練習
「ふーん……それは大変だったね」
何とか力を振り絞り
ボソボソと起こったことを説明すると
ピグナがあまり理解していない顔で言ってくる。
「ゴルダブルもスカートとか着るかにゃ?」
「い、いや遠慮しとく」
「パシーさんに色んな服を着せて
楽しかったですわ」
「腹の肉が水着からはみ出てたにゃ。
もっと腹筋しろにゃ」
「い、いやですよぉ。それに
わ、私は楽しくなかったんですけどぉ」
「しょうがないなあ。十五ピグナポイントあげるよ」
「えっ。たっ、楽しかったです!腹筋も頑張ります!」
いきなり満面の笑みになったパシーを
ボーっと見ながら
ペップに肩を貸されて立ち上がる。
「ふむーこれはいけないにゃあ。
私がゴルダブルを宮殿まで連れ帰るにゃ。
すぐ戻るから、待ち合わせは帝都の中心の時計台でいいにゃ?」
「いいよーダラダラ歩いて行ってるね」
「ゴルダブル様、お体をお大事に」
「あ、ありがとう……」
ファイナに心配されてちょっと元気になった。
しかし、妙な疲れで身体は動きそうにない
ペップは俺を背負うと、物凄い勢いで階段を降り始めた。
デパートから出たペップは背負われている俺が
街中の人の目を気にする暇もないほどの速度で
メインストリートを宮殿へと駆け抜けていく。
あっという間に宮殿について
門番に門を少しだけ開けさせると
ペップはさらにスピードを速めて
宮殿内を駆け抜けて宿泊室の扉を勢い良く開けた。
中では褌一丁で全身キスマークだらけで
椅子に縛られたマクネルファーが
水着姿のマリアンヌ帝にスプーンで
何かを食べさせられている所だった。
「あ、すまない。誰か!」
マリアンヌ帝は兵士たちを呼び寄せると
「たーすけてくぇ……」
力なくそう言うマクネルファーを
兵士たちは椅子ごともちあげて
マリアンヌ帝と共に、部屋の外へと出て行った。
「ふーむ。エッチというか濃い愛だにゃ」
ペップはそう言って、自分を納得させると
俺の上着を脱がせベッドに寝かせて、布団をかけると
「ゆっくりしてろにゃ。夜には帰るにゃ」
と言うと、風のように部屋を出て行った。
誰も居なくなった部屋に静寂が訪れると
何となく深く安どして、そのまま眠り込んでしまう。
「ちっす!先輩!お久しぶりっす!」
全身が黒い凹凸の無い人形が
のっぺらぼうな頭で話しかけてくる。
「誰だっけ?」
するといきなり人型の横に現れた
実家の近所の禿げたおっちゃんが
「野球五万年させたで。上下関係から叩き込んだわ。
でもこいつ、あかんのや。
どうしてもホームラン打ってしまうのや。
バントやっちゅうのに」
俺はすぐに理解して
「それはいけませんね。つなぎの精神を分かっていません。
このままでは六番で毎年三十本打つような選手に
育ってしまいます」
「そうやろ?四番が外国人になってまう」
「やはり、ここはあれですね」
「そうやな。あれやわ」
おっちゃんと共に人形を俺は見つめる。
辺りの景色がいきなり変わり
黒い人形は黄色い口紅で顔を描かれて
黒いゴシックドレスで女装をしながら
球場で、バントさせられていた。
おっちゃんがマウンドから、ちょうどいい速度の
ストレートを投げて、黒い人型が
バットを横にして、バント練習をする。
俺は一塁側で、腕を組んで満足しながら
その様子を見守る。
「しぐさをもっと女らしく!」
俺がそう言うと、おっちゃんもストレートを投げながら
「そうやで!形から入るのは大事や!」
「はい先輩!監督!」
どうしてもドレスの短めのスカートから
パンチラをしてしまう人形に俺は
だんだんとイライラしてきて叫ぶ。
「エッチなのはいけないにゃ!」
おっちゃんもマウンドから
「そうやで!エッチなのはいけないにゃあ」
「はい!見せません!」
人形は殊勝にもそう言って、バントをするが
どうしても白い下着がチラチラと見えてしまう。
俺は首と両手を横に振りながら
「だーめだダメ!全然ダメ!」
バント練習を一旦止める。
人形へと詰め寄って
「エッチなのはいけないにゃって言ってるにゃ!
このままでは貴様を男装させないといけなくなるにゃ」
おっちゃんも怒った顔でマウンドから下りてきて
「そうだにゃ!エッチなのはいけないにゃ!このままでは
貴様を永久停止させないといけなくなるにゃ!」
黒い人形に詰め寄る。
「はい!先輩!頑張ります!」
「頑張るだけでは駄目だにゃ。
羞恥心をもっともつにゃ」
「そうだにゃ。見られて恥ずかしいという気持ちが
大事だにゃ。エッチへの抑止力になるにゃ」
「はい!抑止力をもっと効かせます!」
「よろしい。ではバント練習を再開するにゃ」
「はいにゃ!再開しますにゃ!」
その後、みんなでにゃにゃにゃ言いながら
練習を続けて、二万年の時が過ぎた。
人形の研ぎ澄まされたバントは構えるだけで
光り輝くようになり、俺とおっちゃんは
すっかり悟りきり、仏のような笑みで
人形の流れるような動きのバントを見守っていると
凄まじい衝撃が、練習場を揺らして
「おっきろにゃあああああああああああああ!」
本家のペップの声が響き渡った。
「びっくりした……夢だったのか」
窓の外はもう真っ暗である。
昼過ぎから長いこと寝ていたようだ。
「すっかり良いようだにゃ」
ペップは安心した顔をすると
「宇宙船が見つかったにゃ」
といきなり衝撃的なことを言ってくる。