必要な行為
作戦を話そうとして
「あの、ところで何で喋れてるんだ?」
「あ、そうですわね。口が動いていますわ」
ファイナも首を傾げると
「私が一時的に筋肉なしでも喋れるように
しています」
いきなりファイナの隣にバムが出現して驚く。
「戦況は不味いのか?」
バムは深く頷いて
「直接、接触できないので
巨大人型決戦兵器が全て破れると
もうあとは、逃げるしか手はありません。
遠隔から他の生物たちを操って戦うことはできますが
勝ち目のない戦いに貴重な命たちを代理で挑ませるわけにはいきませんし……
例え、冥界から召喚した物体でも、本体の感覚に通じていますから……」
悲しそうに首を横に振る。
「そうか、近くに居ると操られるからか……」
「まだ、わ、わたくしの魔法や
ペップさんの技がありますわ!」
「さきほどは、奇襲でしたから効きましたが
今度も通じるかと言われると……」
バムは苦しそうに顔を伏せる。
「あ、そうだバム。俺、食王を倒す作戦を思いついたんだよ」
「なっ、どういうことですか?」
俺がその内容を話すと
バムとファイナは唖然とする。
「たっ、たしかに、それならば
もしかするといけるかもしれません……」
「そ、そうですわね……あれなら
操られることはないでしょうが……」
「だろ?問題はどうやって発動するかなんだよ」
三人で黙って考え込む。
「誰でも、というわけではないようなのです。
私が考えるに、ゴルダブル様の視点と連動して
発動しているような気がします」
「よく考えれば、そうですわね。
……へっ、変な話ですが、わたくしたちが居た近くに
そういうことをしていた他人も居たわけでしょう?」
「はい。宿の隣の部屋に居たりもしましたが
けれど、そちらには向かうことは
一度もありませんでした。あくまでゴルダブル様の
見えている範囲だけですね」
「不思議だけど、今は考えている暇はないな。
あれなら操られることはないだろ?」
「そうでしょう。問題は、どうやって
発動させかですね……さらに言うと
どうやって、食王をターゲットにするか」
俺は少し考えてから、
「なあ、俺をまず誰かに被せられないか?
それで視点としてまず機能してもらう」
「可能ですけど、それからは?」
「あとは要するに、食王がそう言う状態になればいいんだろ?
だったら、巨大ロボを改装するとか
冥界から巨大なそういうのを呼び出すとか
それで絡ませたら良くないか?」
バムが頷いて
「……いい考えがあります。
実はパシーがどさくさに紛れて逃走しようと
したところを捕獲しました」
「やっぱり、逃げ出してたのか……」
「なので、罰として、一時的に巨大化させて
私が感覚を操り、そう言う衣装をつけ、食王へと挑ませます」
「わ、わたくしも、召喚してみますわ。
きっと、巨大なオーガ女とかで
居ると思うのです」
「冥王に連絡をしておきますね。
召喚対象の感覚を奪って、私が遠方から操れるようにオプションもつけてもらいます。
パシーも含めて、それでも危険なのですが、必要なリスクをとりましょう」
ファイナはさっそく、近くに魔法陣を描き始めた。
バムは皮だけの俺を抱えて
「被せるのならば本人が良いと思うのです」
「確かにそうか……」
ちょうど向こうからペップがマクネルファーを抱えて
走ってきた。
「んにゃ?バムちゃんも来たにゃ?
じいさんは気絶させたにゃ。これで余計な事できないにゃ」
ドサッと気を失ったマクネルファーを土の上に置いた。
「ペップさん、申し訳ないのですが
今から服を全て脱いで、ゴルダブルさんを
被ってください」
「にゃ?にゃにを言っているのかにゃ?」
訝し気に首を傾げるペップに
「最後の作戦をこれから仕掛けます。
ペップさんには、ゴルダブル様を被って貰って
魔法防御をあげてもらいたいのです」
上手い……確かにそう言えば、ペップも……。
「んーそれ、大丈夫かにゃ?
皮とは言え、ゴルダブルの肌と私の素肌が
合わさるわけだから、それ、エッチじゃにゃいか?」
「ゴルダブル様は、感覚がありませんので
ご心配なく。それに皮の上から黒パンツを履いてもらいます」
「ぬーどうしても必要にゃのか?
とんでもない変態行為に、手を貸すことになるような
気がするにゃ……」
「問題ありません。食王を倒すために必要な行為です
現状でこれ以上の手はありません」
ペップはかなり苦悶の表情を浮かべた挙句に
「わ、分かったにゃ……ちょっと今から脱ぐから
ゴルダブルの目を塞いどいてにゃ」
バムが俺の目を塞ぐと、ゴソゴソとペップが脱ぎだして
そしてすぐに俺の皮だけのペラペラの身体を
バムの手から奪い取って着始めた。
三分ほどでペップは俺の皮を着て
バムから差し出された黒パンツをその上に履く。
「……たぶん、今鏡見たら死ぬにゃ……」
そう言いながら、ペップは身体の各所を
伸ばしたりして、確認する。
さらに頭の部分の俺の口をゴムのように
伸ばして、その中から目を出し
回りを見つめる。自分ではもちろん見えないが
きっと知らない人が見たら
腰を抜かす光景だろうと思う。
「伸縮性は悪くないにゃ。で、バムちゃん
作戦はどうなってるにゃ?」
「はい。私がペップさんを抱えて
戦場の上空へと飛びます。
それから、作戦が始まりましたら離すので
そのまま食王へと突っ込んでください」
「……えらいシンプルだけど、大丈夫かにゃ?」
「高い確率で成功すると思います」
「ふむーわかったにゃ。もう飛ぶのかにゃ?」
バムは魔法陣に向けて詠唱をし始めたファイナを見て
「そうですね。行きましょうか」
俺の皮を被ったペップを抱えると
一気に上昇していく。
数百メートル上空に上がっても
まだ上昇をやめないバムに
「まだ上がるにゃ?」
「そうですね。上空一キロくらいは距離が必要だと思います」
「戦場がそれじゃよく見えないにゃ」
「いえ、問題ありません。今までの事実から計算した必要な距離です」
「ふーむ、バムちゃんが言うならそうにゃのか」
俺はひとすら黙って、バムに任せる。
恐らく、近すぎると食王とパシーや
ファイナが召喚した対象が接触する前に
ペップのあれが発動してしまうのだろう。
俺は晴れている青空を眺めて、今度こそ無心で
その時を待つ。