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シュールな夢

実家の庭先に俺は突っ立っている。

壁に囲まれた庭の菜園の土の上に

ひび割れた真っ黒なバムが立っていて

近くで同じような真黒なバムが

素手で何かをそのひびに必死に

塗り付けている。


「あ、ああ良かった。手伝ってくれないか?

 君が手伝ってくれれば、このヒビを埋められる」

近くに置かれたバケツに手を突っ込んで

俺もヒビの補修を手伝う。

「思い出さないか?時々、家族とこうして

 庭仕事をしていたことを」

黒いバムは微笑みながら語り掛けてくる。

「土日とか、暇なときに草取りやらされてた」

「そうか。家族っていいものだな」

「今考えるとな。でも子供のころはそうは思えなかった」

何となく頭に思い浮かんだので

「家族に憧れてるのか?」

「……何を言っているんだ?君と僕は

 家族じゃないか」

「……そうか、家族ならば

 そこの縁側で、何かスイカなど食べないか?

 今日は夏な気がする」

空を見上げると、真夏の太陽が射してきた。

「いや、補修を仕上げねば……」

という黒いバムの手を繋いで俺は

縁側に座らせる。そして

「母さーん!悪いけどスイカをもってきてくれ」

と台所に向かって声をかけると

顔のない母親が、縁側に大皿に切られたスイカを

すぐにもってきてくれた。塩の小瓶付きである。


「食べよう」

俺は縁側の隣に座った黒いバムに

綺麗にカットされたスイカを塩を振って

黒いバムに進めた。彼女は困惑しながら口につけて

「旨いな。そうか、こんな記憶もあったのか」

「ああ、記憶かもしれないが旨いだろう?」

俺は辻褄の合わないことを言っている気もするが

特に気にせずに

「夏の光とスイカ。これが紳士の嗜みだ。

 いいかメロンじゃない。何となく似たような感じでも

 メロンは高いからな」

「……ああ、そうだな」

黒いバムはスイカを皮まで食べきると

次の一切れに手を伸ばそうとした。

その手を俺は払う。

「なっ、何をするんだ」

「違う。盆踊りだ。いいか。夏にはスイカというのは嘘だ。

 夏は盆踊りだ。お前も切ない気持ちを体験しろ」

「せ、せつない?」

いつの間にか俺たちは盆踊り会場の

木製のベンチに並んで座っていた。

目の前では、櫓を囲んで、町内の人たちが

華麗な動きで老若男女問わず、盆踊りを踊っている。

「土着の祭りだな。君の記憶だ」

「違う。見ろ。あれだ」

俺は盆踊り会場の端で、木に隠れるように

寄り添っている浴衣姿の男女を指さす。

「ああ、生殖行為の前段階だな。互いの分泌物を嗅ぎ合って

 生殖に至るかどうか確かめ合っている微妙な状態だ。

 それがどうかしたのか?」

俺は間髪入れずに、黒いバムの頬を平手打ちした。

「……あっ、おい……痛いぞ」

「お前には人の気持ちが無いのか。

 あれに嫉妬してこそ、一人前の男だぞ」

「嫉妬、つまらぬ感情だ。孤高の存在には必要な……」

もう一度平手打ちする。

「他者が居てこその人だろうが!中学の時の監督が言ってたぞ!

 いいか、野球の監督が言ってたぞ!

 もう一度言う、監督が言ってたんだ!お前も分かれ!」

次の瞬間には、盆踊り会場の全員がベンチに駆け寄ってきて

黒いバムを担ぎ上げ、どこかへと連れ出して行った。

そして実家の近所の禿げたおっちゃんが

パタパタとうちわを仰いで近づいてきて

「ナオちゃん、あれ邪魔やなぁ。どうする?」

「野球で鍛えてください。

 野球五万年の刑で」

「よっしゃ。立派な二軍監督になるまで鍛えるわ!

 おっちゃんに任せとき」

「三塁とキャッチャーとライトを兼任させてください。

 休憩には常にスイカを口に」

「そうやな。スイッチヒッターやけど左打ちしかせん感じに

 仕上げるな。打率は二割前半くらいで、自称バント職人やな。

 実はあんまりバントは旨くない。

 でも、たまに意表をついてバスターで打つんや。

 あとファール打ちまくって、ピッチャー疲れさせる感じにするわ」

「よろしくおねがいします」

俺がおっちゃんに土下座したところで



「おっきろにゃあああああああああああああああ!」



ペップの声が辺りに響き渡った。





慌てて寝袋に入ったまま、上半身を起こすと

全身が滝のように汗まみれになっている。

辺りには、ペップとファイナとピグナ

マクネルファー、それにパシーも心配した顔で囲んでいた。

窓の外からは朝日が射している。

「私が朝の武術練習から部屋に戻ってきたら、大汗かきながら

 気持ち悪い引き笑いをしてたから起こしたにゃ」

「あ、ああ……すまない。何かシュールな夢を見ていた」

寝袋から出ながら言う。内容はよく覚えていない。

「まだ、宇宙船は見つからないよ」

「今日はみんなで、帝都を散策しようということになりましたわ」

「気分転換じゃな。わしも変装してついていくぞい」

「私もですかぁ?お部屋でゴロゴロしたいですけどぉ……」

「ついてきたら、三ピグナポイントあげるよ」

「そっ、それならぜひ行きます!」

俺たちは出かける前に

厨房を使って、自分たちの料理を手早く作り

そして宿泊者専用の食堂で食べることにした。

もちろん、マクネルファーは俺たちの宿泊室で

一人で隠れて食べている。


「マックは来なかったか?」

というマリアンヌ帝が途中で尋ねてきたが

全員で否定すると、察した顔をして去って行った。

「じいさん、骨は拾ってやるにゃ」

「マクネルファーは欠席だな」

誰も助けにはいかずに、食事を終えて

片づけはメイドの人たちに任せて部屋へと戻ると

マクネルファーは連れ去られた後だった。

空になった食器が散乱している。

俺たちはとくに何も思わずにそれを片づけて

帝都へと出かける準備を始める。

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