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成りあがり

酒を飲み過ぎたせいで、

体に思うように力が入らずに、マリアンヌ帝に

瞬く間にお姫様抱っこされて

「ご、ゴルダブル君たすけ……」

呻きながら情けない顔で小屋の外へと

連れ出されていくマクネルファーを

俺は微かに揺れながら見つめる。


マクネルファーが居なくなって

どうしようもないので

しばらく暖炉の火を見つめていると

「あの、ゴルダブル様……」

背後から辛そうなピグナの声がした。


「あたしですね……あの、もう冥界に帰ろうと

 思います……」

何も言えないのでピグナの声を聞くしかない。

「どこか、冥界の奥地でひっそりと

 独りで生きていきます……あたしの能力では

 このままじゃきっと、みんなからいつか……」

ピグナのすすり泣く声を聞きながらも

声も出せないし、身体も動かない。


「だから、あの……最後に

 足先でいいので、キスさせてください」

「……」

何か、何か言ってやらないと

このままピグナが去ってしまうと

必死に言葉を出そうとしていると


いつの間にか目の前にバムが立っていた。

以前と同じ、皮パンと皮プラ姿である。

「バムちゃん……いや、バムスェル様……」

バムは黙って、俺へと歩み寄ると

「骨格に臓器と肉付けをするのに

 少し手間取って待たせてしまいました。どうぞ」

俺の目線に向けて手を伸ばすと

辺りが真っ白な光に包まれだした。


途端に俺の身体中に感覚が戻っていく。

重さに耐えきれずに

俺を干していた洗濯糸が切れると

そのまま床へと着地した。

「あ……ああ……声が出る」

立ちあがって両手を開け閉めして

感覚を確かめていると

バムが抱きついてきた。


「とても長いこと、辛い思いをさせてすみません。

 だけど、どうしても必要なことだったのです」

「……いや、いいよ。気にしないで。

 マクネルファーから話は聞いた」

「まだ、大切なことをお話ししていません。

 それと、良かったら服を……」

顔を赤らめたバムは、俺に真っ白なローブを

渡してくる。慌ててそれを着ながら

背後を振り返ると、ピグナが扉から

去ろうとしていた所だった。

駆け寄って、腕を掴む。


ピグナは首を横に振って

「ダメ……で、す……あたし、ここに居たら……」

たぶん離したら二度と、姿を現さないのは

分かっているので、半ば無理やり小屋の中へと

引っ張り込んだ。

バムが近寄ってきて

「本当に、自分には居場所がないと思っているんですか?」

とピグナに優しく話しかける。


「で、でもあたし悪魔としては無能だし……

 バムスェル様や、皆様のように凄い力も……」

バムは微笑んで

「あの時、あなたが私の正体を見破ってくれなければ

 もっと早く、前食王がゴルダブル様の皮を脱ぎ捨てて

 この世界に復活していたかもしれません。

 とても感謝していますよ」

「そうだったの?」

俺が驚いて尋ねると、バムは頷いて

「あなたが居たからこそ、ゴルダブル様は

 私のいない旅路も、順調にここまで成し遂げることができました。

 天界を代表して、お礼を申し上げます」

一瞬、背中に神々しい八枚の羽根を出したバムが

ピグナにひざまずいて、深く頭を下げる。


次の瞬間、なんとピグナは鼻血を垂らして

口から泡を吹きながら、両目から大粒の涙を流して

声を出さずに嗚咽し始めた。汗も大量に全身からあふれている。

さらに、激しく全身が震え始めた。

「だ、大丈夫なのか……」

バムは微笑んで

「"成りあがり"の前段階です。

 悪魔も天使も上位の者に真に認められれば

 階級が上がるのですよ」

「で、でも、バムは天使たちの会長なんだろ?

 ペップが言ってたぞ?」

バムは微笑んで



「天使を悪魔に堕天できるように

 その逆もまた、可能です」



「つ、つまりピグナを上位の天使に?」

「冥王夫妻に嫌われて、冥界に居場所がなくなった彼女を

 助けるにはこれしかありません」

さらに激しく、全身の体液を噴き出しながら

震えだしたピグナにオロオロしていると

「心配ありませんよ。むしろ今、手を出してしまうと

 失敗する可能性もでてきます。

 ピグナさんが成りあがる間に、少し話しませんか?」

「う、うん……」

バムは信用しているが、本当に大丈夫なのかと

思いつつ、バムと共に小屋の窓際の

テーブルに隣り合って座る。


バムは俺の顔を見ながら


「前食王、いえ、永劫食王である

 ビシャンダオ・ベズルバ・グルネルのやり口について

 お話ししなければなりません」


そう真剣な顔で言ってくる。

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