ウロ
「おっきろにゃああああああああ!」
いきなり身体の横を叩かれて
「ぶぼっはぁああああああああ!」
俺はゴロゴロと横に転がって
茂みの中に突っ込む。
すぐにピグナとファイナが茂みの中から
俺を引っ張り出して
「大丈夫だった?」
「白目を剥いて、泡を噴き出していたので
ペップさんが、起こしてくれました」
「そ、そう……」
骨とか折れてないよな……と身体を触りながら
立ち上がる。
小雨が木々の葉を打つ音が
絶え間なく続いている。
「ご飯、できてるよ」
ピグナから手を引かれて
食事を並べたシートの上へと連れていかれ
さっそく食べ始める。
あれだけ強くたたかれたのに
身体の調子は良いようである。
ペップがテントを畳みながら
「これでみんな起きたけど、どうするにゃ?」
「森の奥に行こうと思うんだけど
ゴルダブルはどう思う?」
「いいんじゃないか?他に目立った所も
ないんだろ?」
俺が食べながら答えると、ピグナは頷いた。
「悪魔センサーも効かないんだよ。
だから、ペップちゃんの勘に頼ることにした」
「この奥だにゃ。間違いにゃい」
テントを荷物の中へとまとめながら
ペップが自信満々に頷く。
俺が食べ終わり、片付けや準備も終わると
さっそく出発ということになった。
俺はなんとなく何か大事な事を
忘れているような気がするが
きっと気のせいだろうと、思いながら
皆と、森の奥へと歩みを進めていく。
暗く薄暗い森である。
木々の葉を雨が打ち続けて
陰気な雰囲気が延々と続いていく。
「あのさ、マクネルファーは……」
ふと思い出しので、女子たちに尋ねてみるが
「じいさんなら平気だにゃ」
「気にしなくとも良いですわ」
「そうだね。どっかで楽しくやってるし
そのうち、こっちの顔出すよ。たぶん」
まったく三人とも心配していない。
いいんだろうかと思いながら
さらに奥へと歩みを進めていく。
ペップは元気よく進んでいくが
次第にファイナの元気が無くなってきた。
「だ、ダメですわ……何か力が……」
「私が背負うにゃ」
ペップは荷物と共に軽々と
ファイナを背負って、先頭をまた歩き出す。
「いい感じだね。冥界の避暑地にちょっと
雰囲気が似てるよ」
ピグナは機嫌がいい。
俺はなんとなくいまいちな自分の気持ちに
この雰囲気が合致しているので
それほど辛くはない。
フワフワとした気分なまま
ペップの背中を見て進んでいくと
百メートルくらいは高さがありそうな
巨大な大木の根元へとたどり着いた。
ペップは頷いて
「ここだにゃ。たぶんここに何かあるにゃ」
と指をさす。
太い幹には幾つもの大きめのウロが開いている。
それはもはや真っ暗な洞窟のようだ。
「登る?」
ピグナが木の上を指さすと
ペップが荷物を置いて、寝ているファイナを俺に預け
「じゃ、ちょっと頂上まで言ってくるにゃ!」
スルスルと大木の幹を登り始めた。
そして十メートルほど上に開いた大きなウロの横を
通り過ぎようとしたときに
ウロの中から真っ白に発光する
巨大な手が現れて、ペップを身体ごと掴んで
ウロの中へと瞬時に連れ去っていく。
俺とピグナは呆然と上を見上げることしか
できなかった。