突破
号泣しているパシーを
できるだけ見ないようにしながら
ファイナとピグナは縄を引っ張っていく。
気力を取り戻したマクネルファーが
「地下空間への入り口ならばここじゃぞ」
と聖堂の祭壇の裏に敷かれた
豪華なカーペットを引きはがした。
床に現れた金属製の開き扉を見て
「おお、じいさん、さすがだにゃ。
案内たのむにゃ」
「この方には、中に入ってから尋ねましょう」
ペップが号泣しているパシーの首筋を叩いて
気絶させると流れるような動きで背負う。
マクネルファーは懐から鍵を取り出して
床のとびらを開けた。
ギギギギと金属が軋む音がして
左右に開いた扉の下には金属製の階段が続いている。
皆で降りていこうとすると
マクネルファーが制して、先に階段を降りて
そして明かりをつけた。
「電気を通しておる。ここ十年ほどは使わなかったが
機械人形たちがまだ居たころはここから
かなり金属を運び出したからのう」
下からそう言ってくるマクネルファーの方へと
皆で階段を下りていくと
広大な地下空間が、広がっていた。
足元は全て鉄くずや、壊れた機械の部品である。
「確かにいくらでもあるね……」
「そうじゃろ?いくら掘っても尽きんかったのは
不思議じゃったが」
「この天使がきっと答えを持ってるにゃ」
ペップはパシーを降ろして、胸元を軽くついた。
パシーは大きく息を吸い込んで
両目を見開いて俺たちを見て
「あっ……あの私寝てました?」
いきなりボケてきた。
「私が気絶させてたんだにゃ。
いいからとっとと、この場所の次のフロアへの
通路を教えるにゃ」
パシーは広大な空間を見回して
「……えっと、あそこが階段ですよね。
それから、大体二百メートル北へと行った先だから」
ある方向を指さしてきた。
ピグナがため息を吐いて
「あのさ、北なら反対側だよ?
あたしたちをおちょくってる?」
「いいいいいえいえいえいえいえいえ、そ、そんなことは……」
パシーは涙目になって、慌てて首を横に振っている。
「ポンコツ天使だにゃ……」
「使えませんわね……」
「そうだのう……この子の言ったことを我々で
確認しないとあぶないのう」
「だな……」
ピグナが、階段を下りた場所から
正確に北に二百メートル測って、そしてその下に埋まる
機械をペップが気功弾で一挙に掘るということになった。
「じゃあ、いくにゃ」
皆で十数メートル離れて見守る。
ペップは深呼吸して、いきなり全身に黄金闘気を纏うと
「星光爆裂集束……えっと……なんだったからにゃ……
まあ、いいや!スーパー穴ホリホリ弾!!」
両手を合わせて、光る闘気を足元へと放射した。
足元の機械は瞬く間に溶けて行って
深い大穴ができる。
近寄って行ってすぐに
「あの……その技名は……」
やめとけばいいのにパシーがペップに尋ねてしまう。
「技名忘れたからアドリブでつけたにゃ。何か文句でも?」
ペップから睨まれて、パシーが涙目になって
必死に首を横に振る。
「リアクションがいちいち面白いですわね……」
「そうだね……悪魔心をくすぐるね……」
ファイナとピグナは、パシーの結ばれた縄をもって
後ろからその背中をチラチラ見て
頷き合っている。
ペップが開けた大穴を皆で見下ろすと
底の部分に、聖堂と同じような金属の扉が見えた。
「急いだ方が良いのう。恐らく、一時間かからずに
元に戻るはずじゃ」
「そうにゃのか?」
「うむ。補充されるんじゃよ。取り出した分だけ」
「でも深いですわよ?」
三十メートルくらいは底である。飛び降りるのは危険だ。
「いいのがいるじゃない」
ピグナが縛られているパシーを指さした。
逃げたらペップが即撃ち落すと脅して
縄をほどいたパシーに底への送迎係をやってもらうことにした。
天使の羽根で飛べるので、スムーズに全員底へと降りて
そして金属の扉を開ける。
中にはまた金属の階段が続いていた。
「で、では私はここで……」
さっそく逃げようとするパシーを
ペップが素早く捕まえて
「……もちろん一緒に行くよにゃ?」
と怖い顔をして肩を組む。
「で、でででででもでも、天使の仕事が……」
「パシーちゃん下級天使でしょ?
あんな仕事いくらでも、代わりがいるじゃんか。
帰ってこなかったら新しい天使を作って補充するだけだって。
それよりも、あたしたちと来れば
もっと楽しいかもよ?」
「い、いえ……しかし、大天使様が……」
「ほら、行きますわよ」
ファイナとペップから両肩を組まれて
パシーは涙目で階段を一緒に降りて行った。
マクネルファーがため息を吐いて
「突破まで、半日かからんかったのう。さすがじゃわ」
俺はふと勘付いたので、寂しそうな彼に
「……先に来たマクネルファーにも、もしかしたら何か意味が
あったんじゃないかな」
「どういうことじゃ?」
「大木の周りに魂がたくさん飛んでたんだけど
虫とか人間とか花とかばっかりで
ロボットは居なかったけど」
「うんうん。じいさんはもしかしたら
そういうさ迷える魂をロボットに宿らせてたんのかもしれないよ」
残っていたピグナが代わりに言ってくる。
「そうなんかのう……」
「だとするなら、ここはロボットに宿った魂たちにとっては
天国の代わりだったかもね。滅びちゃったけど
一時は救いだったんじゃないの?」
「……まあ、そうだと考えるか……」
俺たちはカンテラを点けて階段を下りて行く
背後では、ゆっくりとひとりでに扉が閉まった。