祭りの結果
即席の祭りは深夜まで続いている。
街の人たちは、俺たちの作った彼ら用の魚料理を食べて
そして無料で振舞われた酒を飲んで騒いでいる。
ベロンベロンに酔っぱらったヌーングサーは
先ほどから、一切飲んでいないミチャンポ王に絡み始めて
もめ事になりそうなら止めようと
バムとさりげなく近くで待機していると
「あっはっは!そういうことかぁ……」
というヌーングサーの笑い声が響いて
二人は急に親し気に話し始めた。
どうやら、酒を交えてようやくお互い理解ができたらしい。
こうなることを微かに期待していたので
上手くいって俺はニンマリとする。
竜の親子は巨体を浜辺に丸まらせて伏せたまま
すでに十分食べて、スヤスヤと寝ている。
いきなりの無茶振りだったが
結果的に、両国の和平を深めるための
良いスパイスになってくれたようだ。
祭りでにぎわう浜辺の歓声を聞きながら
灯火に照らされて眠る竜の親子を眺めていると
バムは俺に身体を横にくっ付けてきて
「ゴルダブル様……」
上目遣いでこちらを見つめてくる。
「……」
おいおいおいおいおいおいおい!
きたぞ!千載一遇のチャンスが来たぞ!
これはもういけるだろ!今回は良いことも相当にしたし
どう考えてもキス、いや、それだけじゃなく、
横に寝るだけじゃない、本格的な一夜を……。
などとドキドキしていると
「あ、にゃー?にゃにお二人でいい雰囲気になってるんだにゃ?
私も混ぜろにゃー?」
泥酔したペップがいきなり背後から現れて
俺たちの肩をバンバンと叩いてきて
俺たちの良いムードを、一瞬で切り裂いてきた。
……お約束みたいになってるのは何なんだよ!
泣くぞ!ここで号泣してもいいんだぞ!
どこにも言えないこの気持ちを、非情な運命に対してぶつけていると
ヌーングサーが近寄ってきて
「おい、ちょっと話がある」
どうやら酔いも覚めているようだ。彼に連れられて
さらにミチャンポ王の近くへと行くと
ゴリマッチョなネコミミの生えた王がニカっと笑って
「我らは、似たもの同士だということがよく分かった」
ヌーングサーも王の肩を組んで
「そうだな。お前の味覚だけはわかんねぇが。
お前らネコミミ人間どもが、俺たちを本気で心配してたのは
よく分かったよ」
「ヌーングサー達は、魚の食べ方を改めるそうだ」
王がいきなりそう言ってきて、驚いて聞いていると
「ああ、今日、旨い作り方をお前らが示してくれただろ?
今度からはそういう食べ方にするよ。
樽で醸造した魚はもう食べねぇ。そう街にも広める」
お、おおおお……そこまで上手く行くとはこれは……
もう一度バムを見ると、俺を心底尊敬した顔で見ている。
きっ、きたあああああああああああ!
何と神様は二度目のチャンスをくれたようである。
だが慌てるな、まだ慌てるタイミングではない。
ここはこの眼差しをキープしつつ、話を進めよう。
「とにかく、これで完全なる和平同盟は為ったな。
ところでどうだろう、今日この日を、竜の記念日として
お互いの国で設定したいのだが」
「いいねぇ。是非やろう!」
こちらを見てきた二人に俺も頷くと
「よっしゃ!おい、ネコミミ王よ。
お前に聞いて欲しい話は山ほどあるんだ、朝まで付き合えよ」
「良かろう」
二人は肩を組んで、近くの空いているテーブルへと歩いて行った。
俺とバムは取り残される。ペップがいつの間にかいなくなったので
周囲を二人で見回すと、浜辺に大量の吐しゃ物を吐き出して
一人でペップが倒れていた。飲みすぎたようだ。
すぐに二人で祭り会場を、後にして
ヌーングサーの屋敷へとペップを抱えて向かう。
屋敷のメイドたちは門の外から呼びかけた
俺の顔を見るとすぐに入れてくれて
医務室でペップを介抱しはじめた。ハイキャッターだと分かると
少し顔を顰めたが、俺が大事な仲間だと説明するとすぐに態度を改めてくれた。
彼女たちに任せて邪魔しない方が良さそうなので、
俺とピグナが泊まっていた宿泊室へと戻る。
二人きりでテーブルを挟んで座ると
バムが紅潮した顔で
「あ、あの……」
何かを言いかけて止めたバムの顔から
どんな意味なのかはもう分かった。
俺は頷いて立ち上がると、ベッドの脇に座る。
バムもそのすぐ隣に座って、身体を寄せてきた。
正直に言おう。運命よ、ありがとう。
今まで散々、俺たちの関係を邪魔してきたのは
今、このひと時のためだったんだな。
この最高のタイミングで、バムと……。
バムの身体を抱きしめようと手を伸ばすと
「あっ!こっこに居たんだー!探したんだけどー!?
もっんんんんんんの凄いわざとらしい素っ頓狂な大声を出して
ピグナが扉を開け放ち、部屋の中に入ってきた。
バムは恥ずかしそうに顔を伏せて、俺から離れ
俺はピグナを全力で睨む。
ピグナは両手を広げて首を傾げ
「何の事?」と言ったわざとらしいジェスチャーで煽ってきた。
最悪だ……辛い……。俺は失意の中、二人に断って
寝袋に入って、高まった性欲を必死に打ち消しながら
部屋の隅の床で寝ることにする。




