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人知どころか、天使や悪魔をも超えた謎生物

「お水をどうぞ」

バムは水差しをコップに注いで

そして俺に渡してきた。

受け取って飲む。旨い。

「まだ感覚が新鮮だと思います。

 そのうち馴染んで元に戻るので」

「ありがとな」

バムは、はにかんで

「いえ、当然のことをしただけです」

そう言うと、真剣な顔に戻り

「では、話しますね。永劫食王のやり口について」


「ゴルダブル様も見た通り、グルネルの本体は

 真黒な異形です。人型に近いですが

 あれはこの惑星、そして冥界や天界の生き物ですらありません」


「いっ、一体何なんだ……」

「本人から話を聞いたことがあるのですが

 ある時、目覚めると沢山の壊れた機械に囲まれていて

 そしてそれを押しのけて出ると

 この星に来ていたそうです」

「異星人なのか?」

「……それも考えたのですが、あのような

 生態系を持つ、生物が他に居るかと思うと……」

「生物ではあるんだな?」

「はい。天使や悪魔や神々のような超生命体では

 ないです。しかし、我らを凌駕する力を

 グルネルは持っています」

「た、例えば?」


「北の果てで、岩の巨人をゴルダブル様は見たでしょう?」


「バムも知っていたのか……いや、当然かな」

天使たちの会長とか、天界を統べるとか言っていた。

「はい、当然分かっていて黙っていました。

 申し訳ありませんが、話を進めますよ?」

「いいよ。気にしないでくれ」

バムは軽く頭を下げると


「彼らがゴルダブル様に語ったように

 グルネルは、我らの知覚世界を変質させる力を持っています。

 あれは食王の力だと、一部では思われていますが

 本当はグルネル個人の特殊能力なのです」


「例えば、この世界の人の味覚を変えた様に?」

食王になるから味覚を変えられるんでは無くて

あいつが変えていただけなのか……。

「そうです。なので、我ら天使や悪魔たちでさえも

 食王には簡単に逆らえません。

 例えば私の認知を完全に歪ませて

 狂ったようにすることもできます」

「バムでもか……じゃあ、冥王でさえも?」

「そうですね。しかし、彼は用心深いので

 決して、食王の見える範囲には全身を現しませんが」

「奥さんが来ちゃってたけど……」


バムは向こうで震えながら体液を噴き出して

身もだえているピグナを見て


「相当に苛立ってたんだと思いますよ。

 食王に、高品質な餌を与えるような動きをしている

 ピグナさんに」


「え、餌ってつまり、俺の仲間たち……」

「そうです。それに加えてゴルダブル様が成長するような

 高い経験値も餌となりえます。

 ピグナさんは冥王たちの目論見に反して、有能過ぎたのです。

 なのでマーズラーヴァ王を遣わして

 近くで監視しているはずの私の様子を探らせに来た。

 それがあの行動の真相です」

「監視しているのか?てっきり、使われているのかと……」

塔の中では、命令を聞いていたようなそぶりも見せていた。



「私は冥王と組んで永劫食王を排除するための罠を

 ずっと張っていました。今もその最中です」



「ちょ、ちょっと待てよ。ピグナが有能過ぎたとか

 そっちも訊きたい」

バムは微笑んで

「私との作戦の一環なのですよ。わざと無能な者を

 つけてゴルダブル様に、無駄で低質な経験を積ませ

 早期の食王の復活を阻止する」

「つ、つまりファイナがあの時に召喚することまで……」

「申し訳ないですが、私が分からないように

 誘導させていただきました。当初は

 その召喚も含めて、全て計画通りだったのですが……」

バムは苦笑いしてピグナをまた見る。

その意味は理解できた。


「ピグナが有能過ぎて、バムがおかしいと見破ってしまったと……」


「そういうことです。中の下クラスで知性より煩悩の割合が多い

 悪魔をという私の要望に応えて

 冥王夫妻が、密かに選別した者だったのですが……」

バムは言い淀んで

「……が?」

「ゴルダブル様に好意を持ったことで

 彼女の中に密かに眠っていた才能が開花したようです。

 私を見破った後も、彼女はゴルダブル様を見事に支えきりました」

「えっと、つまり、俺を好きになったから……」

「そうです。あの子も、ひたむきなゴルダブル様に……」

バムはそこで頬を真っ赤にする。


しばらく沈黙が続いたので

「あの……いつもなら嬉しいんだけど……」

いつもなら、ここからどうやってベッドまで

持ち込むか考えるところであるが、今は非常事態だ。

「そうですね。私も時間がありません。

 話を先に進めますね」


「ピグナさんの有能さで計画にかなり狂いは生じていますが

 無事に、ゴルダブル様と永劫食王の切り離しは済みました。

 そして仲間のみなさんも救出して保護した。

 ここまではいいですね?」

「実体験だしな……」

「前置きが長くなり過ぎましたが

 永劫食王のやり口について、これから語ろうと思います」

「頼みます……」

俺は姿勢を正して聞くことにする。


「永劫食王であるグルネルは身体の寿命が近づくと

 自らの体液を固めて、分厚い殻に閉じこもり

 "転生"の準備に入ります。

 そしてちょうどよい"皮"を見つけると

 空っぽになった殻が割れるのと同時に

 この惑星のどこかで"皮"の中身として

 グルネルは転生します」


「つまり、俺が"皮"だったということだよな?」

「その通りです。今回、選ばれたのはゴルダブル様でした。

 その後は、ゴルダブル様が知っての通りです。

 "皮"に新たな食王になるための旅させて、単体で動くために

 必要な栄養素が溜まりきると

 グルネルは"皮"を脱ぎ捨てて、

 ワールドイートタワー内部へと再び姿を現します」

「いつもはどのくらいの期間なんだ?」

「最速で、二か月。最長で三十年という時もありました。

 グルネルの寿命は"皮"の中に転生してから

 ピッタリ百年なので、脱ぎ捨てるまでの時間が長いほど

 平和な時間が続きます」

「そうか……俺も早い方だったんだな?」

「はい。予定より二十年は早かったです。

 グルネルとの付き合いも長いので、ある程度

 私と冥王で出現時間もコントロールできるようになっていたのですが……」

「ピグナの有能さで大幅に狂ったと……」

「ですね。けれど、良い意味の副産物も多いのですよ。

 高い経験値を有能な仲間たちと蓄えられたので

 ピグナさんも含めて、短期間で相当に成長しています。

 なので排除作戦開始を二十年早めることにしました」

「……な、なあ、その言い方だと……」

次に何が言いたいかはわかる。

バムは頷いて



「はい。ゴルダブル様とみんなには永劫食王グルネルに

 挑んでもらいます」



やっぱり、そうなるよね……。

と俺はうな垂れた。

人知どころか、天使や悪魔をも超えた謎生物に

俺と仲間たちはこれから立ち向かうことになるらしい。

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