選択肢
古代都市の廃墟の竜の巣へと向かうと
装置で下部へと降りていく段階で
虹色の子竜が飛んできて
「はやく!はやく!お腹空いたよ!」
急かしてくる。
廃墟跡へと着地すると
子竜が背中を見せて来た乗れと言う事らしい。
青色の親竜は感動した面持ちで
「乗ってあげてくれないか?」
見下ろしながら頼み込んでくる。
荷物を背負いピグナと何とかその狭い背中に乗ると
子竜は食料貯蔵庫へと
一直線に飛んでいった。
何とか振り落とされないように
掴まって、神殿へと着地するまで踏ん張る。
食料貯蔵庫の扉は子竜に力づくで開けてもらい。
食材を運び出すと、俺たちはその場で
火を起こして料理を始めた。
一時間半ほどで肉料理ができ上がり
子竜に振舞うのと同時に俺たちも
夕食として食べることにする。
「美味しいね……」
隣に座ったピグナが言ってくる。
「そうだな。なあ、クェルサマンさんが
こんなこと話してたんだけど」
ピグナの能力が、俺たちと不釣り合いだと
いう話を聞かされたということを
食べながら言うと
「……うん。その通りだね。
段々気づいてきたけど、あたしじゃ
役不足だよ。たぶんバムちゃんとあたしでは
千倍くらい力が違うと思う」
「せっ、千倍?」
近くでは子竜が大量に作られた肉料理を
美味しそうに頬張っている。
「たぶん、バムちゃんは天使とか悪魔じゃなくて
どこかの神でしょ?それも並みじゃないレベルの」
「そ、そうなのかな……」
いまいち実感が沸かないが思い当たる節が無いわけでもない。
「でもね……」
ピグナは少し黙ってから
「あたし、それでも頑張るよ。頑張りたい」
俺の顔を見ながら言ってくる。
「分かった。今後とも頼むな」
何気なく言うと、ピグナはとても嬉しそうに微笑む。
なんか最近、こいつの様子がおかしい。
抱きついたり、微笑んできたりと
ストレスでちょっと精神を病み始めたのだろうか。
いや、でも悪魔だしなぁ。
まあいいか。悪魔の健康を心配するほど
こちらも余裕があるわけではない。
子竜が食べ終わり、その場で眠ってしまったので
俺たちも荷物を再び背負って
親竜が伏せて休んでいる場所へと行く。
そして終わったと告げると
すぐに帝都へと送り返してくれた。
すっかり真っ暗闇になった中を
竜の背中に乗って飛んでいく。
隣に座ったピグナが
「ね、ねぇ、ゴルダブル……もしあたしが
人間だったら、選択肢に入る?」
といきなり訊いてきて
何とも悪趣味なことを尋ねるもんだと
「最初から人間とかエルフならな」
と答えると、しばらく暗闇の中で
沈黙が続き
「と、途中からじゃダメかな……」
「人間になれるのか?」
「難しいけど、ゴルダブルがそっちの方が良いなら」
ちょっと考えて
「やっぱりお前は悪魔がいいわ。
ずっと悪魔で居てくれ」
と答えると、ピグナは黙ってしまった。
宿の屋上に再び着陸した親竜の背中から
二人で降りて、また来るのでここに泊まっていて欲しい
という親竜に了承すると、暗闇に飛び立って行った。
ホテルの宿泊室へと戻ると
中は整然としていて、ペップとファイナは
どうやらもう寝室で寝ているらしい。
実は俺は昨日からペップを避けてリビングで
寝袋で寝ている。あいつと一緒に寝ると
勝手に抱きつかれて、気づくと早朝に
意識を落とされるからだ。
スウィートルームに泊まってまで
また今日も寝袋かよ……と思いながら
荷物から引き出そうとしていると
「あ、あのさ。内緒で二人で別の部屋に
泊まらない?」
ピグナが顔を紅潮させて言ってくる。
それファイナとやろうとしたら
お前自身が止めたんじゃないんかいと
若干煩わしく思いながら
「いや、いいわ。遠慮しとく」
と言うと、それでも食い下がってきて
「で、でもベッドで寝られるよ?」
ちょっと気を引かれた俺は
「まあ、それならいいわ」
と気軽に返事をしてしまう。
ピグナは部屋の鍵を懐から出してきた。
「実はもうとってある」
「そうか、じゃあ行くか」
と部屋を出ようとしたその時
片方の寝室の扉がパタリと開いて
「えっ、えっ、えっ……」
としゃくりあげながら、目を閉じたままの
ペップがフラフラと出てきた。
俺は本能的に危険を感じて
サッと横に避けると
ペップはピグナに抱き着き
「えっ、えっ、エッチなのはいけないにゃああああああ!
エッチなのは………ぐー」
羽交い絞めにしたまま床で眠ってしまった。
夢遊病か何かなんだろうか……怖すぎる。
「ご、ゴルダブル助けて……」
「い、いや、ちょっと難しいかな……」
触ると俺も巻き込まれる恐れがある。
俺は見なかったことにして
そのまま床に寝袋を敷き
寝た。ペップは格闘術を修めた細マッチョだし
ピグナは悪魔なので放っておいても大丈夫だろう。




