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料理に興味が一切ない俺が、味覚が狂った異世界に転生した  作者: 弐屋 中二
北の果てに向かって

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トレーナーパイセン

夕暮れになっても空はまだ晴れていた。

しかし夜中はどうなるのか分からないので

今のうちに洞窟内にテントを立てて

全員で夕食や、夜を越す準備を始める。

それが終わると、ペップが邪悪な笑みを浮かべて

ずっと寝袋に入って寝ていたピグナを起こした。


全員で寝ているピグナを覗き込むと

ピグナは顔を真っ赤にして

「ばっ、罰ゲームでしょ……分かってるよぉ……」

ゴソゴソと仕方なさそうに寝袋から出てきた。


ファイナが腕を組んで

「本当は裸で一日こちょぐりの刑だったんですけど

 それは病気になるので許してあげましたわ!」

と言いながら魔法陣を足元に描いて

いきなり何かを召喚しだした。

ちなみに俺は罰ゲームの詳細は聞かされていないので

驚きつつ、大事にならないといいがと祈る。


魔法陣からは泥人形のような土で出来た大男が出てきて

「はいっ!ピグナさん!腹筋せんね!あと七百五十回ばい!」

寝袋から出てきたピグナを無理やり座らせて

腹筋を鍛える運動の体勢にさせる。

「ふっきーん……?うそでしょ……?」

嫌そうな顔のピグナに、いきなり泥人形が詰め寄って

「まだ背筋七百五十回と、腕立て千回あるばい!

 ほらはよせんね!」

唖然としているピグナの補助をして腹筋をさせはじめた。


「なんで体育会系的な罰ゲームになったんだよ……」

そう尋ねるとペップがビシッと、腹筋をしているピグナを指さして

「嫌な思いをするだけじゃ前を向くことにならないにゃ!

 筋肉痛の痛み、そして残った筋肉がピグナの血となり

 肉となり、前向きな人格の悪魔にするにゃ!」


前向きな人格の悪魔ってなんだよ……と思いつつ

ファイナとバムも真面目に頷いているので

ツッコむのは止めようと思う。女子たちに任せよう。

ピグナは泥で出来た大男に水分補給や休憩のタイミングなどを

指示されながら、汗を流して腹筋を続けている。


「あの泥人形みたいなのは?」

「トレーナーパイセンという魔界のモンスターですわ。

 初級召喚で呼びだせる、魔術師たちの健康のお供です!」

ファイナが鼻の穴を膨らませて答えてくれる。

「魔界の住人なのかよ……」

「人を鍛えることが生き甲斐のモンスターだにゃ!

 ファイナちゃんからさっき聞いたにゃ!」


トレーナーパイセンは身体を壊さない適切なトレーニング方法を

助言しつつ、ピグナを腹筋させ続けている。

普通の人間だと七百五十回も腹筋すると大体腰が悪くなるが

ピグナの身体は耐えられるようだ。

とりあえず、見ていられないので、俺は外の様子を見に行く。

少し空が曇ってきた


眺めていると陽が沈んで暗くなるにつれて

チラホラと雪が降り始めた。

あーこりゃ吹雪くな……みんなにも伝えないとな。

と洞窟の中に戻ると、なんとペップやファイナ、そしてバムも

腹筋を始めている。


「どうしたの?」

「なんか私たちもトレーニングしたくなったにゃ!ゴルダブルもしろにゃ!」

「いや、天気崩れてて、夜中吹雪になるから俺たちは

 体力温存しといた方がいいぞ」

そう言うと三人は残念そうに腹筋をやめた。


夜が深くなるにつれ次第に寒くなってきたので

テントの中にファイナとペップは入り

俺とバムはまだトレーナーパイセンからしごかれているピグナを見守る。

「よしっ!七百五十回いったばい!残りのトレーニングはまた明日するばい!」

トレーナーパイセンはそう言うとスッと消えた。一旦魔界に帰ったようだ。


ドサッと倒れ込んで白目を剥いているピグナをテントの中に運び込んで

女子たちに着替えと介抱を任せて、俺は外に出る

洞窟の入口までいって外の様子を見ると猛烈な吹雪になりつつあるのが分かる。

今夜は洞窟からは出られなそうだ。

洞窟の奥のテントまで戻ると、既に全員が寝袋に入って

寝る準備が終わっているらしい。俺も端に入ろうとすると

テントの中が一杯なので、外で寝るか、立ってねてくれと言われた。


「いや、それは無理だろ……」

さすがに無茶だと思う。バムが控えめに

「あの……私の寝袋に一緒に……」

ファイナがバムをキッと睨んで

「ダメですわ!それなら私がピグナさんと一緒に入って

 バムさんはペップさんと入ってください!」

「……しょうがないにゃあ……」

ペップは仕方なさそうにバムの寝袋を開けるとスルリと中に入り

ファイナはピグナと一緒に寝袋に入った。


スペースが出来たので

俺はとりあえずテント内で寝られることになったが

釈然としない思いが残る。

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