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料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転生した  作者: 弐屋 中二
ワールド料理カップへ向けて

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77/200

感触

牢屋はナルアド家の地下のものだったらしく

俺は階段をあがって

屋敷の応接間へと連れていかれる。

応接間にはマクネルファーとファイナが座っていて

「ど、どうじゃった?」

尋ねてきたマクネルファーにピグナは頷いて

「罠にかかった。やっぱり前食王の守護者だったよ」

「そうか……それは残念じゃな……」

「そうですわね……」

ファイナも俯く。二人はすでにピグナから

事前に話を聞かされていたようだ。


俺はまだ半信半疑である。

バムが居ないという事実にも。

「次期当主は、ピグナちゃんが見つけてくれてのう」

「うん。ここから四十キロ離れた農村に

 住んでるナルアド家遠縁の農夫が適任だったよ」

悪魔センサーで見つけたのだろう。


「何か私、お腹すきましたわ」

いきなり言ってきたファイナにピグナは頷いて

「ほら、ゴルダブル。本来の修行の第一歩だよ。

 この屋敷の調理場で、私と一緒に

 二種類の料理を作らないと」

そう言って、俺の手を引っ張って調理場へと連れて行った。


「ちゃんと自分の手で造るんだよ?

 私はアドバイスだけ」

まるでピグナが、まともな人間に見えて

目を丸くしていると

「そっ、そんなに見ないでよ」

頬を赤くして、顔を横に逸らした。


苦労しつつ、何とか二種類の料理を作って

持って行く。

ファイナは俺の作った不味いスープを飲みながら

「ふむ。悪くないですわ」

一応満足してくれた。

しかし罪悪感が痛まないように

不味い料理を作るのは大変である。

如何に、バムに頼り切っていたか、今更ながら知る。


他の皆と共に、普通の味の料理も食べる。

ファイナは最近はもう慣れたようで

バムの作る普通の料理の匂いにも

文句は言わなくなっていた。

ずっと修行していると思い込んでいるのも大きいが。


食べ終わって片付けると

ピグナがいそいそと

「寝る?一人で寝るの?」

と俺にさりげなく聞いてきた。

「うん。一人で寝るよ」

「私も一緒に……いや、ダメか。

 そういう修行してるんでしょ?」


「いやそれはバムが言っていただけで……」

だけど悪魔とは寝たくないので

断わって、一人でマクネルファーが用意してくれた

宿泊室へと歩いていく。

そう言えば、風呂に入ってなかったなと

メイドに場所を尋ねて、一人で風呂へと向かう。


大理石の広く豪華な風呂へと入って

天井を眺めてボーっとしていると

いきなり隣に誰かの気配がして

横を向くとそこにはバムが居た。

もちろん何も着ていないようだが

湯気で良く見えない。


「ば、バム!?」

「ちゃんと別れの挨拶を言ってなかったなと思いまして」

バムは少し顔を赤らめて言ってくる。

「別れって、もうこれっきりなのか?」

「そうではないですが、でもそうかもしれません」

「そ、そう……」

そう言いながらも、どちらかというと

湯気に隠れたバムの身体を見ようと

苦心していると


「見たいですか?」

「……正直そうだな」

「ですが、見ない方が良いですよ。

 性欲は食欲や睡眠欲と並ぶ根源的な欲求です。

 そこのコントロールも、食王へと試練の一つなんです」

「な、なあ、バムは味方なのか?敵なのか?

 もうよくわからないよ」

「……ゴルダブル様、いや直巳さまが好きなのは

 確かですよ」


いきなり教えていない本名を言ってきたバムに

ようやく俺はピグナの言っていた

バムの正体について、理解できた。

「……頑張ってください」

バムはそう言うと、俺を強く抱きしめて

そしてフッと消えた。

そのやわらかい身体の感触がいつまでも残ったまま

俺は風呂場で呆然とする。

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