祭り
砂浜へと降り立った竜の背中から次々に降りていくと
騒ぎを聞きつけたらしいヌーングサーが
駆けつけてきた。遠巻きに多くの街の住人達もこちらを眺めている。
「お、おお……ゴルダブルじゃないか……
そ、そこに居るのはまさかのミチャンポ王か!?」
すぐに喧嘩腰になりかけたヌーングサーの前に立って
「あの竜の子供のために魚を獲って来てくれませんか?
できるだけ大目に」
そう俺は頼み込む。意味が分からないと言った表情の彼に
「両国がもっと仲良くなるきっかけを
あの竜を使えば、俺たちなら作れますよ」
近づいて囁くと、ヌーングサーは戸惑いながらも頷いた。
すぐに沖合へと、屈強な漁師たちを連れて
出ていった彼らを見送る。さあ、ここからが大事だ。
俺はピグナに
「この辺りに大量の魚を料理するための
台座や窯、器具や調味料や油などを用意してくれ。
迷惑をかけない程度なら他人を操っても構わない」
ピグナは嬉しそうに頷いて、
遠巻きに見ている街の住人たちを使って
用具などを砂浜へと持ってこさせ始めた。
さらに俺は竜の親子とミチャンポ王に、準備に時間がかかるからしばらくここで
待っていて欲しいと告げて、バム、ファイナ、ペップを集め
魚が届いたら料理をして欲しい頼み込む。
「二種類の味をつくるんですか?」
尋ねてきたバムに
「そうだ。この街の人たちも、竜も王様もヌーングサー達も
全て満足するものを作りたい。やれるか?」
「もちろんですわ!」
脊髄反射でファイナが同意して、バムとペップが苦笑いしながら頷く。
それから俺たちは、ピグナが操っている街の人たちと共に
二時間ほど浜辺へと、街から台座や調理器具を運んできて
それが終わるころに、ヌーングサー達が帰ってきた。
思っていたよりも早い。そろそろ夕方である。
竜たちはこちらを見ながら丸まってその巨体を伏せていて
ミチャンポ王は、その近くで難しい顔をして座り込んでいる。
採れたての様々な種類の魚を大量にヌーングサー達から受け取ると
俺たちは、魚の調理に取り掛かった。
バムとペップと相談して揚げ物から焼き魚まで
二種類の味を作っていく。不味い方の味見役はファイナである。
ピグナは暗くなっていく辺りを照らすために
人々を操って、カンテラを持ってこさせたり、灯火を突き立てていく。
次第に砂浜は、何かの祭りのような様相を呈していった。
太陽が沈むころには、魚料理は完成していた。
俺は素早く、竜たちに
「できました!起きてください!」
と大声で呼びかけて起こす。ピグナはヌーングサーたちと共に
酒樽を抱えてきた。
まともな味の魚料理は、間違って味覚が違う人たちが食べないように
すでに隔離は住んだようだ。
何台も砂浜に並べられたテーブルには不味い味の方の魚料理が大量に並んでいる。
よし、もういいだろう。
「さあ、今日は両国の平和を祝うために駆け付けた竜たちに
魚料理をふるまう日です!
みなさんも大いに飲んで歌ってください!」
俺が、遠巻きにこちらを眺めている住人も含めて
辺りに居る全員にそう呼びかけると
一斉に人々が、テーブルへと駆け寄ってきて食べ始めた。
ピグナやヌーングサーの配下たちが、酒もふるまい始めた。
当然平和を祝うために駆け付けてなどいないが
竜たちは、俺が何と言おうと
人の事情など気にもしないだろうと見越してのことだ。
俺やバム、そしてペップは竜の子供用に作った魚料理を
丸まった親の腹の辺りで、伏せているその子の前に持って行く。
「さあ、どうぞ」
灯火の光に虹色の鱗を煌かせている竜の子は
すぐに首を伸ばして、大皿に乗せられた魚の揚げ物を平らげると
「おいしい!」
とかわいらしい声で初めて喋った。同時に丸まったままそれを見ていた親竜の
大きな目から一筋の涙が零れる。
ずっと難しい顔をしていたミチャンポ王も
ペップが持ってきた魚料理に入った皿とフォークを受け取り
口に入れて、無言のままだが深く頷いた。




