その夜
その後、
あきらめの悪い
ピグナとファイナが五回ほど
俺を茂みに連れ込もうとして
五回とも、操られたパシーとペップの
妨害に遭って、ようやく諦めた。
「うぬー……むっ、無理ですわね」
ファイナがしゃがみこんで、肩で息をする。
「さ、さすがに大天使の力如きじゃ
バムスェル様……いや!あえて!
バムちゃん!にはかなわないか……」
ピグナなど意地になって
バムの呼び方にまで拘っている。
「あ、あの……もう、やめて肉食べよう……」
「そ、そうですわね」
「そうしようか……」
三人で肉を食べ始める。
ちなみにペップは深く眠り込んでいて
パシーは操られすぎた後遺症からか
閉じた両目から光が漏れていて
そして全身がピクピクと痙攣している。
三人で大人しく湖を見ながら肉を食べていると
近くの茂みから、げっそりとした顔の
マクネルファーと、
対照的にテカテカしたマリアンヌ帝が出てきた。
「ふっ、久しぶりに満足したぞ。また来るからな!」
マリアンヌ帝が、右手を高く挙げると
空から、いきなり、鎧を着た操縦者が一人乗った
プロペラがついたバイクのような機械が降りてきて、
そしてマリアンヌ帝は、そのバイクの後ろへと
サッとまたがると、素早く空へと去って行った。
同時にマクネルファーがその場に崩れ落ちる。
三人で慌てて駆け寄ると
「……なっ、七回じゃぞ……年寄りに
薬をむりやり飲ませおって……虐待じゃろ……」
マクネルファーがまた自逆風自慢をしたので
俺とファイナは即座に放置して、肉を食べることにする。
ピグナが仕方なさそうに
「もうあたし、天使だからね。その活動の第一歩として
この嫌味なじいさんを、小屋で介抱してくるよ」
「いっ、嫌味とはなんてこというんじゃ!
あんなもん、拷問じゃろ!わし、枯れとるというのに……」
ブツブツ言いだしたマクネルファーを抱えて
ピグナは小屋の方へと飛んで行った。
「とりあえず、満足するまで食べようか……」
「そうですわね……せめて……」
二人で黙ってバーベキューをし始める。
近くでは時折
「きしゃああああああ……エッチなのは……」
と呟きながら眠るペップと、体中の色んな所が
ランダムで光っているパシーが寝ていた。
そんな感じで夕方までダラダラして
食べ終わって、ペップたちも起こし
またそれぞれの小屋へと戻る。
皮として干されていた部屋である。
なんとなく部屋の壁に張られた洗濯糸が
気になるが、まあ気にしてもな……。
と思いながら、寝る準備をし始め
ベッドメイキングをしていると
なんと部屋の中に、バムが立っていた。
「ど、どうしたの?」
しかもペップが着ていたような
際どい水着姿である。
バムは恥ずかしそうに近寄ってて
「あ、あの時間ができたので
ちょっとお話をと……」
「その水着は……?」
「似合ってますか?」
「とても似合ってると思うけど、いいの?」
「ペップさんなら、多重に封印を施して
しかも深い眠りを与えています。
他の皆さんは、この小屋に近寄らないように
少し、催眠をかけさせていただきました」
「……完璧だな。分かった」
もうこれはアレである。
天界の主が、ここまで慎重に慎重を期して
来たということは、この世界へと来てから
とうとう初めてのアレだな。
これはもう間違いない。
俺は迷わずにバムを抱きしめる。
「……誰でもいいんですよね?」
「……そんなことはないよ」
確かにちょっと前に、そんな気持ちにもなったが
今は違う。バム一筋である。
「……ダメな人……」
バムはそう言いながら、俺にベッドへと
押し倒された。
柔らかい唇に、俺の唇が触れる。
身体に手を伸ばそうとした瞬間
暖炉の炎に照らされた
ベッドの周囲の空間に六つほどの穴が開いて
中からそれぞれ
「ぴぎゃあああああああ……エッチなのはいけないにゃあ……」
「バムスェル様、あたしたちを差し置いて抜け駆けはいけませんねー」
「バムさんはきっとこう来ると冥王様が教えてくれたのですよ」
「あ、あの……なんで私もこんなところに……バムスェル様、む、虫にしないで……」
「面白そうじゃから、わしも来てみたぞい」
五つの穴からそれぞれ仲間たちが出てきて
少し離れた六つ目の巨大な穴からは、紫色の大きな右手が
出てきて、煌びやかな指輪の嵌った中指で
ファックサインを俺たちに出してきて
そしてすぐに引っ込んだ。
「め、冥王……くっ、この非常事態に私で遊ぶとは……」
バムは顔を真っ赤にして、布団に身体を隠したが
すぐに手を伸ばしてきた目が赤く光っている
ペップから捕まえられて、穴の一つに引きずり込まれて行った。
「あ、あの……バムは大丈夫なんでしょうか……」
皆に俺は尋ねるが、それより先にファイナとピグナに
無言で凄まれて、何も言えなくなる。
やがて全ての穴は消えて
マクネルファーとパシーは小屋から出て行った。
い、いや俺がなにしたって言うんだよ!
なんでこんな大掛かりな仕掛けで
お前ら、俺を取り合ってるんだよ!
おかしいだろ!普通に女子と付き合わせて
いや、突き合わせてくれよ!そろそろいいだろ
女子二人に睨まれ続けながら
心の中で俺は咆哮していた。