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料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転生した  作者: 弐屋 中二
ワールド料理カップ

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95/200

泥試合

それから二回戦当日までは早かった。

一回戦で、全員の役割がはっきりしたので

帝都内の公園で陣形の練習をしたりして

日々はすぐに過ぎて行った。

バムの話も三人にしたが

とりあえず、それよりも試合に向けて

頑張ろうということになり、有耶無耶になった。


二回戦当日。

今回は対戦相手は事前にはっきりしている。

ラマナ聖教国の教団から派遣された

マルウという聖騎士長をリーダーとした

四人組との対戦である。


守護をしているのは冥界の広い地域を

治めているキルキルキル・アアア・ポッチャム

という冗談みたいな名前の大悪魔だと

ピグナからは教えられた。

「舐めたらダメだよ。名前と見た目はかわいいけど

 相当に狡猾なやつだからね」


控室で、四人で待っていると

係員から花束が届けられる。

ピグナはそれを見た瞬間に

「持って帰って」

と言ってピシャッと扉を閉じた。


直後に外から

「うっ」

といううめき声と人が倒れる音がする。

慌てて出ようとすると

「睡眠ガスだと思う。開けたらダメだよ。

 ほら、みんな、扉から離れて」


唖然としながら扉から離れると

室内の小型モニターの砂嵐が酷くなり

次第に人の顔へと変わり

十歳くらいの茶髪を坊ちゃん刈りにした

かわいらしい男の子が現れた。


「余の贈り物を受け取らぬとは

 なかなか大物になったのう。なあ、ツヴァルナよ」

ピグナはサッと片膝をついて座り

「そんなことはございません。

 これも契約のうちですから、お察しいただけると

 ありがたく存じます」

急に丁寧な言葉で返答しだす。


「……まあよい。余の娼だったころが

 懐かしいわ。早く帰ってこい。

 また可愛がってやるぞ?」

男の子は不機嫌そうな声でそう言うと

モニターの画像は壊れたようで

何も映さなくなった。


ピグナはスッと立ち上がると

イライラした雰囲気でガンっと

控室のベンチを蹴り上げる。

「無意味な暴力はいけないにゃあ……」

ペップがその肩を掴むと

ピグナは振り返らずに身体を震わせて

「あいつ……やっぱり嫌いだ……コテンパンにしてよ。

 みんな……」

何か事情があったんだろうなと

全員で押し黙った後に


「おまかせください。わたくしは頑張りますわ」

ファイナがニコッと笑って俺たちを見回して

ペップと俺も頷いた。

そうこうしている内に

二回戦が開始された。

俺たちは審判員と共に大歓声の中入場していく。


さっそく俺が転げそうになったが

すばやくペップが支えて、近くの芝生を蹴り上げる。

「ギャッ」という声がして

審判員と共に辺りを見回すが誰も居ない。

ペップは素知らぬ顔をしている。


最初の主将挨拶が始まり

俺は二メートルほどありそうな端正な顔だちの

筋骨隆々とした真っ白なスーツ姿の男と向かい合い

そして固く握手を交わす。

「ルールにのっとって、正々堂々戦いましょう!」

白い歯を見せて男は言ってくる。

苦笑いしながら、俺は頷いてそして試合が開始された。


制限時間は一回戦と同じく三時間である。

ファイナがさっそく料理窯や調理器具の周囲に魔法陣を描こうとすると

空中からつまみ上げられたかのように

その身体が宙を舞った。咄嗟にペップが跳躍して

抱きかかえて、地上に降ろす。

笛が吹かれて、審判員たちが駆け寄ってきて

今のは何だと尋ねてきたので、ピグナが作り笑いを浮かべながら

意図しない魔法力が暴走したと言い訳をすると

審判員たちはしばらく協議してから

魔法の危険使用のルール違反で、レッドカードを出してきて

ファイナを退場とした。


マズい。さっそく一人削られた。

俺は焦って、料理を始めだす。

その間も俺の周囲を、両眼を瞑ったペップの

蹴りや打撃が掠っていく。

どうやら俺にも妨害の魔の手が迫っているようだ。

ピグナは頭を抱えて、どうするか必死に考えだした。

何とか不味いケーキの生地を混ぜ終わり

そして窯で焼こうと言う所で

いきなりペップの全身の服がはじけ飛んだ。


「えっ……えっ……エッチなのはいけないにゃあ!」

ペップはそう叫ぶと、顔を真っ赤にして

その場にしゃがみこんでピグナが

自分の上着を着せて隠す。

やばいややばいやばい二人目も削られた。

何とか窯へとケーキの生地を入れて

焼こうとすると、今度は俺の両足が浮き上がる。

うわわわわ……このままだと俺も失格に……。


するとピグナが

「やめろ!」

と全身に真黒な炎を纏いながら

俺の方を見つめて、低く一喝してきた。

途端に浮き上がった両足は降りて

慌てて窯にケーキを入れて閉じる。


ピグナはそのまま姿を消した。

次の瞬間には向こうの相手チームの四人中三人が

高く空へと舞い上がって、即座にファイナと同じ理由で失格になる。

さらに残った主将の聖騎士も、堪えているが

浮き上がりそうである。


俺はその隙に焼き上がったケーキに

腐りかけた果物と不味いクリームをトッピングして

ケーキを仕上げた。

手を挙げて、審判員たちを呼んで

試食してもらい、そしてついでに

姿をいきなり消したピグナの退場も言い渡される。

それを謹んで受け入れて、俺はペップと二人で

そそくさと控室へと戻っていった。


「うう……私のナイスバディがみんなに

 見られてしまったにゃ……」

ペップはベンチに座ってうな垂れる。

「……災難だったな……」

先に失格になって戻っていたファイナと

ペップを励ましていると

いきなりピグナが姿を現した。

スッキリした顔をしている。


「どうだったんだ?」

「ぶっ潰してきたよ。とりあえず

 あの聖騎士を全裸大開脚させて公然猥褻罪で逮捕させた」

「……やりすぎでは?」

「ペップもやられたからいいんだよ。あんなクソ悪魔を崇拝してる教団なんて

 ぶっ潰れればいいんだ」

ピグナは相当に怒っていたようだ。

審判員が俺とペップを呼びに来て

ペップは辞退して、俺だけが試合場へと出ていく。


芝生が燃えた後が広がって

相手チームの調理器具がグチャグチャになった跡に

唖然としながら、俺は審判員から腕を取られて掲げられ

「チームゴルダブルの勝利!」

競技場は大歓声に包まれる。

めちゃくちゃ泥仕合だったが

どうにかなったらしい。

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