……」

「はい、すぐに対処します。では、これで……」

「い……いや……その……新しい規準を犯罪予測システムに付与するにしても、少し慎重にだな……おい、待て、話を最後まで聞け‼」


 そして、また、数ヶ月が過ぎた。

「小職が言いたい事はお判りと思いますが……」

 警察庁長官の執務室に通された検察官は、まず、そう言った。

「やっぱり、こうなったか……」

「警察庁と検察庁が共同で運用している犯罪予測システムが、長官と複数の警察官僚が共謀して公金横領を行なっている兆候を察知しました。弁護士をお呼びになる事をお勧めします。あと、こちらが逮捕状ですが、確認なさいますか?」

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