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料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転生した  作者: 弐屋 中二
ワールド料理カップ

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98/200

小規模な戦争

試合を見守っていると

いきなり窯に薪を入れようとしていたペップが

横へと激しく吹っ飛んでいく。

「……!?」

何が起こったのか分からずに

言葉を失っていると

三十メートルほどふっ飛ばされたペップが

何とか無事に戻ってきて

「やられたにゃ……多分風圧での攻撃だにゃ」


向こうで何食わぬ顔で料理を続けている

ホンダラ村の三人を見つめる。

「ど、どういうことなんだ?」

透明になっているクェルサマンの声が近くから

「達人の遠距離攻撃ですね。

 気合で拳を突き出して、風圧を遠くの相手に

 当てるのです。私も相手を注視していましたが

 準備動作が見当たらなかったので

 相当な速度で放たれたようです」


「やばすぎないか?」

それが本当ならば、こちらへと攻撃し放題ということである。

「ファイナさんにちょっとアドバイスしてきます」

クェルサマンはそう言うと近くから気配を消した。

「ゴルダブル!ここ、どうすればいいんだっけ!?」

焦った顔のピグナがいきなり俺に料理の手順について

教えろと言ってくる。


料理用のテーブルの近くまで這っていき

ピグナと、体勢を立て直したペップに

不味い料理の作り方を教えていると

俺たちとホンダラチームの間の空間で

いきなり「バスウウウウウウ!!!」という何か

大きな物体が巨大な壁に当たったかのような

破裂音とも衝突音とも言えないような

音が響き渡る。


「我々の四方と上部に、ファイナさんの魔法で

 透明な空気の壁を作って貰いました」

透明なクェルサマンの声が説明してくる。

ファイナを見ると、近くで両手を掲げたまま

微動だにせずに脂汗を垂らしている。

見た感じ負担が大きそうだ。


「ファイナは大丈夫なのか?」

「……あまり、長くはもちません。

 ピグナさん、ペップさん急いでください」

「分かってるよ!ゴルダブル!どの調味料だっけ!?」

ピグナが逆ギレ気味に尋ねてくる。

近くに横たわったまま教えていると

今度は上下左右に

「バス!バスバスバスバスウゥウゥウウウ!」

という何かが突き刺さるような衝突音が何度も続いて

周囲の空気が激しく揺れだした。

向こうのチームを見るが、何事も無いかの様に

料理を続けている。


「凄まじい達人たちですね。子供が二人混ざっているのが

 また何とも。我々の力を必要としない超人たちですか……」

クェルサマンが興味深げに言うと

ピグナがイライラしながら

「そんなことはいいから!早くこれを窯に入れて!」

ペップに言って、ペップが慌てて窯に入れて

料理を焼き始める。

同時にピグナがトッピングを作り始める。


今回の料理は最高に不味いピザだ。

練習段階ではかなりの力作で

食べたファイナが喜びで泣き崩れたくらいのヤバい味である。

必死に包丁で腐りかけた野菜を刻んで

肉をフライパンで焼き、窯から出したピザに

トッピングを盛り付けて、料理がようやく完成するのと

同時に、ファイナが崩れ落ちて

辺りの調理器具が、風圧で吹っ飛んでいく。

料理はとっさにペップが守って退避したので

無事だったが、残りの俺たちは器具と共に舞い上がったので

審判員たちから不正な魔法力の使用を疑われて

ペップ以外は退場させられた。


前回の試合でモニターが壊れたままの

控室で外の状況が分からずに、悶々と待っていると

やつれ果てたペップが戻ってきて

「か、勝ったにゃ……」

その場に倒れ込む。

もう殆ど料理での試合というより

超小規模な戦争に近かったが、どうにかなったようだ。


歩けるようになった俺と仲間たちは

競技場を出ていく。ファイナは気を失っているので

俺が背負っている。

出て行くなり、すぐに姿を現したクェルサマンが

「うーむ、凄まじい試合でしたなぁ」

と汗だくの禿げ頭を、スーツから出したハンカチで拭った。


「あんたのお陰だにゃ。これからもよろしく頼むにゃ」

すかさずにペップが感謝して

ピグナも言い辛そうに

「あたしだけじゃ無理だったよ。助かった」

小さな声で謝意を告げる。クェルサマンは微笑んで

「いえいえ、全員の勝利ですよ」

「飲むにゃ!今日は飲むにゃ!」

「美味い酒あるかなぁ……」

などと全員で言い合いながら、ホテルへと戻ると

いきなりホテルの屋上から

大きな竜の首がこちらを見つめてきて


「坊やの食事をとりにきた」

と言ってきた。親竜が食事を取りに来たらしい。

そう言えば確かに、長いこと食事を届けていなかった。

ホテルに面した歩道を歩く、結構な量の通行人たちはチラッと見上げて

興味なさそうに通り過ぎていく。ここでも竜には慣れているようだ。

「あたしとゴルダブルが行ってくるよ。

 みんなは部屋で休んでて」

とピグナは言うなり、俺の手を取って

ホテルの外付けの非常階段を屋上まで上がっていく。


親竜の背中に乗って帝都上空を舞い上がる。

「坊やは巣で待っている。私が君たちを探すのに手間がかかってね。

 お腹を空かせているから、沢山作ってくれ」

「わかりました」

「任せてよ」

しばらく竜が飛ぶと夕暮れが辺りを包みだした。


「ゴルダブルさぁ、今日はごめんね」

隣に座るピグナがボソッと呟く。

「気にするなよ。勝ったからいいんだよ」

何気なく返すと、いきなりピグナが抱きついてきた。

「で、でもあたし、もし勝てなかったらと思うと不安で……」

「う、うん……」

なんだこれ。乙女かよ……お前の悪魔キャラはどこいったんだ。

と思いながら抱きつかれたままにしていると

「ずっと一緒だよね?」

いきなり尋ねてくる。


もしファイナやバムが相手なら

きたあああああああああああああ!!!!

となるところだが、ピグナなのでならない。

素面の顔のまま

「まあ、目的を果たすまでは一緒だよな」

と答えると、ピグナは頬を膨らませて

「ばかっ!ゴルダブルの鬼畜!」

といきなり起こって、身体を突き放してくる。

「あっ、ちょっと落ちるって……」

危うく下へと落ちそうになりながら、何とか体勢を立て直すと

ピグナは夕陽に照らされて、反対側を向いていた。

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