新たなる支配者
バムの柔らかい体温が背中に伝わってきて
少しずつ落ち着いていく。
「終わったのか……?」
「はい。終わりました」
「そうかぁ……」
よく分からないが倒したらしい。
「なあ、仲間たちは……」
「もう、モルズピックに用意していた施設に
大天使たちを集めて
身体を造り始めています。
みんなの魂もゴルダブル様から取り出しましたよ」
「よ、よかった……な、なあ、こういうのって
実は食王が生きていたとか、そういう
続きが……」
不安になって尋ねると、バムは肩を叩いて
扉を指さす。するといきなり自動で扉が開いて
真っ黒な姿の食王……ではなくて
全身鎧に身を包んだマリアンヌ帝が、
似たような恰好をした数人の屈強な男女の武人たちと
部屋に入ってきた。
体液を吐きつくして、動けない俺を
マリアンヌ帝は見つけるとしゃがみこんで
「飛行船が落ちたと聞いて
精鋭たちと加勢に駆け付けたのだが……」
「あ、ああ……」
俺は言葉が出ないので、バムが代わりに
「食王は、ゴルダブル様に身体精神共に、完全に乗っ取られて
消滅しました」
とんでもないことを言ってくる。
「……えっ?」
「……あれ?気づいていませんでした?
冥王が身体を提供したときに、体細胞の逆浸食機能を
抜け目なく付けていたようです。
それと、ゴルダブル様の頑強なメンタルの相乗効果で
食王は最終的には、ゴルダブル様に吸収されました」
「そうなの?」
衝撃的な真実である。
「つまり、俺が新しい食王ってこと?」
「そういうことになります」
「……」
マリアンヌ帝は立ちあがり、そして武人たちに
「新食王ゴルダブル様を丁重に医療テントまで搬送しろ!」
と告げると、俺に
「私たちは、この宇宙船の散策を、バムさんとする。
しばらく一人だが堪えてくれ」
俺は頷くと、すぐに武人たちに担ぎ上げられて
食堂の外へ、さらに瞬く間に宇宙船の外へと搬送されていった。
宇宙船から遠巻きに張られたテント内で
ガチムチの軍医たちに
物凄く丁寧かつ丁重に、俺は身体検査を受けさせられ
綺麗な白いローブへと着替えさせられる。
「異常はありません、ただ……」
と俺の腕の裏を軍医に手に取って見せられる。
そこには蚯蚓腫れで
"エッチなのはいけないにゃ"
と字が大きく浮き出していた。
「……ペップか……」
たぶん精神融合していた時に何か
したのだろう。そのうち消えそうだし
気にすることもないなと、医者たちにお礼を言って
近くに張られた指揮官専用のテントへと
案内される。
中には金銀の刺繍の入った絨毯が敷かれて
派手な調度品が置かれ
ベッドも見るからにフカフカである。
しばらく休みたいので一人にしてほしいと
ついてきた兵士に告げて、彼が去ると
ベッドへとそのままダイブする。
寝よう。好きなだけ一人で寝たい。
大変だったけど、何とかなってよかった。
寝入ってしまう。
気付くと
吹雪が吹いている
雪原のど真ん中に俺は立っていた。
"食王に知覚世界で真っ向から挑み、そして
なんと、制したようだな。見事なり、新たなる食王よ"
聞き覚えのある威厳のある声が辺りに響いてくる。
吹雪に隠れながら周囲に巨大なゴーレムたちが
少しずつ集まってくる。
"我ら、新たなる主の命令を待っている"
俺の真正面に立つ、苔むした岩が髭を生やしたような
巨大なゴーレムは、そう言うとその巨体を跪いて
俺を見下ろす。
そういえば、そうか、思い出した。
北の方に鉱石を取りに行ったときに
世界を作り変えられるゴーレムたちから
色々と話を聞いたんだった。
本当のことだったのか……いや、さっきまで
テントで寝ていたのに、いきなりここに
居るのはおかしい。寒さも感じないし、やはり夢なのか……。
などと一通り考えてから
「試しに、俺のすぐ前に、
マクネルファーの雪像を造ってみてくれないか?十秒以内で」
そうゴーレムたちに告げてみると
目の前にいきなり氷でできた褌一丁で仁王立ちしている
マクネルファーの五メートルほどの高さの像が
足元からせり出してきた。
「……」
凄い再現度である。マクネルファーの枯れた肉体と
彼のわけのわからなさを完璧に模倣している。
「よ、よーし……じゃあ次は、
その横にファイナの雪像を。水着姿で!」
すぐに同じくらいの高さのファイナの雪像が
せり出してきて、マクネルファーと並ぶ。
なんか面白くなってきたので
ペップや、ピグナやパシー、それにバムの大きな雪像も
横に並べて作ってみた。
なかなかの壮観だな。と満足して見上げていると
"他にはないのか。我ら、この世界の形を根本から変え得るが"
「ああ、満足したよ。また何かあったら頼む。
あっ、それから、どうやったら俺が
この世界の味覚を元に戻せるか分かるか?」
"天界の主、バムスェルがその答えを持っている。
では行く。我らは常に新食王と共に在る……"
吹雪の中へと様々な形状のゴーレムたちは消えていき
そして俺は雪原のど真ん中
仲間の像たちをしばらく見上げると
早くまた、会いたいなと少し切なくなった。
同時に景色が歪み始めて、意識が途切れる。