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ショッピング

穏やかな日差しと

さわやかな風が吹いている帝都の

メインストリートを俺たちは歩いている。

通行人たちも気持ちが良さそうだ。

恐らく、食王の宇宙船探索のことは極秘なので

何も知らないで平和を謳歌しているんだろうと

俺は思いながら、お洒落している女子たちについていく。


翼を消しているピグナが、同様のパシーに

「どこ行こっか。天使センサーで楽しそうな場所を探索してよ」

「え、ええー……」

「やったら三ピグナポイントですよ?」

「わかりましたよぉ……」

目を瞑って立ち止まったパシーを皆で待つと

「あ、ありましたよ。色んなものが売ってる

 デパートがしばらく歩いたら右手に

 見えてきます」

「……地図見たら分かることだにゃ。

 にゃにを探索してるにゃ……」

ペップが軽くため息を吐いて

「でも、せっかくだし、行ってみるかにゃ」

「さんせーい」

女子たちは雑談しながら進みだした。

俺も後ろからダラダラとついていく。


レンガ造りのデパートの五階建てのビルへと

全員で入っていく。

俺は一階の食品売り場で、見回って

皆が買い物を終えるまで、待とうかと思っていたが

ピグナとファイナから両腕を掴まれて

むりやり上階での買い物に同行させられる。


女の買い物は長いのだ。

いや、女性全体でそう言うと失礼になる気がするので

言い直すと、俺が知っているリアルショッピング好きの女性の

買い物にかける所要時間は長い。

そしてやはり、今回のメンバーは女性四人なのでさらに

ガールズトークで盛り上がって

しかも買い物のための資金は大量にマリアンヌ帝の配下から

持たされているので

全ての相乗効果で滞在時間がやたら長くなっていく。

口紅について、熱いトークを繰り広げる四人の横で

ボサッと突っ立って、無心で気配を消す。

さきほど、階段近くのベンチに逃げようとするとすぐに

ペップから連れ戻された。俺が近くに居ないと

ピグナとファイナのテンションが下がるから

離れたらダメらしい。


まあ、下着売り場に同行させられてるよりマシか。

と思いながら、緑の口紅とか黄色とか

誰が使うんだろうな……手に取って眺めていると

マッチョなスキンヘッドでスーツを着た

真面目そうな紳士が

「失礼」

とサッと黄色の口紅を取っていった。

レジへと向かう彼の背中を頼りがいがありそうな背中を眺めながら、

世の中は多様性でできているなと

一人頷いていると、またピグナとファイナから

両腕を取られて、さらに上階へと連れていかれる。


恐れていた事態になった。

女性物の服売り場である。下着売り場でないだけマシではあるが

通り過ぎていく他の女性客たちの視線がちょっと冷たい。

今頃マリアンヌ帝にかわいがられている

マクネルファーの辛さを思って耐えようとするが

やっぱりなんかムカつくのでやめた。

あの年になって、あんな綺麗な女性

いや、年齢的には老婆だとしても身体は若い女性に

追いかけられて、結婚すれば金にも地位にも名誉にも

不自由しなさそうなのに、逃げまくるのか。

……まあ、好き好きだからな。

俺がマクネルファーの立場だったら

「ねぇってば!ゴルダブル!

 どっちがいいと思う?」

ピグナから肩を強くたたかれて我に返る。

「ん?」

ピグナが、際どい赤と白のショートパンツを

二つ持って、俺の前で見せている。

「ほら、暑くなったら来てみようかと思って……」

恥ずかし気に言ってくるピグナの

横からファイナが

「あ、あのこれと、これもどうでしょうか?」

ヒラヒラのついたビキニ上をふたつ見せてくる。

赤と白で同じような色である。

「ちょっと、先にあたしでしょ?」

「ず、ずるいですわ。わたくしも選んで欲しい……」

とりあえず、赤の上下はファイナ、白の上下はピグナで

お揃いでどうだろう。

と言うと、二人は同時に不機嫌になった。

「ミックスさせるのは違うと思う」

「そうですわ。それぞれセンスの違いがありますから」

「う、うん……」

困っていると、ペップが間に入ってきて

「両方パシーに着せたらいいにゃ。

 それで決めようにゃ」

と試着室へとパシーを含めて三人を連れていく。


俺は当然見るわけにはいかないので

ようやく階段近くのベンチで腰を降ろして落ち着ける。

すると、隣にさきほどの紳士が腰を降ろしてきた。

黄色の口紅を買った男性である。

「同好の士かね?」

「……?」

「違うのか。こう見えても若いころはもてたんだよ」

「そうなんですか」

女子たちの買い物が終わるまで男の話に

付き合うのもいいかと聞くことにする。

「しかし、ある時悟ったんだ。女を大事にするより

 自分を大事にする方が良いってね」

「う、うん……そうですか」

「女装はいいぞ。色々なストレスを吹き飛ばしてくれる」

「……」

誘われているらしい。

「何が楽しいんですか?」

「最近は、あえて、顎髭をそり残したりするのにはまってる。

 女装の型を崩していくのにね」

「そうですか……」

そう言えば昔、大学の近くのショッピングモールにそう言う変態が

出没すると話題になっていた。

「良いかい。服さえ着ていれば、下着を見せなければ犯罪ではない。

 つまり、どんな服を着ても本来は自由なんだよ。

 わかるかな?その素晴らしさが」

「……な、何となくは……」

「魂の解放だよ。我々の型にはまった魂をね

 こう、ふっ、と、解き放つんだ」

そろそろ辛い。みんな早く来てくれえええええええ!!

逃げ出したいとか思って悪かったあああああ!!


その後、たっぷり二時間女装についての哲学を

変態紳士から聞かされ続け、呆然としていると

彼は満足したのか、立ちあがって去って行った。

真っ白になって、ベンチに座っていると

ようやく買い物が終わったらしい女子たちが近寄ってきて

顔も上げられない俺を見て首を傾げる。

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