悪用
魔法の効かない俺が
咄嗟にバムをかばって、二人とも無事だったが
巨人は瓦礫となって崩れ落ちて、
一緒に下へと落下していく。
そうか、俺の人生は女子を守って
抱きしめながら終わるのか……短いが
良い……最後……だった……。
と思っていると、下が厚くて柔らかい雪原だったので
思いっきりそこにめり込んだだけで助かった。
「ゴ、ゴルダブル様……」
「無事か?」
「は、はい……」
戦闘中じゃなければ最高だったが
今はそれどころではない。雪から顔を出して
洞窟の方を眺めると
ちょうど、恐る恐るファイナとピグナ
そしてペップが出てきている所だった。
「おーい!こっちだー!」
三人へと手を振ると、驚いた顔で駆けてくる。
辺りは岩の巨人が砕けた瓦礫が
プスプスと焦げて、焼けた臭いを出している。
ペップに手を引っ張られて
バムと共に雪から抜け出すと
ファイナが目を丸くして
「な、なんでここに?」
岩の巨人に連れてきてもらったと
事情を説明すると、ファイナとペップは
同時にピグナを睨む。
「い、いやだって。あんな超兵器あったら
わ、私の価値がなくなるでしょ?」
ピグナは後ろにジリジリと下がりながら
言い訳をするが、すばやくペップに掴まって
コートを脱がされて、こちょぐられ始めた。
「あの、もしかしてピグナが攻撃しろと?」
「そうですわ!このままだと洞窟を潰されるからと……」
「こいつのせいか……」
ピグナの言葉も会わせて
こうなった理由が完全に分かった。
あの巨大なゴーレムがあると、悪魔の自分の利用価値がなくなるから
わざとファイナに攻撃させて壊させたらしい。
恐らくは、俺たちが乗っていたのも理解した上でだ。
いくらなんでも理由が酷すぎる。
バムはがっくりと膝をつく。
「スーミルオン鉱石も……壊れましたよね」
「いや、探してみよう」
俺たちが瓦礫を探し出した背後では
激怒したファイナはピグナのブーツを両足脱がして
こちょぐりはじめた。
岩の巨人が粉々になった瓦礫の中を
二人で必死に探し始める。
本当にさっきまで動いていたのが
信じられないくらい粉々だ。
二十分ほど、二手に分かれて必死に探すと
「あ、ありました!」
バムの声が響いて、そちらへと駆けていく。
確かに割れているが、虹色の鉱石が
かなりの量残っている。
安堵のため息を吐いてから
近くを二人でさらに探すと、次々に見つかって
八割ほどの量を回収することが出来た。
「十分だな……」
かなりの量なので、ピップ達にも協力を頼もうと
さきほどの場所に戻ると
下着姿にされたピグナが、ファイナと
ペップにまだ体中をこちょぐられている最中だった。
「あはは……も、もう許して……」
「もう同じことはやらないと誓うにゃ!?」
「ち、誓う!誓います!」
「わたくしの暗黒魔法を悪用してはなりませんよ!」
「し、しません!」
二人が手を離すと、クタッとピグナは動かなくなった。
「……とりあえず、俺たちと鉱石を洞窟の中まで運んで貰っていい?」
「私がやるにゃ!ファイナちゃんは、ピグナに
風邪ひく前に服を着せてやってくれにゃ」
「わかりましたわ」
小分けした鉱石を洞窟の中と何往復もして
運び込んでいく。
ゴーレムは破壊されたが、仕方ない。
とにかく最初の目的だけは果たさないといけない。
コートまで着せられたピグナもついでに背負って
洞窟の中へと運び込んでいく。
こいつが悪魔だということを今回のことで
よく思い出した。やっぱり便利に使っていたら
危ないな、またこういうことを起こしそうだ。
ピグナは寝かせておいて
洞窟の入り口近くで火を起こして
昼食を四人で食べ始める。
俺たちに何が起こったかファイナたち二人に話すと
二人は寝ているピグナを睨んでいた。
「あ、あのゴーレムがあれば世界征服も可能だったのでは!?」
ファイナが憤りながら言う。
「いや、そんなことする気はないけど
色々と楽だっただろうな」
「移動とか、土木作業とか荷物持ちとかは
簡単だったでしょうね……」
「失ったものは仕方ないにゃ!それよりも前を向くことだにゃ!」
ペップがネコミミをピクピクさせながらそう言ってから
チラッとピグナの方を見て
「……大罪を犯したあれに、どんな罰ゲームをさせるかとか
前向きに考えにゃいか?」
ニヤリと笑って言う。
「裸でこちょぐり半日ですわ!」
「……料理当番一週間、いや、一か月ですかね」
「……まあまあ、まだ一日はここに居ないといけないし……」
俺が諫めるのも聞かずに、女子たちは
ピグナにやらせる罰ゲーム話でヒートアップし始めた。
今日が二日目なので
竜が迎えに来るまであと一日である。
明日がまた晴れるとは限らない。
頼むから無事に過ぎて欲しい。




