お供え物
押し倒されて目を瞑った。
柔らかい……そしてあったかい。
さらに頬にキスの嵐である。
いやー役得である。
完全に役得だ……。あとはペップが
なかなか戻ってこなければ……。
とファイナたちの顔を見ようと
両目を開けると、知らないモヒカンで
マッチョな浅黒いおっさんが、俺の身体の上を
裸で這いまわっていて
吐きそうになる。
ふ、二人は……慌てて辺りを見回すと
両手を組んで不機嫌そうな
バムが俺を見下ろしていた。
「まっ、待て!何かしただろ!」
バムを見て、慌てて叫ぶと
彼女は両手を広げて、大きなため息を吐いて
フッと消えた。
「なんですの?どうしたんですの?」
明らかにファイナの口調で
青髭の凄い方のマッチョなおっさんが言ってくる。
「ま、待て……待ってくれ……」
「待てないよぉ。ゴルダブル、私……もう」
今度はピグナの口調で骨太の顔のおっさんが
ドブ声ボイスで俺の首筋に酒臭い吐息をかけてくる。
その瞬間に脳が限界に達して
そしてすぐに気絶した。
気付くと、近くでファイナとピグナが
正座させられて、顔を真っ赤にしたペップに怒られていた。
ペップは怪我も衣服の乱れもなく
無事だったようだ。
「ダメだにゃ!何を考えているにゃ!
余計なエネルギーを使う余裕はないにゃ!
いくら私を助けるためだとしても
二人とも本気になりすぎだにゃ!」
ファイナとピグナをよくみると
今度は身体にモザイクのような霧がかかっていて
良く見えない。
「……」
ちょっと考えて、これもバムのせいだなと
いうのは分かる。たぶん二人は
何も着てないのだろう。
それを俺によっぽど見せたくないのか……。
俺が起き上がると、ペップがこちらを見て
「大丈夫だったかにゃ?」
「う、うん……」
近寄ろうとするとファイナがサッと
ペップの後ろに隠れて
ピグナが真っ赤な顔をして、
立ち上がってこちらを上目づかいで見てきた。
あ、そうか……モザイクで見えないから
無神経だったなと後ろを向いて
「あの、何か着てくれないかな」
と言うと、二人はササっとテントへと走って行った。
ペップに
「なあ、ちょっと話したいことがあるんだけど」
バムのことを話そうとすると
後ろから背中を叩かれて
「トレーニングせんね」
小柄なトレーナーパイセンが促してきた。
五分後。
体を横たえても腹筋しながら俺は
ペップにバムのことを話すことになる。
「バムが……ペップが……ふっふ……まだウロ……の
中に……ふっ……入ってた……ふっふ……時……にふっ……」
「うんうん。ゆっくり説明してくれにゃ」
バムは隣で一緒に軽々と三倍速で腹筋しながら
俺の話を聞いている。
「ふっふ……あの……大木は……違う……ふっふ……
目的で……ふっ……あると……」
「あんた、ちょっとトレーニング中断してよかたい。
ただ、話し終えたら腹筋五百回せんね」
トレーナーパイセンが中断を認めてくれた。
その場に寝転がって、しばらく息を整えてから
バムが来て、あの大木は違う目的のためにあると警告してきたのと
二人に押し倒されたが
二人がモヒカンマッチョなおっさんに見えていて
途中で気絶したというのと、先ほど
二人の身体にモザイク状の霧がかかっていて
まったく見えなかった、たぶんバムのせいだと
ペップに話をすると
「ふむ、つまりバムちゃんはエッチを憎むものなのかにゃ?」
「……いや、そうじゃなくて俺に二人の裸を
意地でも見せたくなかったんだと思う」
「……ふむふむ。つまりバムちゃんはゴルダブルが
好きなんだにゃ?でもエッチは避けていると……」
ペップは腕を組んで考え込んで
「バムちゃんをエッチ撲滅団の守護神に任命するにゃ!」
ビシッと天を指さして宣言した。
「……あの、余計な事説明しすぎた俺も悪いけど
どっちかというと、今の話の主な部分は
あの大木が違う目的のためにあると
バムが言ったことなんだけど……」
「それは些末なことだにゃ。バムちゃんが
エッチを憎んでいる。そこが大事だにゃ」
「う、うん……」
埒が明かないので、ファイナとピグナが
出てくるのをトレーナーパイセンに
正しいフォームを指導されながら
腹筋をしつつ待つ。
服を着て、恥ずかし気に出てきた二人に
バムが言ったこと、起こしたことを
全て説明すると、しばらく唖然とした後で
「そ、そうか、あたしたちは気持ち良かったけど」
「……大変でしたわね……」
どう気持ち良かったのか説明が聞きたいが
ペップが目を光らせているので聞かないことにして
「他の目的ってなんだと思う?」
そう尋ねて大木を見上げると、
二人も見上げて
「霊魂と大木がヒントだよね……」
「さっぱり、分かりませんわ」
近寄ってきたペップが少し考えてから
「霊魂、それの集まる大木、そして今までの
お題は全て、食事関係だったにゃ、つまり……」
「死者へのお供え物じゃにゃいのか?」
サラッと言ってきた。
残りの三人でペップを取り囲んで
「それだ!」「それですわ!」「それだね!」
「適当に言っただけにゃよ?」
俺たちはその場にシート敷いて
そして何を作ったらいいのか、即座に話し合いを始めた。
ちなみに俺は腹筋をしながらである。