気持ち
「お墓とかへのお供え物って気持ちが
大事だと思いますの」
「そうだにゃ。おいしさよりも
どっちかと言うと、色鮮やかだったり
故人が好きなものを考えてお供えするにゃ」
「あたしにはよくわかんないけど
つまり、色鮮やかでこの上に飛んでる
霊魂たちが好きなものを作ればいいんだね?」
「そのためにはリサーチが必要だにゃ」
「どうするんですの?」
「直接尋ねるにゃ」
ペップはジッとピグナを見つめる。
「……はいはい。分かったよ。
できるか分かんないけど調べてみる」
俺はずっとトレーナーパイセンに見守られて
腹筋をしているのて話に全く加われないが
心の中て同意しておいた。
ピグナが大木の幹の周囲を漂う
多数の光の玉を眺めて
「うー……人間、人間、虎かな。
植物……虫、虫、虫、犬……」
しばらくブツブツと呟いてから
「あのさ……食べたいものを一まとめにするのは
たぶん無理だよ」
「色んな死者がいるにゃ?」
「うん。人間だけじゃないからね」
「どうしますか?」
三人は腹筋を続けている俺を見てくる。
「よかたい。五百ばい。次は背筋千五百たい。
あんたの筋力が回復したころに、また来るばい」
トレーナーパイセンは消えた。
俺はその場に寝転んで、しばらく深呼吸し続けて
「い、一応聞いてたけど、もう
これは自分たちの気持ちを料理で表すしかないんじゃないか?」
三人は黙って頷いた。
味よりも色鮮やかで、見ていて
救われるような気持ちになる料理を作ろうと
ペップが言い出して
その曖昧な目標へ向かって
とりあえず、作っていくことにする。
「一応、食べられるものがいいよね?
色だけの料理なら、毒物使えば
結構鮮やかにできるんだけど……」
ピグナが、色とりどりの十本ほどの小瓶を荷物から取り出して言う。
「いつの間に、そんなに集めたんだよ……」
「後々必要かなと思って」
さすが悪魔である。
「しまってくれ……それなりの味で
見た目もいい料理を作ろう」
その後、赤、黄色、緑などの色とりどりの甘い団子や
色味をつけた酒を俺たちは協力して造り上げる。
団子も酒も、一応ファイナ監修で
不味い方の味覚バージョンも作った。
気持ちが大事ということで、考えられる気遣いは
全て入れ込んだのだ。
それらの料理を大木の根元へと
ペップが闘気で近くの木々の枝を切って
組み立てた即席の祭壇へと祭る。
そしてエルフ式の、死者への弔いの言葉を
皆で一斉に読み上げたり
ハイキャッター式の
先祖である猫への敬意を示す
四つん這いでの墓参り
さらに俺の知っている手を合わせて
頭を下げる日本式のやり方から
仕舞いには悪魔の死者を憐れむ
派手な踊りまで、全てやりつくして
お供え物に弔いを捧げるが、
何も起こらなかった。
料理作成からだとすでに半日かかっている。
虚脱感で全員で座り込む。
「気持ちはつくしたよにゃ?」
「そうだね……これ以上はもう無理でしょ……」
「疲れましたわ……」
「あ、あれ……?」
俺が指さす先、
漂う無数の光の玉が一気に大木の幾つものウロの中へと
入り込み始めていく。
皆で黙って見上げていると
一番下のウロの中から、ペップを連れ去ったのと
同じものらしき、真っ白に発光する光の腕が
お供え物まで伸びてきて、そして巨大な手のひらで一気にすべて
かっさらってウロの中へと持ち去っていった。
しばらく唖然と見つめた後に
「も、もしかして成功したのかな?」
「わからないな……」
「休憩しにゃいか?」
「そうですわね、わたくしたちのご飯も作りましょう」
皆で食事を作り、それをほぼ無言で食べて
それでも何も起こらないので
しばらく休憩ということになった。
ファイナとペップはテントの中で寝始めて
俺は塗れない場所に敷かれたシートの上で
座って大木を見上げる。
隣にピグナが座ってきて
「あのさ……」
何かを言いたそうな顔をする。
「この身体、実はゴルダブルのために作ったんだよね。
でも男に見えてたり、
モザイクがかかって見られなかったんでしょ?」
「いや、もういい」
ファイナとセットなら興味はあるが
ピグナ単独だとただの悪魔である。
女子としては見れない。
「……もうよくない。ちゃんと見てよ」
「いや、いいって……」
脱ごうとするピグナを必死に止めていると
いきなり辺りに地鳴りがし始めた。