転生喰いの星
「今のところは、以上です。
ゆっくり休んでください。
ピグナさんは、予想より変異に時間がかかっていますね。
放っといてあげてください」
バムはいきなり俺に顔を近づけて
唇にキスをすると、スッと消えた。
どうやら話は終わったらしい。
ピグナのことは気になるが、それより衝撃的な話を
聞きすぎて精神的な疲労感が凄い。
小屋の端に置かれた大きなベッドで寝ることにする。
次に気付くと
俺は真っ白な人型になっていた。
自分の身体はまるでペラペラの何も描かれていない紙細工のようだ。
辺りは虹色の流れが幾つにも分かれて
三百六十度それぞれの方向へと流れていく。
流れの中には俺と同じような人型が
沢山入っていて、様々な方向へと流れ、消えていく。
「……ふむ……転生……喰いの……星か……」
途切れた少女の声が背後から俺に声をかけてくる。
振り返ってもだれもいない。
「……怯える……な……貴様……戻す……」
戻すって何を?と頭の中で問うと
「……魂が……半分……迷ってる……。
……恐らくは……無茶な……蘇生の……せい……だ……」
途切れた声の少女は
「……キメ文句……大事……試して…てみよう……
クルクル……パシッ……いや……これは……
まだ……取って……置こう……ストック……も大事……」
意味不明なことを話しかけられまくるので
戸惑って辺りを見回していると
「……戻れ……善なる……魂よ……彼の星の……
……逆行を……防ぐ……のだ……」
その瞬間に、俺の足元にポッカリと
穴が開いて、そしてそこへと有無を言わさずに
吸い込まれていく。
同時に意識を完全に失った。
深い深い、夢にまどろんでいたような気がするが
起きると、何もかも忘れていた。
「んー……」
隣には髪の毛がボサボサのピグナが寝ていた。
微妙に触れている部分が柔らかい。
タオルケットに隠れているが
何も着ていないようだなと、用心して
それ以上触れないことにしながら
ベッドから出ていく。
床に垂れていたピグナの体液は消えている。
本人が綺麗にふき取ったのかなと
窓際のテーブルに盛りだくさんに置かれている
果物や、水差しに入ったジュースを見つけて
ガツガツと食べ始める。
食べていると、静かに小屋を開けて
ファイナと、ペップが入ってきた。
そして食べている俺を見つけると
「おはようだにゃ!」
「おはようですわ!バムさんはもう帰ったのですね?」
二人に昨日聞いた話の要点と
ベッドで寝ているピグナが成り上がりを施されたと
伝えると、ファイナが驚いて寝ているピグナを見に行く。
そして手をかざして
「た、確かに身体から放たれる雰囲気が
清浄なものになっていますわ」
ペップは何でも無さそうに
「けっこう前から、悪魔っぽいゲスさは
殆ど消えてたにゃよ?私は驚かんにゃ」
そう言いながら自分も椅子に座って
フルーツを口にポイポイ放り込みだす。
ファイナは俺の隣に座ってきて
「あの、しばらくはモルズピックで
息をひそめていろと、私は冥王様の使いの悪魔から
言われました」
「バムは、永劫食王と対決しろ以外は言ってなかったな……」
「つまり、今のところ、何も言われてないにゃ?
じゃあ色々と忘れて、しばらくバカンスを楽しまにゃいか?」
のん気なペップに
「良いんだろうか……」
ファイナは少し考えてから
「良いと思います。恐らく決戦のお膳立てをバムさんと
冥王様が整えるのでしょう」
「決戦終わった後に、生きてるか怪しいし、今楽しんだ方が得だにゃ」
「……確かにな」
ただ事で済まないのは分かる。
「あ、あの……近くの滝で水着パーティーとか……」
ファイナが顔を真っ赤にしてペップに言ってきて
絶対、例の文句が来るだろうと身構えていると
「良いにゃ。ただし、エッチなのはダメだにゃ。
あくまで皆で、水着を着て健全に楽しむだけにゃ」
ファイナは小さくガッツポーズをして
俺をチラッと意味ありげに見てきた。
何か考えがあるらしい。
とりあえず頷くと、嬉しそうに軽く頷き返す。
大丈夫だろうか……。