パシー
「なっ、なんと、わしが千年かかっても
わからんかった、答えを……たった数時間で……」
起こされたマクネルファーは驚愕している。
「じいさん、大木の問題解いてないからにゃ。
わからなくて当たり前だにゃ」
「気を落とさずに」
ペップとファイナが即座に励ますが
「ううむ……わしの千年は……」
落ち込むマクネルファーを交えて
聖堂の床にシートを敷き、そして食べ始めた。
「しかし、綺麗じゃなぁ……」
聖堂のステンドグラスから差し込む
光をマクネルファーは見上げる。
「太陽の光じゃろ?千年ぶりじゃわ」
「まだ出てみないと分からないけどね」
「そうだにゃ。実はここに来る前に
物凄い罠があったにゃ」
ペップがマクネルファーに階段のことを話している間に
どうするか話し合う。
ピグナは裏口から出るか、教会の廊下の窓から
外をうかがって慎重に行った方が
良いんではないかと言ってきて、
その案を採用することにした。
食べ終わり、荷物もまとめて
まずはファイナとピグナが
廊下へと出て、外の様子を伺うことにした。
走って戻ってきた二人は
「なんかおかしいよ。外の墓石には光なんて射してない」
「間違いなくそうですわ。おかしいですわ」
「ふむーならば裏口から出てみるかの?」
全員が賛成したので
こっそりと裏口から出て
教会から遠ざかり、その尖った屋根を背後から
全員で眺めるとなんと
大型の照明器具を持った、背中から真っ白な羽根を生やした
金色の長髪の女性が
教会の上で羽ばたいて、ライトを照射していた。
当然外は小雨が降りしきる中である。
重い上に寒そうだ。
「なにあれ……」
「あれをする意味が分からんのう……」
「ファイナちゃん、用心のために魔法陣描いといてくれにゃ。
私が捕獲してくるにゃ」
「分かりましたわ」
ペップがそう言ったかと思うとすさまじい勢いで
教会の外壁を登っていき、そして協会の屋根を
駆け上がったかと思うと、その上を飛んでいる女性に
取りついて、気絶させて
照明器具ごと、こちらへと抱えて持ってきた。
照明器具はマクネルファーと
羽根の生えた女性はピグナが確認する。
「ああ……天使だね。でも下級天使だよ。
奇跡とか起こせないし、あたしの悪魔パワーみたいなのも
ないやつだ」
顔も特徴のない感じだ。普通の人だったら
印象に残らないと思う。
「こっちは普通の機械じゃな。
大型の照明器具じゃよ。特別なものではない」
ファイナは足で地面に描いた魔法陣を消し始めた。
危険はないと判断したらしい。
「おい、起きるにゃ」
用心のために縄でぐるぐる巻きにされた天使が
ペップから頬を軽く叩かれて起こされる。
「あっ……あれ……なんで捕まってるんですか?」
「お前が怪しいからだにゃ。
目的を話さにゃいと、痛い目に合わせるにゃ」
ペップの凄みを聞かせた声に天使は震えあがって
「あっ、えええ……いや、私は、正解した挑戦者の方を
次のフロアへとお連れするようにと、大天使様から言われまして……
それで、言われたとおりに、持参した照明を……」
「それは本当ですの?」
「あたしたち、罠で本気で殺されかかったし、この爺さんは
ここで千年も無駄に過ごしたんだけど?」
「い、いや無駄には言い過ぎじゃぞ……」
皆から睨まれて天使は涙目になりながら
「ほ、本当ですよぉ……私に皆様を騙す力なんてありませんし……」
「……それは少なくとも本当だね。で、これから私たちを
どこに連れていくの?」
「きょ、教会の下です。そこに次のフロアへと
導く扉が……」
「もしかして、それ、機械の鉄くずが大量にある場所かの?」
「そ、そうですよ。それで隠していて……こっ、殺さないで!」
いきなり天使は号泣し始めた。
マクネルファーはまた愕然とする。
次のフロアへの答えは最初からすぐ近くにあったようだ。
「ちょっと警戒しすぎたかな」
「でもまだ安心したらダメだにゃ。ウソ泣きかもしれんからにゃ」
「縄は縛ったままにしましょう」
「ご、ゴルダブル君、肩を貸してくれんかな」
「いいよ」
俺は力の抜けたマクネルファーに肩を貸して
ファイナとピグナが縛った天使の縄を引っ張って
ペップが荷物を全て背負い、教会の中へと戻っていく。
「名前はなんて言うんですの?」
縄を引っ張りながら、ファイナが天使に問う。
「正式名称はありません……私は嫌いなんですけど
皆からは、パシリから二文字取って、パシーって言われています」
「立場が弱いんですのね」
「で、パシーちゃんはどの大天使から命令されてきたの?」
「言えないんです……こっ、殺さないで!」
またパシーは号泣し始めた。