砲弾
静かに一階の大食堂に皆で集まって
キクカの所の冥界からの従業員たちが用意した
朝食を食べる。
旨い。昨夜の料理もそうだったが
食べたことのない味だ。
同席しているキクカが
「今日の予定を説明する。いいか?」
テーブルの俺たちを見回して言う。
皆で黙って頷くと
「今から二時間後に、帝国南部へと出発する。
現在食王はワールドイートタワー付近で
帝国の無人攻撃機により、足止めされている状態だ」
「無人攻撃機?」
「うむ。巨大人型決戦兵器だ。
全機投入されているが、すでに半数の七十体が全壊したとのことだ」
「そうか……食王は生き物の感覚を操るから」
「そういうことだ。ただこのままでは持たない。
なので、ゴルダブルたちには
ワールドイートタワーの南部から
食王の後方へと近寄って貰って
そこから、最大の破壊力をもつ技で
やつの背中を狙ってもらいたい」
「つまり、ファイナちゃんと、ペップちゃんが
攻撃すればいいんだね?」
ピグナがそう言うと、キクカは首を横に振る。
「必要なのは全員の連携技だ。私はゴルダブルを
魔法と闘気に包んで、食王に砲弾として
撃ち込むのがいいと思う」
「あの……何をおっしゃっておられるんですかね……」
俺が驚いて見ると
「うーん、ゴルダブルはまだ魔法耐性はあるのかにゃ?」
「そこは問題ない。皮はそのままなので
魔法を完璧に防ぐだろう」
「ならばわたくしの、魔法を先に身体の周囲に貼り付かせて
それからペップさんの闘気で包むのが良いかもしれません」
「あの、俺を打ち込む以外の方法は……」
「恐らくは無い。全員の連携で
どれだけゴルダブルの速度を出して
食王の身体へと正確に打ち込めるかが勝利への道だ」
「あの俺、ボールじゃないんですけど、生き物なんですけど……」
「ふーむ、ならばわしは無人人型機を一体貸してもらうか……
空中でオーバーヘッドキックしてみるかのう」
「あたし、空中でトスして勢いつけるよ!」
「それ、俺、さすがに死なない?」
「あのー私は……」
「あんたは近くで見てなさい。もし負けそうだったら
囮役ね!」
「そ、そんなぁ……」
「うまく逃げきれたら、五百ピグナポイントあげるよ」
「ごっ、五百……頑張ります!」
俺の意見は誰も聞かずに
そのまま作戦会議は進んで、準備が始まり
そして二時間後に、帝国の飛行船に乗り込み
現地へと向かうことになった。
俺は毛皮を羽織っているが、中は黒パンツ一丁である。
例の魔法に耐えられる素材のやつだ。
座席の隣に座ってきたキクカが
「ゴルダブルの本体はあくまで皮だ。
中身がぐちゃぐちゃになっても、また蘇生できるから
気にするな」
と言いながら、すばやく何かを注射してくる。
「あ、あの……なにこれ……」
「痛みを消す薬だ。これで全て問題ない」
そう言って、他の仲間へと話にいった。
う、うん……昨夜から、良いことが続きすぎると
思ったんだよね……そ、そうか、俺はもう完全に
砲弾として、仲間たちから食王に撃ち込まれることに決まったらしいと
その時、ようやく自覚する。
ペップとファイナが座席に近寄ってきて
「ゴルダブル、辛いかもしれないけど頼むにゃ。
キクカさんの話によると、死ぬことはないらしいにゃ」
「ゴルダブル様、あの……もし、この戦いに生き残ったら」
ファイナがポッとほほを赤らめて言ってきて
ペップがため息を吐きながら
「まあ、いいにゃ。許すにゃ。
生き残ったらエッチでも何でも好きにすればいいにゃ」
なんと去って行った。
「あの、二人目でもいいですから……」
「……生き残ったら、考えよう」
ファイナはコクンと頷いて、去って行った。
生き残ったら、もしかしてさらなる天国が待っているのかも
しれないが、果たして俺は、まともな状態で居られるのか……。
頭を抱えて悩む。そうこうしている内にも
飛行船は刻々と戦場へと近づいて行っている。