プライド
進み続けると、砂が盛り上がって砂丘のようになった
砂漠の一角に数百体の裸の遺体が山積みにされていた。
近くにバイクを止めたが、俺たちが
引きまくって、近づけないその山へと
キクカは一人で進んでいき、そして詰まれた
傷だらけの遺体を丁寧に一体ずつ
砂漠へと寝かせていく。
しばらく見守っていたが
次第に俺たちも近寄って行って
その作業に加わる。キクカはまったく遺体を
ぞんざいに扱わない。見ていたら
何かとても神聖な行為のような気がして
俺たちも真似をする。
二百体ほど砂漠に寝かせたところで
「これだな」
キクカがズルズルと小さな、汚れた服を着た男の子を
引っ張り出した。金髪のその子の脈を、ペップが測って
「生きてるにゃ……」
「あたしが事務所まで連れていくよ。
パシー!あんたも来て、介抱する!」
「はっ、はい!」
ぐったりした男の子を抱えたピグナと
パシーは翼を羽ばたかせて
そして砂漠の遥か南まで消えて行った。
キクカはホッとした顔で
さらに遺体を並べる作業に戻る。
最後までやりきるようだ。
俺たちもその後一時間ほど手伝って
服も汚れ切ったころに、全ての遺体が
砂の上に綺麗に並べられた。
「おーい!もういいぞ!」
キクカが辺りに向けて声をかけると
砂の中から巨大な黄色い地龍が出てきた。
先ほどのヴィールムスウォールだ。
睫の長い両目で遺体を見下ろして
地龍はしばらく眺めると
「時々、思うのです。知性のある生き物が
何でこんなに命を粗末にするのかと」
キクカは苦笑して地龍を見上げ
「"人"という生き物は、プライドで死ぬ。
プライドで他者を傷つけ、壊す。
まだまだ未発達だ」
「お陰様で私は、毎日おいしいお肉にありつけますが」
キクカは俺たちを見て
「行くぞ。食べるところ、ちょっとグロい。
見なくていい」
バイクに乗り込むように促す。
飛行バイク三台で南へと飛んでいき
キクカの事務所を目指す。もちろんあの小城のことだ。
先ほどの男の子の様子が気になる。
俺はまたファイナの後ろである。
さすがに安全運転なので、一応安心はできる。
薄汚れた小城の美しい中庭へと戻ると
先ほどの幽霊の男の子が駆けてきて
「キクカ様!こっちこっち!」
そのままキクカを城の医務室まで連れて行った。
医務室では、全身真っ赤な鬼のようなナース一人と
天使二名が、ベッドに寝た人間を囲っているという
不思議な光景がそこにはあった。
「オーガのイトさんだ。冥界から派遣されてきてる」
キクカはサッと俺たちにナースを紹介して
そして寝かされている金髪の男の子の様態を眺める。
「もう、大丈夫だな。よし、行くぞ」
さっそく出ようとしたキクカをピグナが
「あれ……いいの?」
「うむ。お前らもまた来い。あとはイトさんに任せろ」
「気が早いにゃ。でも案内してもらってるし
キクカちゃんに合わせようかにゃ」
俺たちは再び中庭へと向かって
また空へと飛び立った。
キクカを乗せたペップのバイクが先導して
今度は東へとずっと飛んでいく。
「次はどこに行くか聞いた?」
操縦しているファイナに尋ねると
「えっと、確か、チャ・ソヤなどの東方の国の
貴人たちが葬られている葬地へと
向かうそうですわ」
「ほんと墓ばかりだよな」
「世界は広いですわね」
俺たちは頷き合う。