雪原
竜の背中に座って
晴れ渡った空を北の方角を眺める。
後ろでは、女子たちがキャーキャー言いながら
ピグナを着替えさせている。
当然見られない。しかし見たい。
だがバムが……いや、しかし見たい……。
振り向こうとすると
「終わったにゃー!見ろにゃ!」
無理やりペップが振り向かせようとしてきて
グキッと首が曲がり
そのまま意識を失った。
次に気づいたときは、極寒の地の中だった。
吹きすさぶ猛吹雪で数メートル先が見えない。
「あ、起きましたね」
バムがどうやら荷物と共に俺を背負っていてくれたらしい。
服装は完全防寒でコートのフードを被っていて
口の周りには
凍結防止のマスクまで巻いてくれている。
俺の方が背が高いので、大変だったろうにと
慌てて飛び降りると
「到着してすぐに
ファイナさんが寒すぎて嫌だと言い出して
ペップさんも賛成して、二人は
ピグナさんと共に洞窟で待つことになりました」
並んで進みながらバムが教えてくれる。
「……う、うん?」
もしかして一瞬で三人脱落したのか?
「ピグナさんは、護衛の意味が大きいです。
ゴーレムの支配している地域なので
二人に何かないために、自分が残ると」
「そ、そう……それで二人だけか」
つまりピグナはサボったらしい。
悪魔のあいつが予知してなかったわけがない。
「そういうことです。竜が降ろしてくれた地点は
スーミリオン鉱石の採掘場所から
近い地点だったので、私たちが向かうということに」
「歩き出してどのくらい?」
「もう一時間くらいです」
足元も雪で埋まっていて、確かに進み辛い。
視界も悪く、方向感覚も消滅している。
ここは、野生児のバムの勘を頼ろう。
俺は彼女の近くから離れないように
しようとすぐに決めて、二人でひたすら吹雪の中を進んでく。
異常な状況に時間感覚も吹っ飛んで
どのくらい経ったか分からなくなったころに
バムが俺の耳元に近寄ってきて
「ありました。あれがスーミリオン鉱山のある山です」
目の前に突如現れた、尖った険しい山を指さしてくる。
この上、ま、まだ山に登るのか……。
俺凍死するんじゃ……と思っていると
バムがいきなり俺の身体を押し倒してくる。
「えっ……ちょ……」
まっ、まさかこんなところで発情……した……?
雪がバムの性欲を解き放ったのか?いや、しかしここではなぁ……。
などと馬鹿なことを考えていると
近くを真黒な大きな影が通り過ぎていく。
体長十メートルどころではなさそうなそれに唖然としていると
「なっ、なにあれ……」
「ゴーレムです。古代に誰かが造って大量に
この一帯に放ち、それから辺りを支配しています」
「なっ、なんでだよ……」
「そこまでは勉強不足で知りません。
行ったようです。先を急ぎましょう」
バムは俺の手を握って、猛吹雪の中を先へと急ぎ始めた。
ゴーレムの影への恐怖と寒さで朦朧としはじめた頭に
昔の記憶が過ぎり始める。
田舎にいた中学の頃、俺は弱小野球部で八番ショートだった。
打力はからっきしだったが、堅守でならした俺が
いつものようにヘボピッチャーが打たれまくって
大敗した公式戦の後に
監督のおごりで、チーム一同で焼き肉を食べに行くと
四番を打っていた山口という大男が
「作山、ホルモン食わんのならもらうぞ?」
とサッと俺の近くのプレートから
食べようと思っていた肉を
かっさらっていったのだ。
次の瞬間に俺は山口と、ついでにそいつの親友の
三番を打ってた……えっと
田口だか、真島だか言うやつの近くから
脂身の多い肉をかっさらって口に入れ
キレた二人と乱闘になりかけて
即座に監督に三人とも怒られて、
その日は白飯のみになったんだった。
でも、なんかあの時の白飯、旨かったんだよなぁ。
三番の田村だか、八島だかいうやつだけは
巻き込まれて涙目だったが、山口も食べまくっていた。
ああ、三番のあいつ、名前何だったかな……。
ほんとに、あの時の飯の味、なんか
旨かった……な……。
「ゴルダブル様!しっかりしてください!」
バムから身体を激しく揺らされて起こされる。
「あ、ああ……昔の夢を見ていた……」
走馬灯だったようだ。危なかった。
「……良かった。少し休みましょう」
見回すと洞窟の中のようだ。カンテラの灯が辺りを照らしている。
「山の中じゃないよな?連れてきてくれたの?」
「そうですよ。でも、この吹雪だと
朝までここで過ごした方が良さそうです」
「そうしようか……」
洞窟内にテントを立てて
その中で二人で体温を下げないために寄り添って過ごす。
いや悪くない。悪くは無いが……生還できればの話だ。
生還できなければ、これが冥途の土産か……。
バムを抱きしめると、強く抱き返してきた。
その夜は二人で一つの寝袋に入って寝る。
手を出す余裕などない。
厚着の上から抱きしめ合って
とにかく、夜をやり過ごすことだけ考える。




