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準備

近づくと、以前、マクネルファーと帝都脱出に

使ったような、数十体の巨大なロボットたちが

何かを遠巻きに包囲して、それに向けて全身から突き出た

太い銃器から砲弾と鉛玉の雨を降らせている。

定期的にミサイルも遠くから飛んできて

包囲された中心で炸裂している。

時折、煙と爆発で見えない中心から

激しい衝撃波が飛んできて

包囲しているロボットに直撃して

その一体がバランスを失って沈んでいく。


「あにゃー……普通ならとっくに消し炭になってる

 火薬量だにゃー」

「あの中心に食王が居るのですね」

「そうじゃろうな……」

「あの状態で反撃できるのか……」

仲間たちの会話は聞き流して

俺は砲弾、俺は砲弾だとひたすら

念仏のように、心の中で唱えていると

「ここでいいにゃ」

「そうですわね。トレーナーパイセンさんたち

 待機してくださる?」

俺たちはトレーナーパイセンから降ろされる。


俺はもはや完全に心が落ち着いた。

世界で俺以上に、砲弾としての心構えが

出来た人は居ないと思う。

トレーナーパイセンたちは後ろに下がって

待機していると、遠くから巨大生物のズパーが

ゆっくりと滑車に乗った大砲を引いてくる。

周囲には大量の槍や鉄砲を持った

帝国軍兵士たちの護衛付きだ。


「私たちが買ったあいつだにゃ。

 マリアンヌ帝が、あの後、即引き取って

 ペットとして飼っているらしいにゃ」

ズパーの頭の上には赤いマントを羽織ったマリアンヌ帝

まさにその人が座っていて、手をこちらへと振っている。

マクネルファーは即、俺の後ろへ隠れた。


ズパーがこちらへとたどり着くと

周囲の兵士たちが、キビキビとした動きで

滑車から大砲を降ろして、戦場の中心部へと

砲身を向けていく。

そうか、これが砲弾である俺を発射する装置か。

完全に悟りの境地に入った俺は

冷静に大砲を眺める。


「じゃー……そろそろ始める?」

ピグナが、ファイナとペップを見回して言う。

二人は頷いて、ペップは深呼吸をし始め

ファイナは長大な魔法陣を近くに描き始めた。

マリアンヌ帝が、マクネルファーを見つけて近寄ってきて

「マック、帝国式の応援をするぞ!」

「ええー……マリーもするのかのう?」

「我々には、もはや、それくらいしかできないだろう!?」

二人は俺の前へと並ぶと

まず、振り付けの練習を始めた。


「フレーフレーだ。いいか、手の角度はこう」

「そ、そんなに様式が大事か?」

「様式に気持ちが乗ると、最大限の効果を発揮する。

 若いころのマックが私に教えてくれたことだよ」

「若いころのわしを恨みたいわ……」

二人は、しばらく話しながら、振り付けの

練習をすると

「よし、ゴルダブル殿、行くぞ!」

マリアンヌ帝が、右手をかざして

「フレーフレー!ゴルダブル!」

踊るように大声で応援を始めて、大砲のセッティングが終わった

兵士たちも次々に駆けつけてきて

その背後に並び、まったく同じしぐさで

応援を始める。


俺は砲弾なのでとくに心は動かされないが

客観的に見て、凄い光景だろうなとは思う。

最終的には、準備にいぞがしいペップ、ファイナ、ピグナ

以外の三人が、俺の目の前で一糸乱れぬ動きで

応援し始めた。待機していたトレーナーパイセンたちもである。

恐らく、動きが気に入ったのだろう。


そうこうしているうちに

ペップが虹色のオーラを全身に纏って近づいてきた。

「さあ、いくにゃ」

俺を躊躇なく抱えあげると

ファイナの描いた複雑な魔法陣の中心部へと連れていく。

そしてそこに立たせると

真剣な顔のファイナが、杖を持って近づいてきて

「今から、ゴルダブル様の周囲に冥王様の

 エネルギーを貼り付けます。動かずに居てください」

と言いながら、ペップに目で下がるように促して

両手を空へと掲げ

「偉大なる冥王ガスパールグルジャーナ様よ!

 我が盟友、ゴルダブルに全てを拒絶する

 鎧を与えた賜え!」

暗雲を頭上に呼び寄せながら叫ぶと

ゴロゴロと暗雲が鳴り出して

いきなりピシゃアアア!と雷が俺目掛けて落ちてきた。

同時に魔法陣から現れた巨大な紫の右手が

俺の全身をギュッと掴む。

一瞬、眩暈がして倒れそうになり

両目を開けると、もう暗雲も俺を掴んだ手も無く

不思議な浮遊感だけが、身体に残っていた。

「成功ですわ!ペップさん!」

「ファイナちゃん!避けるにゃ!」

ファイナがサッと魔法陣から出ると

「閃光のハイキャッター戦士、ペップが長い旅の果てに編み出した

 究極奥義の、さらに先の至極の技を受け止めろにゃ……」

ペップはそう言うと、拳を脇深く構えて

「腐海の女神!アーッ!」

俺へと一直線に殴り掛かってきた。


ペップは俺のみぞおちに一発強烈のパンチを入れると

さらに瞬時に両手を広げて、五本の指で身体を押してくる。

すると俺の身体全体に、全てを破壊するような

振動が広がって、そしてそれはピタッと止まった。

同時に全身が虹色に輝き始める。

「砲弾として、撃ち込まれたら

 ゴルダブルの身体から、今撃ち込んだ衝撃が

 ファイナちゃんの魔法との相乗効果で数百倍になって

 外部へと吐き出されるにゃ」

ファイナも近寄ってきて

「つまり、当たれば、間違いなく食王を破壊できます」

「さあ、砲弾へと入るにゃ」

ペップは俺の身体を抱えて

砲身へと近寄っていく。

俺の心はまったく揺るがない。落ち着いているようだ。


ピグナが砲身の前には待っていて

「空中でトスするから、あとはペップちゃんと

 ファイナちゃん頼むね」

ペップと共に、大きな砲身の中に

俺の身体を入れ込むのを手伝う。

「ゴルダブル様!ご武運をお祈りします!」

ファイナは涙目でそう言うと

魔法陣の方向へと走って行った。

「よし、あとは着火するだけだよ!ゴルダブル頑張って!」

ピグナはそう言うと、砲身の前から去って行った。

「グッドラックだにゃ」

ペップの姿も消えると、ふと俺は我に返ってしまう。


あれ……何かめちゃくちゃ怖くないか?

砲弾だと思い込もうとしていたけど

俺、やっぱり人間だよな。

というか、何だよ、この非人道的な作戦……。

あれ……うわ、身体が震えてきた。

砲身の背後からは

「着火したにゃ!」

というペップの大声が響く。

土壇場で、心の準備が崩れて

俺は頭の中が激しく混乱してきた。


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