後悔
「ママが僕と遊びたくないって言うんだ……」
小さな黒いバムは寂し気に呟いてくる。
黒いバムは黙って微笑んでいるだけだ。
「僕、ママと遊びたいのに……」
小さな黒いバムは俺を物欲しげに見つめる。
俺は少し考えて
「ママは疲れてるんじゃないか?」
「でも、僕はママと……」
小さなバムは辛そうな顔で見てくる。
黒いバムはまるで顔に表情が貼りついたかのように
微笑み続けている。
「パパは僕の事好き?」
小さなバムが俺を見つめてくる
「ああ、好きだよ」
「ママは僕の事好き?」
見つめられたバムは微笑むだけである。
「……好きじゃないのかなぁ」
意気消沈する小さなバムに俺は
「きっと、疲れてるんだよ」
さっきと同じことを繰り返す。
すると、いきなり小さなバムが
憤怒の表情になり
「同じことしか言えないの?」
俺を指さすと、いきなり辺りの景色が変わった。
俺はどこかに寝かされている。
「聞こえますかー!?」
男の声で何度も耳元にそう尋ねられる。
聞こえているよ。うるさいなと
朦朧とした意識の中思いながら
良く見えない視界で辺りを見回す。
病院、いや、狭い救急車の中……?
よく分からない言葉を男たちが言っている中
ピーッと言う機械音が聞こえて
胸に何か機械が押し当てられ
掛け声とともに、俺の上半身が
ガクンッと上へと跳ねる。
痛みが無いから分からないが
電気ショックか何かのようだ……そこで意識を失った。
次に起きると顔には白い布がかけられていた。
何も見えないなと思っていると
いきなり布が外されて
見覚えのある顔が俺を覗き込んでくる。
ふくよかで憔悴しきった顔は……母さんか……。
料理上手で、口うるさくて……優しい……。
ああ、俺、切れた電線に当たって
そうか、死んだんだな……。
母さんは、俺の顔見るとそのまま
横に崩れ落ちていき、隣に居た父親から支えられる。
父さん……相変わらずサイド以外、禿げてるな……。
痩せてて小柄で、うだつのあがらないリーマンだけど
文句ひとつ言わず、病気もせずに
俺を育ててくれた。
気丈な顔を無理してしているのが分かるのは
いつものことだけど……。
ああ、ごめん……なんか本当にごめんなさい。
早かったなぁ……短いけど人生に悔いなしとか
決戦の前に言っちゃったけど
早すぎた……かも……。
後悔と共に目の前が真っ白になっていく。
「おっきろにゃあああああああああ!!」
「ぶぼふぁああああああああああああ!」
平手打ちを連発されて
左右にブラブラ揺れる。皮のままのようだ。
「こ、ここは……」
「帝都の宮殿の中だにゃ!連れて来たにゃ!
ゴルダブルなんか気持ち悪い顔して
うなされてたから起こしたにゃ」
ペップは血色のいい顔で真面目に言ってくる。
「お、俺、生きてるよな?」
「当たり前だにゃ!皮だけどちゃんと生きてるにゃ!」
また平手打ちをしようとしたペップに慌てて
「だ、大丈夫。正気に戻った」
「ならいいにゃ。これから世界各国の
首脳を集めた会議が開かれるにゃ。連れてくにゃ」
よく見るとオレンジのスリムドレスを着ているペップは
俺を抱えて部屋を出ていく。