気持ちの区切り
キクカに先導されてビルの入り口まで行くと
左右のライフルを縦に持った
帝国兵の衛兵たちが敬礼してきた。
「ご苦労……」
キクカは軽く右手を挙げて返すと
自動で左右に開いたビルのガラス扉へと
入っていき、俺たちもそれに続く。
中は普通にロビーになっていて
帝国の制服を着た受付嬢がこちらへと微笑んでくる。
キクカは受付へと近寄って
「葬儀の見学者だ。今の時間いけるか?」
「十分後に開始の予定です。
地上、地下、どちらに致します?」
キクカが振り向いて俺たちを見てきたので
全員で目を合わせると
ペップが手を挙げて
「とりあえず、地下がいいにゃ」
「では、地下へ見学で」
受付嬢は頷いて、ゴツイ受話器で
どこかへと連絡をし始めた。
そしてすぐに
「エレベーターでお向かいくださいませ」
と俺たちに頭を下げてくる。
キクカが先導してロビー奥に
三つほどあるエレベーターの扉の一番左と真ん中の
ボタンを押した。
「大人数だ。二手に別れよう」
すぐに来た左のエレベーターに
俺とキクカとピグナとマクネルファー
そして真ん中のエレベーターに残りの全員が乗り込む。
現代的な真白い金属の箱に乗るタイプの
エレベーターがゆっくりと下降しだしてすぐに
キクカが俺を見て
「マリー帝からのゴルダブルへの伝言だ。
"もし、決戦後に生き残っていたら帝国を任せたい"とのことだ」
「……!?」
全員で目を見開いて驚く。
「子供が居ないからな。マクネルファーと隠居したいらしい」
「わ、わしはそんな未来は嫌じゃ……」
「もし、俺が拒否したり、生き残っていなかったら?」
「その時は、ピグナが後見をするという条件で
ファイナを指名したいらしい。二人がやられたときは
帝国もどうせ滅亡しているから、もういいらしい」
「それであたしもこっちに乗せたのか……」
「考えさせてくれ」
「うむ。当たり前だ。時間をかけて決めてくれ」
キクカは頷いて、エレベーターの扉を見る。
無言で乗っていると、扉が開いた。
全員で外へと出ると
中は熱気が凄かった。
水着のような恰好をした数名の筋骨隆々とした男女が
中心部の真っ赤に燃える巨大な溶鉱炉へと向けて
何か祝詞のようなものを
まっすぐに立って、声を合わせて告げている。
超巨大な鍋のような溶鉱炉へは、
その上部から何ラインもある
ベルトコンベアーから
次々に古い機械の大小さまざまな
部品が投下されていく。
キクカが俺たちを見回して
「熱いぞ?脱がないでいいのか?」
と言ってくる。
隣のエレベーターの扉が開いてペップたちも
降りてきた。
「すごいにゃあ……」
と言いながらペップは上着を脱いで
パタパタとそれで扇ぎ始める。
「暑いですわね……」
ファイナが脱ごうとしたのをピグナが止めて
「パシー、みんなの周囲の熱気を七度遮断しなさい。
九ピグナポイントあげるから」
「はっ、はい!今すぐに!」
パシーはブツブツと呪文のようなものを
唱え始めた。
ピグナは涼しい顔で
「あたしがやってもいいんだけど
それじゃ、この子のためにならないからね」
マクネルファーは堪えきれずに
褌一丁になって、顔をタオルで拭いている。
五分ほどすると何か、辺りが涼しくなってきた。
「よろしい。九ピグナポイントで
今までの二十一と合わせて、合計三十ね!」
「あの、三十一では……?」
真顔で計算間違いするパシーに
「ううむ、もしかしたらわざとやってるのかもにゃ……」
「意外と策士かもしれんぞい」
「とにかく涼しくなってきて良かったですわ」
ようやく俺たちは水着を着ている
マッチョな男女たちの所へと近寄っていく。
背後五メートルほどに近寄っても
彼らは振り向きもせずに、不思議な言語で
溶鉱炉へと向かって一心に何かを唱えている。
「これは一体なんですの?」
「先ほど言ったとおりに葬儀中だ。彼らは
帝国から派遣されてきた、機械向けの神官たちだ。
熱に耐える特殊な訓練も受けている」
「根本的なことを尋ねてもいいかのお?
機械に葬儀が必要なのか?」
キクカはフフッと笑い、
「形あるものには、魂が宿ることもある。
それにどちらかというと
人間側の気持ちの区切りとして
"葬儀をしている"という形が必要だ」
「つまり、帝国で機械を使ってる側の人間たちのために
やってあげている側面がおおきいんじゃな」
キクカは黙って頷いた。
地獄の窯のような溶鉱炉を見ていると
気持ちがめげそうなので
俺たちは、そのまま回れ右して
エレベーターに乗り、今度はビルの屋上で
行われているらしい空中葬儀を見に行くことにした。