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無心

飛行船の中で悶々としていると

キクカがまた隣に座ってきた。

そして注射器で、いきなりまた薬を注入しようと

してきたので、必死に止めて

「あ、あのな。もういい。もう薬はいいぞ」

「そうか?恐怖心を失くす薬だぞ。色々と捗る」

「い、いや、大丈夫だ。逃げないから」

「必要なら言ってくれ」

「お、おう」

キクカはまた去って行った。

いや、もうしょうがないよな。

砲弾だろうが、何だろうが、

ここまで来たらなってやるわ。

覚悟を固くする。


五分後。


やっぱり身体に震えがくる。

怖い。めちゃくちゃ怖い。

どうしようもないほど怖い。

隣からいきなり抱きしめられて驚く。

「……大丈夫です。私が守りますから」

バムだ。温かくて柔らかい。

妙に安心して、俺は抱きしめられたまま

眠り込んでしまった。


起きると、辺りは荒野で

周囲に立った仲間たちが数人の制服を着た

帝国兵たちと何かを話しているのが

聞こえる。

「も、もう着いたのか?」

上半身を起こして尋ねると

ペップがこちらを見てきて

「飛行船、攻撃を受けたにゃ。

 それで、乗員と緊急脱出したんだけど

 パシーの姿が見当たらないにゃ」

確かに、辺りにパシーは居ない。

「逃げたのかな……」

ピグナも近寄ってきて、難しい顔をする。

「攻撃って、どんな……」

俺の背後を指したペップと同じ方向を見ると

数百メートル遠くで、飛行船の残骸が炎上して煙を上げている。

「食王に操られた巨竜がエンジンに突っ込んできたにゃ。

 それで、墜落してにゃ。

 私の技とピグナちゃんの翼

 とファイナちゃんの魔法で脱出させるの大変だったにゃ」

「そ、そうか、ありがとう」

「気にするにゃ。ゴルダブルには

 大きな仕事が残ってるにゃ」

マクネルファーが走ってきて

「話がついたぞい。我々は、このまま北上する。

 キクカさんと乗務員の人たちは、避難しつつ

 近くの帝国の拠点で、通信をしてもらう」

「行きますわよ」

ファイナも駆け寄ってきて、発奮した顔をする。

キクカも俺の顔を見に来て

「すまん。恐らく私が戦闘能力の低いこの人たちを誘導しなければ

 命が危うい。ゴルダブル、世界の運命を任せたぞ」

「う、うん……」

キクカはウインクして、乗員たちと徒歩で東の方角へ去って行った。


その後、ファイナの召喚した大量の

二十体ほどの走るトレーナーパイセンたちに神輿のように

担ぎあげられながら

俺たちは、北へと移動し始める。

パシーは時間が無いので

探すのをあきらめることになった。

「トレーニングは全て私が請け負うから

 心配すんにゃ!」

ペップがニカッと笑いながら

言ってくるが、いよいよ俺は

最後の時が近いのに勘付きつつある。

空は真っ青である。

遥か北に、ワールドイートタワーが見えてきた。


「嵐が晴れてますわね……」

「確かにな……」

「気にすんにゃ。食王の背後を突くだけだにゃ」

「……」

砲弾、俺は砲弾。もはや人間ではない。

砲弾だと、自分に言い聞かせていると

段々と楽になってくる。

よし。俺は世界を救う砲弾だ。

うむ。砲弾だな。

段々無心になってきた。

視界は灰色である。

よし。仲間たちにすべてを任せて

ここまで来たなら、砲弾としての役割を

全うするしかない。


ワールドイートタワーに近づくほどに

タワーの北側遠くから、恐ろしい

爆音が響いて、閃光が何度も瞬いているのがわかる。

キノコ雲も何度か上がっていて

どんな恐ろしい戦場が……。

一瞬、過ぎったが、いや、俺は砲弾だ。

心はない。と無心の境地で

トレーナーパイセンたちに担がれながら

深呼吸をする。


「ゴルダブル!段取りはさっきもうきめてあるにゃ!」

近くから仲間たちが次々に声をかけてくる。

「わたくしたちに身を任せてください!」

「そうじゃぞ!わしも応援しとるぞ!」

「じいさん……せめてちゃんと応援しろにゃ」

「うむ。ゴルダブル君安心しろ!

 わしの無人機操作は、飛行艇が墜落して

 コントローラーを紛失して無しになったのよ!」

「私とファイナちゃんが二倍働かないといけなくなったにゃ……。

 じいさんも後で、一緒にトレーニングしろにゃ」

「そっ、それは無理じゃあ……」

ギャアギャア会話しながら

俺たちは、トレーナーパイセンに担がれて

戦場へ近づいていく。

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