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別れ、そして脱走

瞬く間に駆け寄ってきた衛兵たち連行されて

気付いたら俺たちは、地下牢に入れられていた。

「なっ、何なんですの!?」

発光する手錠をかけられたファイナは

激怒しているが、あの呪文が

ヤバすぎたのは誰にでもわかる。

多分あの、大穴に引きずり込まれた三人はもう死んだと思う……。


バムが自分の両手にかけられた

発光している手錠をガチャガチャと鳴らして

「私の力でも引きちぎるのは無理ですね……」

「そうか……」

バムの怪力で無理なら俺にも無理である。


ファイナは魔法を唱えようとして

「だっ、ダメですわ……魔法も封じられています」

「このまま捕まったままだと、どう……なるの?」

恐る恐る尋ねると、バムが悲しそうに

「裁判ですね……」


三人で黙り込んでいると

近くの階段から誰かが降りてくる音がして

目の前に何と、国王が一人で現れた。

彼は髭を触りながら、ファイナを愛おしそうに見て

「禁呪を衆人環視の中で唱えるとは

 また大きなことをやったのぉ」


「お父様!ファイナたちを助けてください!」

鉄格子に身体を押し付けて叫ぶファイナに

「ふむ。ファイナよ。父は国王である。

 国王とは法によって民を守る者じゃ。

 その法を犯したものを娘とは言え、見逃せぬ」

ファイナはガックリとうな垂れた。


国王はニッコリと笑って

「しかし、父親としては別じゃな」

と豪華なローブの懐から、鍵束を取り出して見せて来た。

「冥界に取り込まれた三人も、王宮魔導士を使って

 直ちに救出しておいたぞ。五体満足で無事じゃ」

俺とバムはホッとする。人殺しにはならなくて済んだらしい。

「お、お父様……」

ファイナは泣きはじめた。国王は顔を引き締めて


「しかしな、ファイナよ。父はこの国の

 国王であって、この世界の王ではない。

 つまり、外の世界では失敗は自分で拭わねばならない

 ということじゃ。分かるかな?」

ファイナは俯いて聞いている。


「ファイナよ。ゴルダブル君や、バムさんに

 二度と同じような

 ご迷惑をかけるでないぞ?よいな?」

「はい……」

ファイナは泣きながら頷いた。


「よろしい。では牢屋を開けるから

 そのままこの国を出なさい。君たちの荷物はこの拘置所の裏口にある。

 エルディーナを出るときは開いている西門から出て

 そして二度と振り返ってはならぬ。これは脱走じゃ。

 次に捕まったらファイナたちを、確実に裁判所に送らねばならぬからな」

ファイナは頷くが、俺とバムは困惑している。


国王は俺たちを申し訳なさそうに見ながら

「すまん。通行証はすでに渡したな?

 それを使い、バルナングス共和国へと娘を連れて

 一緒に逃げて欲しい。この娘は、とても一人では

 外の世界で生きていけぬ。どうしても君たちが必要じゃ」

いきなり土下座してきた国王に、バムが進み出て


「分かりました。国王様、代わりに他のセメカの仲間たちを

 よろしくお願いします」

顔を上げた国王は、大きく頷いて立ち上がり

鍵束を使って牢屋の鍵を開け、俺たちの両手にかけられた

手錠を次々に外していく。


「こっちじゃ」

国王に案内されて、人けの無い拘置所を進んで行く。

「ちょうど他に囚人もおらんかったからな。

 職員たちは全員、ちょっと出て貰っている」

国王、随分無茶したなぁと俺は思う。

裏口の前で国王は立ち止まり


「では娘よ。さらばじゃ」

ファイナと強く抱擁を交わすと

突き放すように離れた。

「行きましょう!」

バムが裏口を開けて、外に積まれていた

俺たちの荷物を、俺と分けて背負い

泣いているファイナの手を引いて

夜道を走り出す。俺も慌ててついて行った。


その後、人けの無い夜中の街中を疾走して

少しだけ開いていた西門の鉄門から

俺たちは走り出る。

さらに夜道を西へと三人で走りながら

俺はふと思う。


いや、何か感動的だったけど

よく考えたらおかしくねぇか!?

ファイナ居なかったら、ストレートに料理大会優勝して

今頃、栄光と共に、安全な馬車か何かで、西に向かっていたはずである。

それがいつの間にか犯罪者になって、夜中に走って必死に

西へと向かう羽目になっている。


もしかしたら、王族の大問題児を俺たちは

体よく押し付けられただけなんじゃ……。


いつの間にか荷物と共にファイナも

背負って走っているバムをチラッと見ると

「考えたらダメです……」

と俺に真面目な顔で言ってきた。

もしかしてファイナは、疫病が……い、いや

確かに考えたらダメだ……必死にそう思いながら走る。

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