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料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転生した  作者: 弐屋 中二
北の果てに向かって

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失敗の経験

「ち、地下室も無くなってますわね……」

「ああ、こりゃ……」

ピグナはニヤリとしようとして

ペップから睨まれて慌てて黙る。

「これは何だにゃ?説明しにゃさい」


「……マクネルファー死んだと思う」

「……本気で言ってる?」

ピグナは頷いた。

周囲の建物は無事の様である。

五人で唖然として突っ立っていると


隣の三階建てのレンガ造りのビルから

ふくよかな中年のおばさんが出てきた。

「あんたら、ここの関係者?」

といきなり尋ねてきたので、俺が頷こうとすると

スッとバムが出て

「いえ、知り合いですよ。泊めて貰ってて」

「……ああ、どおりで顔見たことあると思ったわ。

 私はとなりの建物の大家よ」

おばさんはため息を吐いて

何があったのか話し出した。


昨日の夜中、いきなり空へと大きな火柱が上がって

驚いて外へと出ると、この状態になっていたらしい。

「たまげたわよ。よく、うちや

 周りの建物が無事だったと思うけど

 ガラスとか、結構割れてるから……」

「そ、そうですか……」

弁償して欲しいようだ。バムが誤魔化してくれて助かった。


「あの、ここに住んでたマクネルファーさんは?」

「ああ、死んだって聞いたわよ。

 ほら、この状態でしょ?跡形も無いし」

「そうですか……」

ピグナの言っていることは本当らしい。


大家のおばさんが去って、またしばらく俺たちは

無言で黒焦げで穴が空いている敷地内に座り込む。

「……マクネルファーさんが……」

「今思い返すと、良いおじいさんでしたわね……」

ファイナとバムは涙ぐんでいる。

ピグナは鉱石を小分けしてきた袋の一つを

俺に見せて

「これ、どうすんの?必要なくなったけど」

「売るか……」

それよりも短い付き合いだったが

マクネルファーの葬式をしてやるのが先かもしれない。

と思って本気で凹んでいると


敷地内の中心地の大穴の真ん中辺りの宙に

小さなブラックホールのようなものが

現れて、そこからなんとマクネルファー本人が

吐き出されてくる。

「あ、みんなお揃いじゃな」

火傷跡一つない白衣のマクネルファーが

ニコニコしながら手を挙げてきて

背後のブラックホールは、休息に萎んでいって綺麗に消えた。


「……」

全員で唖然としてマクネルファーを

見つめていると

「まずい酒を飲みすぎて頭がおかしくなってしまってな。

 それで、スーミルオン鉱石無しで

 実験を開始しようと思い立ってしまったんじゃ!」


「な、なにを言っているのですか?」

ファイナにまで飽きられている。

「わしは祈った。この実験が成功することを!

 これが成功すれば世界の人の味覚が

 劇的に変わる!味覚の妥協点を極められるのじゃ!」

「で、なんでそこから出てきたんだよ……」


「実験器具の爆発慣れしておるわしは

 完全防護服に身を包み、機械とも距離を取って

 安全に実験しておった。

 そして、機械が作動して実験が開始される寸前

 声が聞こえたのじゃよ」

「な、なんて……?」


「"邪魔するな"とな。そして突如宙に現れた穴に

 吸い込まれて、そして気づいたらここよ。

 防護服もなぜか無くなっておるし……だがな……」

「だが、なんですか?」

バムが真剣に聞き返す。俺もマクネルファーに

この失敗の経験で何かつかめたものがあるのだと信じたい。

しばらく沈黙が続き、そして……


「わしは何か面白い体験をした!

 よくわからぬが、楽しかった!がっはっは!」

マクネルファーの笑い声が夜空高く響いて

次の瞬間、ペップがその首筋を叩いて気絶させていた。

「アホなのかにゃ?」

そして冷静な顔で皆に尋ねる。


「アホなのかもしれないな……」

機械のための二種類の鉱石を取りに行くために

どれだけ苦労したと思っているのか。

「アホですわね……」

「そう言っても構わないと思います……」

ファイナとバムも同意する。

「……」

ピグナだけが真面目な顔で

気絶したマクネルファーを見つめていた。

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