報い
静かに食事を終えて
皆黙ったまま、それぞれの部屋に
幽霊たちから案内される。
全員、一人部屋だ。
俺は塔の最上階の見晴らしの良い部屋へと
案内されて、青や赤の大きな光が
揺らめきながら飛ぶ、外を眺める。
キクカから事前に説明は受けていて
飛行しながら警備する
泥龍たちが、自分の液状の身体に
冥界の発光する虫を大量に入れて住まわせ
他の地上の警備員や作業員たちに、
自分の所在地を分かりやすくするためらしい。
明日は決戦が開始されるらしいが
ここまで来たら考えても仕方ない。
寝るか。と部屋の明かりを消そうとすると
コツコツと扉が叩かれる。
開けると、外にはパジャマを着た
ファイナとピグナが立っていた。
寝袋を手に持っている。
「あのさ……こうしていられるの最後かもしれないし
一緒に寝よ?エッチな意味じゃなくて
普通に……同じ部屋で、いつもみたいに」
「ペップさんには睡眠薬を盛って
キクカさんの協力で、城の地下室に
強力な魔法陣と共に封印しておきましたわ」
「バムちゃんもきっと、決戦の準備で
今大変だと思うから……」
俺は頷いて、寝袋を受け取り床で寝ることにする。
女子たち二人は俺のベッドに入ると
すぐに安心したように寝息を立てだした。
俺は部屋の明かりを吹き消して
寝袋に入って真黒な天井を眺める。
この世界に着て、数か月か。
色々とあったな。まあでも結構面白かった。
短い人生に後悔はあったかな……。
記憶にある幼いころから、この世界に来るまで
延々と思い出して、一つだけ後悔があったのを
思い出した。
中学のころの野球部で矢島だか、田中だか
よく覚えてない変な打法で三番打ってたやつに
試合や、殆どの練習のたびに
ポンポンをもって、チアガールみたいな服を着て
いっつも応援に駆け付ていた
そこそこかわいいツインテールの女が居たのだ。
……めちゃくちゃ、羨ましかった。
中一のころからずっとである。
しかしあいつは、それを拒絶し続けていて
迷惑みたいな顔をしてやがって
じゃあ、俺にくれよ
俺じゃどうせ無理だろうけど……と何度思ったことか。
あの三番のクソ野郎を一回、金属バット……だと、死ぬか……。
じゃなくてハリセンとかで一度
頭を後ろから思いっきりぶっ叩いてやればよかった。
それだけである。
それ以外は、後悔はない。
……いや、あえて言うなら
バムと、一回一夜を共にしたかったか。
まあ、もういいや。
ダメなら、サッと散ろう。
短いけど悪くない人生だったな。
悟りの境地に達しながら
瞳を閉じると、柔らかいものが
いつの間にか寝袋の中で当たっている気がしてくる。
驚いて目を開けると、薄明かりの中で
バムの顔が目の前にある。
「あの……少しの時間だけ……」
バムは恥ずかしそうに
そう言うと、俺の身体を優しく触ってきた。
俺もその何も身に着けていない柔らかい身体に
両手を回す。
しかしどうしても気になることがあって
「……ペップは?」
「冥王に協力を頼みました」
「後々、尾を引かない?」
「ピグナさんをこちらに貰いましたから。
その借りを返させる形で……」
「そう……良かった」
そこからは夢中で、狭い寝袋の中で求め合い
夢のような気持ちの良い時間がずっと続いて
気付いたら、果てて、深く眠り込んでいた。
朝起きると、当然一人で
近くにファイナとピグナが
しゃがみこんで、俺を睨んでいる。
「あ、あの……おはよう……」
「ゴルダブルの服が寝袋の外に散ってるんだけど
下着まで脱ぐ必要がどこにあるのか
あたしは訊きたい」
「そうですわ。バムさんが来ていたのでしょう?」
「う、うん。いつもみたいに未遂だったよ。
どこからともなく、ペップが現れて
バムを異次元に引きずり込んでいった」
咄嗟に嘘を吐くと
「……」
二人は顔を見合わせて、一斉に俺の両頬にキスをしてきて
「こ、これで許してやる!」
「そ、そうですわ!バムさん見ましたか!」
と顔を真っ赤にして、部屋から駆け出て行った。
あー、何か今、一番人生で幸せかもしれない。
あのクソ三番もその後の人生で
きっとこんなにモテてはいないだろう。
勝った。完全に勝ったわ。トラウマすら乗り越えた。
よーし、やる気になった。
寝袋から出て、脱ぎ捨てた下着と服を着る。
報われた。
もう後悔はない。進むだけだ。