竜の再来
一日半ほどかけて、ミルバスへと戻る。久しぶりだが
街の景色はまったく変わっていない。
四人で、新マクネルファー研究所へと入っていくと
中はがらんとしていて、寂しい印象だった。
マクネルファーの機械が並ぶ、研究室へと入っていくと
酒浸りになったマクネルファーが、真っ赤な顔でこちらを見てくる。
猛然とこちらへとダッシュしてきたマクネルファーに
いきなり抱きつかれた俺が、その酒臭さに戸惑っていると
「た、助かった……研究が行き詰っていてのう……不味い酒で誤魔化していたんじゃ」
ピグナが機械に回り込んで
「ああ、今度はスーミルオンが必要なのか」
「そ、そうじゃ……この大陸の北の果てにしかない
貴重な金属があれば……きっとこの機械は安定する……」
「北方地帯は、ゴーレムが支配していて危険だと聞いていますが……」
「そ、そうなんじゃ……それに人間の足では
どうしても行けない場所じゃよ……」
ファイナが思いついた顔で
「竜が居ますわ!貸しがあるのでしょう?頼みましょう!」
俺たちに提案してくる。全員が頷いた。
マクネルファーはファイナにも抱きつこうとして
華麗に避けられ、そして苦笑いしながら
「若いって良いのう……さすがじゃのう……」
何故か俺たちを褒めていた。
その日は、マクネルファー研究所で休一泊して
そして翌朝早くには、すぐにこの街の南西にある
竜の巣へと俺たちは出発し始めた。
森を抜けて、険しい山を登り、中腹の大穴の前へと
全員で辿り着き、中へとファイナが
「おーい、竜さーん。食王一行が来ましたわよー?」
声をかけるが返事がない。
ピグナがため息を吐きながら、両手を広げ
「どうやら巣を変えたみたいだね。あたしも居るものと思ってたわ。
悪魔センサーで探してみようか?」
「やってみてくれ」
「……んー……あれ、ミチャンポの近くの山に居るよ?
どうしたんだろう」
「とにかく、そこまで案内してください」
真面目な顔のバムにピグナは頷いて
険しい山道を俺たちは降りていく。
そこから、再び一日半ほどかけて、ミチャンポの街までたどり着く。
行ったり来たりだが、今は時間が潰せるのでむしろいい。
旅にもそろそろ慣れてきた。
衛兵に通行証を見せて、街の中へと入ると
街の様子が何となくざわついている。
みんなで王宮の方へと向かい、宮殿へと入れてもらうと
その中が騒然としているのが分かる。
玉座の間まで行くと、ペップとゴリマッチョな王が何やら
揉めているようだ。全員で近づいていくと
「どこまでバカなんだにゃ!」
「いや、これは正しい決断だ。あの竜の力を借りて
今度こそ、漁師連合国を完膚なきまで叩きのめす!」
「あ、あの……」
俺が掴み合っている二人に声をかけると
二人同時にこちらを見て
「よかったにゃ!」「ああ、探していたんだよ」
と揉めている事情を話し始めた。
二人による話を総合すると
俺たちがバルナングスに行くのと入れ違いで
ミチャンポの街の上空に子連れの竜が現れたらしい。
長期休暇中の王が、騒ぎを聞きつけて自宅から出てきて
街の高台から竜たちに、何で来たのかと問いかけると
この街に、ゴルダブルという者が居るはずなので
彼とその仲間たちを出せと、要求して近くの山へと去って行った。
そして王は、これを好機ととらえて
あの竜の力を借りて、自分が居ない間にペップが勝手に同盟を結んでしまった
漁師連合国へと奇襲を仕掛け、そして完全に屈服させて
降伏させようと言い出したらしい。
もう、俺は呆れて言葉も出ない。
悪魔の力まで使って、散々苦労して同盟を成立させたのに
それをこの王は、一発で壊そうとしている。
しかし好戦派のペップとファイナは
「いい案ですわ!滅ぼしてしまいましょう」
「そうだねー潰そうよー千載一遇の好機だよー」
無責任に煽りだした。バムは黙って首を横に振る。
二人の前に出てその言葉を遮りつつ
「そもそも、竜が話をしたいと言ったのは
俺ですよね?まずは俺をそこまで連れて行ってもらえませんか?」
と王に提案してみる。王は頷いて
「よければ私も同席して良いか?」
「やめとけにゃ。こいつ戦闘狂だにゃ。救えないにゃ」
ペップの言葉も聞きつつ、少し考えて首を縦に振る。
まずは全員で竜に会って、それから色々と考えてもいいはずだ。
俺たちは、そのまま、昼時の街の中を衛兵を数名の引き連れた
王に先導されて、竜が待っているという山の方向へと歩き出した。




