事務所
青空を飛行バイクでぶっ飛ばしていくと
眼下に広がる森の先に、
凄まじい数の墓石が並んだ地帯が見えてきた。
その中心部らしき場所には、周囲を城壁に囲まれて
高い塔を幾つか持っている、薄汚れていた小さな城が見える。
「あれがキクカさんの事務所ですわ」
「仕事場なんだな……」
住宅では無くて、墓に囲まれた城か……。
城内の中庭に次々に飛行バイクは着陸していく。
俺も降りて、外とは景色の違う
よく整備された芝生や、綺麗な噴水を見回していると
身体の透けた灰色に汚れた服を着た子供が駆けてきた。
右手が丸々ない。
「お客さんたち、どうも!
キクカ様が、待っていたって!」
俺たちを手招きする子供に連れられて
中庭から、城内の通路へと入っていく。
石造りの城内は、そこかしこに透けた人間や
エルフなどが談笑していたり
膝を抱え込んで虚ろな目で
座りこんだりしている。
ピグナとパシーが近くを通り過ぎると
祈りだしたり
「天使様、どうか……お慈悲を……」
「我らに安息を……」
と何かを一心に頼んでくる人たちも居る。
「全部、幽霊だにゃ?生身の人間は一人もいないのかにゃ」
案内の子供は後ろを振り返って
「そうだよ!僕も来年のワールド料理カップ待ちなんだ」
「成仏するのってことかの?」
「そうだよ!この城の人は途中で消えちゃう人が
大半だけど、僕みたいにいつまでも残ってると
大会に連れて行ってくれるんだよ」
「何かそんな話は、聞いたな」
俺は大会中に話したことを思い出す。
そのまま幽霊だらけの城内を
階段を登って、上へと進んでいき
辺りが一望できる高さの
塔の最上階の部屋の中へと案内されると
キクカが書斎の中で、大量の書類とにらめっこして
サインを描いたり、丸めてゴミ屑に放り込んだりしていた。
「ああ、来たのか」
そっけなくそう言って、また書類に目を
通し出したキクカを子供は
「とんでもなく喜んでるよ!遊んであげてね!」
と言って、部屋の扉を透過して去って行った。
「忙しそうですわね」
「そうじゃのう。お暇するかのう」
「仕方にないかにゃ」
「あたしとパシーが翼で中庭まで一気に連れてくよ」
「わ、私もですか?重いですよぉ……」
六人で執務室のテラスから出て行こうとすると
いきなり、ジャラジャラと宝石を全身に身に着けて
王冠を被り、真っ赤なマントを羽織った骸骨が
近くに出現した。
「死神長様……」
ファイナがサッと跪く。
確かにこの格好は忘れない
キクカがノルノルと呼んでいた冥界の死神長だ。
骸骨は首を横に振って
「よいよい。そんなことよりあんたら
仕事はこっちで引き受けるから
キクカと遊んでやってくれんか?」
「よ、よろしいのですか?」
ファイナが丁重に尋ねると、死神長は頷いて
「喜びすぎて、どうしたらいいか分からんのや。
不器用な子やけど、頼むなぁ」
両手を合わせて頼み込んできた。
俺たちは即座に了解して
キクカを書斎から引っ張り出し
そしてピグナが抱えて、中庭まで飛んで行った。
「あ、あの……もしかして私……」
パシーが残った全員の視線を浴びて
泣きそうな顔をする。
「しょうがないにゃあ、私は塔を下りて
屋根を伝ってもどるにゃ。背負われたい人居るかにゃ」
即座にファイナが手を挙げて
マクネルファーの背中に掴まって
そのままテラスを下へと降りて行った。
「悪いけど、年寄りとゴルダブル君を頼むなぁ」
「は、はい……」
パシーはうな垂れて頷いて
俺とマクネルファーと両手にそれぞれ結んで
羽根をはばたかせ、テラスから飛び出した。