表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/200

適材

目覚めると帝都宮殿内の宿泊室のベッドの上だった。

前も気づいたら、この部屋だったよな。

と思いながら、ベッドから下りて

身体を思いっきり伸ばしてみる。

調子は良さそうだ。眠気も全くない。

食王になったからかな。

それとも魔王のくれた肉体が強いからなのか。

まあ、いいか。窓の外の中庭に射しこむ朝日を見つめる。


見た夢の内容は完璧に覚えている。

いや、あれは恐らく夢ではなく

現実のことだろうなという確信がある。

あの雪原には、雪像が仲間の分だけ立っているはずである。

腹も減ってないな。お、テーブルの上に畳まれた着替えがある。

手鏡とヘアブラシもあるな。

部屋の隅には、温かいお湯が入ったタライまで用意してある。

身なりを整えろと。よろしい。


やたら派手な、中世の貴族が着るような

ヒラヒラの沢山ついた服に着替えて、

そして顔を洗い、髪型などを整えていると

「お湯をお代え致します」

と年配の肩に力の入っていないメイドが入ってきて

そして俺を見ると頭を深く下げて

「皇帝陛下が、会見を望まれていますが

 準備はよろしいでしょうか?」

と尋ねてくる。


「え……何を会見するんでしょうか?」

「私は存じておりません。よろしければ

 さっそく……」

メイドの眼力のある両目で見つめられて

思わず頷いてしまうと

「では、私がご案内いたします」

仕方ないのでついていくしかない。


宮殿の華美な通路や、廊下を通っていくと

左右に待機していたらしき、ズラッと並んだ衛兵たちや

メイドたちが一斉に頭を下げてくる。

まるでお辞儀のウェーヴである。

なんじゃこりゃああああ……と言いたいところだが

恐らくはもう俺が食王であると

宮殿中の職員には伝わってるんだろうな。

あの敏腕な皇帝が、しないわけないよな……。

と妙に納得して、愛想笑いで左右から次々に繰り出される

お辞儀ウェーヴを何とか通り抜けていく。


金色で立体的な竜が彫られた巨大な扉の前まで

俺は連れてこられる。

屈強な衛兵たちが、左右に扉を重々しく開いて

中の様子が現れると、広い縦長の部屋の奥まで

虹色に光り輝くカーペットが

まっすぐと敷かれていて

その左右には、派手な鎧を着た厳つい武人たちや

スーツを着た鋭い知性を感じさせる文官たち

そしてそれぞれに不思議な模様をしたローブを着こんだ

老齢の魔法使いたちが並んでいた。


威圧感に圧倒されて、部屋の前でしばらく突っ立っていると

案内をしてきた年配のメイドが後ろから小声で

「食王様より、強いものはこの世にはおりません。

 堂々と、奥の玉座で待つ皇帝陛下と

 会見してください」

と軽く手で背中を押されて部屋へと入れられる。

仕方ないので左右に、実力者たちを見ながら

奥の玉座に座るマリアンヌ帝の場所へと歩いて行く。


厳粛な雰囲気にフラフラしながら

何とか玉座に辿り着くと、マリアンヌ帝は立ちあがり

そして何と玉座を降り、俺に


「さあ、私の代わりに玉座へとあがってくれ。

 我が帝国、そしてここに居る人材全て

 新食王ゴルダブルのものだ」


「えっ……まさか……」

「そうだ。ようやく帝国を完全に任せられる人材が

 出現したと私は喜んでいるのだよ。

 天界の主バムスェルを守護に持つ

 食王ゴルダブル。これ以上の適材は地上には居ない」

ようやく頭が理解してきた、皇帝の座を

禅譲しようとしているらしい。

「い、いや、ちょっと待ってくださいよ。

 マクネルファーとか、あとほら、俺がダメだったら

 ファイナに譲るとかも聞きましたけど……」

マリアンヌ帝は身体を揺らして、快活に笑うと

「マックは私のものだ。帝国にはやらん。

 ファイナ嬢は、まだ体の再生が済んでおらんのだろう?

 バムスェル様から聞いたぞ?」

「い、いや慌てなくても、そのうちファイナは

 戻ってきますよ」

マリアンヌ帝はニヤリと笑うと、いきなり

自分の頭の王冠を俺に被せて

そして身体を持ち上げ、サッと玉座へと座らせてしまう。

そして、臣下たちに向き直り


「今、ここに帝国は新食王ゴルダブル帝のものとなった!

 私は現時刻を持って、帝位を退位する!

 異議あるものはあるか!」


両手を広げて、よく通る声で宣言する。

「い、いやちょっと待ってくださいよ……。

 マクネルファーとの結婚も皇帝としてやるって

 宣言してたじゃないですか……」

俺の声は無視してマリアンヌ帝は臣下を見回すと

全員一致で

「異議なし!」

とピッタリと揃った声がして

俺は玉座で冷や汗をかき始める。


マリアンヌ帝……いや、マリアンヌ先代帝は

スーツを着て銀縁目掛けをかけた優しそうな白髪の紳士と

厳めしい鎧を着た大柄な中年の将軍を指さして

「ラムザス軍事総監と、アトムバーン首相だ。

 帝国の運営については二人に訊け。

 よし、ではな。皆の者、長い間こき使ってすまなかったな。

 元老として、議会には残るので

 ゴルダブルに失礼をしたら、院政を始動させるからな。

 ビルドゥム、調子に乗るなよ?」

邪悪な笑い顔を浮かべていると

近くに並んでいる禿げて太った男にそう言うと、俺を向き直り

「あとは頼んだ」

と真っ赤なマントを派手に脱ぎ捨てて

身軽に、そのままカーペット歩いて部屋を退出していった。


「……」

カーペット左右に部屋の奥まで延々と並ぶ

威圧感のある高官たちを眺めながら考える。

投げっぱなしだなこれ……。

えーと、どうしようか……無理だろ……。

どうしようもないだろこれ……。皇帝になるとか

望んでもいないぞ。


全身が冷や汗をかき始めると

「あはは。帝位を禅譲されてしまいましたか。

 帝国担当の大天使が、報告をしてきまして

 急いできてみました」

隣からバムの声がして、そちらをみると

綺麗な青白いドレスに身を纏ったバムが

八枚の翼を羽ばたかせて、そこに居た。


バムはゆっくりと玉座を下りて

辺りを見回す、屈強な高官たちがバムを見て

息をのんでいる。

バムはスゥーと息を吸い込むと

「天界の主、バムスェルが新食王様に代わり意志を伝える!

 新食王様は、世界の主であり、一地方の国主には収まることはない!

 食王様の手足となる、新たなる皇帝を送り込むまで

 諸君らは、そのまま職務に励めとのことだ!

 安心するがいい!我と食王は神々のさらに上だ。

 どこからでも君たちを見ている。

 そして、どこまでも帝国を見捨てない!

 以上!追ってまた連絡する!解散!」

不思議な、威厳を持った声で皆に告げた。

高官たちは、一斉に頭を下げてゾロゾロと

玉座の間から退出していく。


誰も居なくなった玉座の間で

王冠を頭から外しながら

「いやーえらい目に遭った……」

「ふふふ。これでしばらくは時間が稼げます。

 モルズピックへと行きましょう。

 みんなの身体の再生を急がせなければ」

「な、なあ、ファイナに皇帝を継がせるのか?」

「どうでしょうか?ファイナさんの気持ちも

 聞かなければ」

バムは俺の手を取って

「さあ、行きましょう。モルズピックまで」

といきなり、宙に穴を作り出し

俺をその中へと引っ張り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ