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実感

穴から出ると薄気味悪い森の中だった。

「ここは……?」

「モルズピックの従業員たちの宿舎です」

バムが俺の手を引いて、森の中を進んでいく。

すると森の木々の上へと突き抜けるような

苔と蔦塗れの古びたレンガの高い塔へと辿り着く。


「この下に研究室を設けています」

バムは建物の古びた扉を開いて

中へと俺を案内していく。

一階の下へと伸びる螺旋階段を下りていくと

小部屋へとたどり着いて

そこでさらにバムは古びた扉を開けた。


中では、綺麗な顔をした白衣の七人の男女が機嫌よく

中心の大きな手術台に並んで横たわる三体の裸の男女に

頭に手かざしをしたり、縫合をしたりしていた。

「あら、バムスェル様、新食王様ですね?

 ようこそ。この場を任されている、

 大天使副長、東のハイネと申します」

ゆるふわの茶髪をした、小柄な綺麗な顔立ちの少女から

声をかけられて

「あ、どうも……ゴルダブルです」

と一応名乗ると、こぼれるような笑みで

「こちらへ」

手術台へと俺は連れていかれる。


よく見ると、そこにはファイナ、ペップ

そしてマクネルファーが並んで寝かされていた。

全員裸である。

「ふふふ。あと一時間で魂を入れられます」

ハイネはそう言うと、小声で俺に

「あの、バムスェル様のどんなところが好きですか?」

と尋ねてきて、答えに困っていると

バムが後ろから出てきて

「ハイネ。困らせてはなりませんよ」

「はーい。ではお二人は、身体の出来具合をチェックしてください。

 我々は休憩に入りますので」

と言うと、美しい男女は全員、近くの宙に横穴を開けて

その中へと入って去って行った。


まっさきに気になったので

「ピグナとパシーは?」

「二人は、天使なので天界へと魂を一度帰還させました。

 今はこちらへの身体の再構成の認可待ちです」

「役所みたいなところの?」

「はい。再生局のロビーで

 二人並んで呼ばれるのを待っていますよ」

「大変そうだな……」


バムがまったく躊躇なく

三人の脇や股を広げて、チェックし始めた。

眼を逸らそうかと思ったが役得である。

とりあえずマクネルファーには脳が自動でモザイクをかけて

そしてペップとファイナの身体を、さすがに触れはしないが

ジッと眺める。


ふむふむ、そうなっていたのか。

へー思ったより大きかったんだなぁ。

などと考えていると、バムがチラッと振り返って

「あの、性欲よりも……チェックをしましょう」

と困った顔をしてくるので

「ごめんごめん。俺は難しそうだ。

 ちょっと後ろに行っとく」

と言いながら、バムの後ろから

眼を見開いて

ふむふむ、そうかそうか。ふーむ……なるほどーと

ペップの身体を見ていると、微かにピクッと指が

動いた気がして、二度見すると

また別の指がピクピクと動き出す。

そして、魂の入っていないはずの口が開くと

頭がガッと俺の方を向き

「えっ……ち……なのは……いけない……にゃ……」

と言ってそのまま動かなくなった。


バムが驚いた顔で

「た、魂はまだ入っていないはずなのに……」

「……俺、出てるわ」

「その方がいいかもしれませんね……」

ペップのあのエロに制裁を加える恐ろしい力の源は

最後まで謎だったな……。

と思いながら地下室から出て、やることもないので

塔の螺旋階段を上っていく。


最上階の扉を開けると

部屋の中では、骸骨がボーっと外の景色を眺めていた。

邪魔かなと思い、扉を閉めようとすると

「いや、いいんだ。誰かは知らないけど

 俺の話を聞いてくれよ」

部屋に入ると、骸骨は窓際に手招きしてくる。

窓の開かれた外を窓枠に両手で寄りかかって

並んで眺める。

景色は良くない。鬱蒼とした森と

似たような不気味な塔が立ち並んでいて

遠くには沼まで見える。


「こんなとこまで来たからには

 色々と知ってるんだろ?俺らが

 働いている理由とかも」

「冥界から派遣されてきてるんだろ?」

「そうだな。いい仕事だよ。三交代で

 住居提供、給料も安くはない。

 倍率もなかなかで、ようやく当選して来れたと喜んで

 居たんだけどなぁ」

「新人?」

「そうなんだよ。でもほら

 三日前に、前の食王が死んだだろ?それで

 冥王様がソワソワしてて

 どうやら新食王を冥界で歓迎したいらしいんだ」

「……そ、そうなんだ」

またさっきの玉座の間みたいなことにならないと

ありがたいが……。

というかあの後、三日も寝ていたらしい。今知った。

「冥界の体制も、前の食王への警戒を解いたんで

 一気に平和に変わってて、うちの実家の辺りも

 農業とかできることになって。

 人面牛とかヌエとか、

 気の早い一族がもう買っちゃってるらしいんだけど」

「う、うん……」

「人手が足りないから帰って来いって、

 さっそく言われてるんだよなぁ」

「大変だな……」

「だろ?こっちで自立を目指すべきか

 それとも、向こうで農業をするべきか。

 贅沢な悩みなんだけどさぁ……」

骸骨は切なそうに景色を眺める。


変な話だが

なんとなくそこでやっと俺は

この世界や冥界や天界にも

平和が完全に訪れたことを実感した。

どちらを選んでもきっと幸せだから

好きなだけ悩んだらいいと彼には告げて

部屋を出ていく。


塔の外で座って待っていると

バムが中から出てきた。

「少し、私と、世界を見てみませんか?」

と告げてくる。


羽ばたくバムに抱えられて青空を飛んでいく。

眼下にはモルズピックの景色が広がる。

高いが安心感が凄い。

景色を眺めていると

「ゴルダブル様は、この世界をどうされたいですか?」

とバムから不意に訊かれる。

俺は少し考えてから

「味覚は元に戻したいけど、他はそのままでいいよ。

 こうしたい、ああしたいって考えると

 キリがないと思うから」

「ふふ。分かりました」

バムは微笑むと、高度を一気に上げて

速度を出し始めた。

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